※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

バブル崩壊後、日本経済低迷の中で、企業の人件費削減を助ける労働力として経営を支えたのが派遣制度だった。1999年に創業した株式会社エスユーエスは、エンジニアに特化した派遣業として正社員雇用と教育制度を掲げ、数々の最先端プロジェクトにエンジニアを送り込んできた。

充実した人材育成と現場経験にこだわり、エンジニアのキャリア形成をサポートするエスユーエスの代表取締役社長、齋藤公男氏に「新しい形の派遣」の話をうかがった。

リスクが大きくても正社員雇用と会社負担の教育を推進

ーー創業の経緯を聞かせてください。

齋藤公男:
私は23歳のとき、雇われ社長で、半導体装置をつくる会社を任されました。事業的には黒字でしたが、出資してくれた会社が倒産し、私の会社も倒産という事態に。借金を返済するために企業に就職しましたが、30代になり「迷惑をかけた人たちに恩返ししたい」と思い、創業を考えました。

自分自身で責任を持つという意味でも、自己資金で創業したいと思ったのです。今までの人脈を活用でき、かつ人件費のみで立ち上げられる、半導体装置の開発の請負と、エンジニアの人材派遣業で創業しました。

ーー人材の教育に注力してきたそうですね。

齋藤公男:
人材を安定的に確保するため、未経験者を自社でエンジニアとして育てる方法を考えました。正社員で雇用して、会社負担でイチから教育し、社員は給料をもらいながら教育を受けられる方法です。「SUSシステム」という教育システムを開発し、入社したらまずそのSUS教室で、パソコンやプログラムの知識などを学んでもらいました。

これは、リスクが大きすぎるという理由で、どの派遣業者も採用しなかった方法でした。仕事がとれなくても社員の雇用保険を払い続けねばなりませんし、教育だけ受けて辞められてしまう可能性もあります。実際、損失も大きかったのですが、毎月応募者が何百人も集まったので、多くの受注に対して教育した人材を派遣でき、1年目から黒字になりました。

当時、就職などの場面では、派遣という働き方が避けるべきものと見なされることも多くありました。しかし、この教育システムで2003年には京都市ベンチャー企業目利き委員会のAクラスに認定され、関西ニュービジネス協議会のNBK大賞を受賞するなど、徐々に良い形で認知されていきました。

日進月歩のIT業界に対応できる人材を育てる環境づくり

ーー貴社の強みやこだわりを教えてください。

齋藤公男:
社員には、派遣先の単なるコストダウンになる仕事はさせまいと意識しています。そのためにはスキルを高めないといけません。安い仕事を絶対させないために教育するのです。

昔と違って技術の進歩が早くなり、AR(拡張現実)、VR(仮想空間)の技術が登場し、AIやIoTの最新技術によるイノベーションが注目されています。弊社では、どの派遣会社よりも早くARやVRを学び、アメリカの会社と業務提携して最新カリキュラムを取り入れるなどしてきました。またAI分野では、日本を代表する研究所長を迎えて「SUSLab」を立ち上げ、最先端技術を取り入れる環境をつくっています。

多様化する働き方の中で個人に合わせたキャリア形成をサポートする

ーー「派遣」についてのお考えを聞かせてください。

齋藤公男:
働き方が多様化し、企業に縛られず自分のスキルを活かした自由な働き方への志向が高まっています。世界的に見てもフリーランスの時代が来たといえるでしょう。現在、弊社の「社会人学校®」というシステムでは、入社時にエンジニアとしてどうなりたいか、目標を設定してもらい、それに向けて教育と仕事を提供していきます。

技術力のみならずヒューマンスキル育成のプログラムもあり、自分らしいキャリア形成をめざせるようサポートしています。

派遣のメリットは、多くの環境で経験を積める点です。弊社の社会人学校で教育を受け、さまざまな会社でキャリアを積めば、ゆくゆくは海外のフリーランス同様に活躍したり、自分で起業できたりする力が身につくでしょう。また、スキルを上げてフリーランスとなった人には、弊社がエージェントとなり、取引している企業との仲介役もします。他にも正社員としての処遇を残したまま、業績に応じた報酬を得られる制度も立ち上げました。

日本の職場環境では、なかなかこうしたキャリアは形成しにくいでしょう。エンジニアが積極的にキャリアを築くために、私たちのような存在があるべきだと考えます。派遣という立場をメリットに変えて、働き方の可能性を広げ、未来を変えてほしいですね。

ーーキャリアについて悩んでいる人にメッセージをお願いします。

齋藤公男:
入社する会社で迷っているのであれば、諦めずに理想に向かってチャレンジできる会社を選んでほしいですね。自分らしく生きて、自分の存在価値を知ってほしいのです。

過去に成功している多くの方は、自分がやりたいことを鮮明に意識し行動してきた人たちです。そこで頑張れば人生設計もしやすいし、人も助けやすいし、守りやすい。私たちは、多くの人にそれに気づかせる環境をこれからもつくっていきたいと思っています。

編集後記

終身雇用制が崩れ、働き方の多様化が世界的な潮流として押し寄せてきた現在、学びの必要性が強く意識されている。IT人材派遣において当初から教育に注力してきたエスユーエスに、ようやく時代が追いついてきたようだ。ここに存在するのは、「派遣」対「正社員」の対立項ではない。派遣という立ち位置を、社員のキャリアパスとして積極的に意識させる派遣会社。

これほど見事な逆説を思いつくのは、派遣を正社員として教育してきた同社ならではだろう。派遣はエンジニアの自己実現の道になる。齋藤社長によって、派遣という言葉のイメージが今、塗り替えられてゆく。

齋藤公男/1968年生まれ。半導体装置メーカーで開発設計を担当するエンジニアとして携わった後、人材派遣業を事業とする会社で事業責任者としての経験を経て、1999年に30歳で独立開業し、株式会社エスユーエスを設立。AI開発を展開するベンチャー企業の社外取締役も務めている。