飲料缶やスマートフォンから自動車、ロケットにまで使われるアルミニウム。軽くて丈夫、高い熱伝導率など多彩なメリットを持つ金属である。ただ、日本の製造業の不振や輸入に頼る材料費の高騰、さらに精錬時には大量の電力を使うため、環境負荷が大きいなど課題も多い。
これらを解決すべく、環境に配慮したアルミ製造の新技術開発や、製造で使用する材料の削減を展開する加藤軽金属工業株式会社。旧態依然とした社内環境の打破に挑み、革新的な取り組みを牽引する取締役社長、加藤大輝氏に事業継承の経緯や、事業内容とビジョンなどについて聞いた。
生家に根づく古い文化に「ビジョン・ミッション・バリュー」で風穴を
ーー三代目として事業継承された経緯を聞かせてください。
加藤大輝:
弊社はアルミ問屋からスタートし、アルミニウムの押出形材製造を軸に、加工、配送、組立に至る一気通貫のサービスで成長を続けてきました。私は会社を継ぐつもりはなく、企業の経営改善を図るコンサルティングの仕事に打ち込んでいたところ、コロナ禍の影響で経営状況が危ういと聞いたのです。
キャリアを手放すことに躊躇がなかったとは言えませんが、今の私があるのは創業者の祖父、二代目の父、社員や取引先のおかげです。恩返しのために事業継承を決意しました。
ーーそのときの貴社はどのような状況でしたか。
加藤大輝:
想像よりも厳しいと感じましたが、前職で培った知見を活用し、経営改善に挑みました。もっとも力を入れたことは会社の文化、風土の改革です。弊社の社員は誰もが真面目で優秀であるにもかかわらず、上長や役員に対して積極的に発言したり、自ら行動したりできる環境ではありませんでした。収益構造では原価計算やコスト管理が不正確で、適正な見積もりを出すことも難しかったのです。
そこで心理的安全性の確保のための研修を行い、全社的なコミュニケーションを深めていきました。並行して、会社が一丸となって進んでいけるよう、社員と共に「ビジョン・ミッション・バリュー」を策定したのです。
ビジョンは「寄り添AL(える)社会」。人や顧客に寄り添えるサービスを作り、「AL」が元素記号であるアルミで人々の生活を豊かにするという思いを込めています。
ミッションは「寄り添い型探し」。お客さまはもちろん、社員同士も親身になって相手の気持ちを理解しようとし、共感する。そして質の高いサービスの提供を掲げました。
バリューは、安全第一に新しい挑戦をし、情熱をもって完遂して相手を感動させるといった、会社が大事にしたい行動指針を表しています。
社員の自発的な行動により技術力が向上、コスト削減につながる
ーー社内改革の効果はいかがでしたか。
加藤大輝:
バリューの行動指針のひとつに「おもろい研究」を掲げました。研究は、社員が日々の業務で気づいた課題の改善や、新たな技術、製品の開発など、どんなテーマでも構いません。元来、優秀な社員が多く、目標に向かって邁進していく上では、自由に発言・行動してもいいという安心感があるため、次々と研究にトライしてくれました。
その成果の一例として、金型メンテナンスの仕組みを変更し、作業の円滑化とコスト削減を実現しました。これまでは製造業なのに改善提案がゼロの会社だったのです。しかし、「おもろい研究」を策定したところ、自発的に提案が上がってくるようになり、本当に嬉しかったですね。
また、弊社の強みである「小ロットから大ロットまで、短納期対応、納期厳守」をさらに強化するために、工場運営の流れを見直し、改めてバッファを作成。生産性・出荷効率が上がり、納期に余裕を持てるようになりました。数々の成果達成だけでなく、社員が自主的かつ積極的に挑戦してくれるようになったことが何よりの喜びです。
ーー社員との関わり方で、大事にしていることを教えてください。
加藤大輝:
私は社員に誠意を示し、信頼関係を築くことを大切に改革を進めてきました。社員は会社の財産ですから、人材教育や育成にも注力しています。資格取得支援やOJTのほか、読んだ本の感想文を書いて提出すれば、書籍代を半額補助する読書奨励制度は弊社ならではでしょう。さらに、本の要約サービス・flier(フライヤー)も会社の費用で使い放題です。学習意欲の高い人にはおもしろい環境だと思っています。
また、バリューの「おもろい研究」にも関連した「プロジェクト制度」も設定しました。自由にプロジェクトを立ち上げて私たちにプレゼンしてもらい、採用されたら賞与を授与します。日々の業務でも、ルーティンワーク+αの付加価値の創出に取り組む社員は高く評価し、給与に反映しています。
「新しいフェーズの創業」の今、新規事業で環境にやさしい社会を築く
ーー今後の展望を教えてください。
加藤大輝:
私のモットーは「やれることは全部やる」なので、新たな価値創出と、会社の成長持続のためには何にでも挑戦していくつもりです。その一環として、新規事業に注力しています。まず、ベンチャー企業と共同で研究開発した、アルミと異種素材との結合技術をベースに事業を拡大していく予定です。これはアルミとプラスチック、アルミと他の金属といった異素材を安全かつ環境に負荷をかけずに、ローコストで接合できる技術です。加工しやすく、高温または水で容易に分離できることも特徴です。また、弊社の技術を活かし、社員と一緒にBtoC向けのアルミ押出製品の開発を進め、EC展開も構想中です。
さらに、アルミ精錬時の電力課題解消に向けて、ベンチャー企業と共同で「レドックスフロー電池」という大容量の蓄電池を開発しました。大量の電力を使うアルミ業界を救う手立てとしてだけでなく、他の製造業界、自治体などにも広めていきたい技術です。企業の社会的責任を果たすことはもちろん、つねに新しい挑戦をし、社員がワクワクして力を発揮できる、そんな企業でありたいですね。
編集後記
「経営や自己啓発に関する本を数え切れないほど読んでいる」と、何冊かおすすめの本を教えてくれた加藤社長。現状に満足せず、読書を通じて研鑽を積む姿勢に深く感銘した。環境に配慮したアルミ製品の開発と製造技術の革新に加え、独創性にあふれた日常に役立つオリジナルアイテムの登場も待ち遠しい。
加藤大輝/1990年愛知県生まれ。慶應義塾大学卒業後、機械商社に入社。ハラル食材の輸入販売業を経て、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)の専門家紹介事業を担当。200社近くの経営改善や新規事業創設に携わり、中部エリアの責任者を務める。2020年、加藤軽金属工業株式会社に入社。本業とともにディープテックベンチャーとの協業にも注力する。