組織が複数の人間によって構成されている以上、課題があるのは当然のことであり、その解決が難しい場合がある。株式会社識学では、組織がより良く運営できるよう、ロジカルなメソッドによって問題を解決できるようにサポートしている。同社のファウンダー(創業者)であり、代表取締役社長の安藤広大氏に組織運営にまつわるアドバイスと展望についてうかがった。
課題発生のメカニズムがわかれば解決策は見えてくる
ーー起業前の安藤社長の経歴について教えてください。
安藤広大:
大学を卒業して株式会社NTTドコモ、ジェイコムホールディングス株式会社(現ライク株式会社)に勤務した後、転職する予定だった会社が買収されることになり、そのまま仕事を辞めてしまいました。そのときに出会ったのが「識学」という考え方だったのです。
ベンチャー企業に半年ほどお世話になる機会があり、そこで識学の考え方を実践してみたところ、しっかりと成果が現れました。その後、識学を基盤にしたコンサルティングを個人事業として展開することになったのです。
ーー「識学」について説明していただけますか?
安藤広大:
人間はみな、過去の経験や知識によって「思考の癖」を持っています。そのため、事実認識にずれが生じ、誤解や錯覚が起きるのです。これを組織に応用すると、誤解や錯覚が運営上の問題を引き起こす原因になります。
組織運営の問題を解決するためには、「思考の癖」がもたらす誤解や錯覚を取り除くことが必要であり、再発を防止するマネジメントの手法を導入すれば、組織の生産性を向上させることができるのです。非常に大まかに説明すると、識学は、このようなロジックをベースに置いた考え方を提唱しています。
お客さまの口コミ効果とロジカルな組織運営で事業は順調
ーー起業の経緯や経営について教えてください。
安藤広大:
顧問契約も含めるとある程度まとまった収入があったため、会社設立のときには、事業展開の目途もついていました。正直なところ、苦労というものはなかったですね。1年目で売上は1億円を超えていました。
先ほどお話ししたように、識学は組織課題に対して極めてロジカルに対処します。解決にあたっては経営者の思考改革と組織運営の抜本的見直しが求められますが、課題発生のロジックを理解した経営者にとっては受け入れやすいのではないかと思います。
その結果、識学の効果をお客さまが口コミで広げてくれました。今では、口コミよりも、Webマーケティングによる仕事の比重が大きくなっています。
ーー貴社はどのようなビジネスモデルをお持ちでしょうか。
安藤広大:
メインのビジネスは識学に基づく組織コンサルティングです。これは2つに分類されます。
ひとつは、識学の理論をしっかりと学んでいただくことです。経営者と1on1、あるいは少人数での集合トレーニングを行っています。
もうひとつは、識学の考え方を会社の制度に落とし込み、組織改善の成功率を向上させるサービスです。起業からしばらくの期間、識学を学んでいただいた後の実践についてはそれぞれのお客さまにお任せしていたのですが、それだとどうしても成果にばらつきが出てしまいました。
弊社としてもお客さまと長期的にお付き合いをしたいと考えていたので、組織運営の実践面でのコンサルティングも開始しました。
ーーその他のサービスについて教えてください。
安藤広大:
これも2つに分けて説明させていただきます。
一方は識学を導入している企業の業績向上をサポートするサービスで、もう一方は識学の有用性を証明するためのサービスです。
業績向上の場合、識学に基づく組織コンサルティングで生産性の向上に道筋をつけ、さらに優れた人材を確保するための採用代行サービスで後押しをするという流れです。ただ、このサービスは、識学の考え方を経営層以外の方にも知ってもらうことが主な目的なので、今後の展開に期待しています。
有用性の証明の方では、ベンチャーキャピタルや企業再生ファンドの事業を手がけ、国内のとあるBリーグチームの経営改善にも取り組んでいます。実は、そのバスケチームの運営会社は弊社の子会社です。チームの成績は、相手チームがあることなので簡単に成績が伸びるわけではないのですが、運営会社の経営は順調に伸びています。
組織戦略と経営戦略の二刀流で日本の再生を実現する
ーー貴社のビジネスの強みはどのような点ですか?
安藤広大:
弊社のコンサルティングには、明解な考え方の裏打ちがあります。組織マネジメントというと、人間関係の問題が関わってくるので正解がないといった言い方をする方もいますが、それはただ解決を放棄しているだけだと思います。
弊社のコンサルタントは全て識学という原理を理解したうえで、組織の課題を明らかにし、組織マネジメントの改善策を提案しています。したがって、提案内容の個人差とかクオリティの落差といったことは生じません。これは他社にはない強みだと自負しています。
ーー貴社が目指す未来を教えてください。
安藤広大:
現在、ある銀行の子会社と進めている企業再生ファンドに関する事業が大きく育ってきているので、これをさらに展開していきます。
これまで組織運営、組織改革といった領域で経営をサポートしましたが、やはり、数字の領域でのコンサルティングにも事業の幅を広げていく必要があると感じていますね。
組織運営を見直すことで生産性向上の基盤を固め、そのうえに立って経営戦略を展開するといった、コンサルティングを実践することが日本の再生につながっていきます。
その先に見ている大きな方向性は、「識学」を日本の経営のスタンダードにすることです。ロジカルな組織運営の普及を通して、一人ひとりの従業員が職場で成長でき、会社も成長する。そして日本全体が成長していくという大きな流れをつくり出したいですね。
編集後記
組織単位と経営レベルの2つの観点で、日本の各企業のより良い運営をしたいという、安藤社長のひたむきな思いが伝わってきたインタビューだった。また、識学の10年後の「ありたい姿」を明確に見据える姿勢も印象的であり、識学がどのように進化を遂げるか楽しみである。安藤社長のこれからの動きに目が離せない。
安藤広大/1979年、大阪府生まれ。2002年、早稲田大学卒業。同年、株式会社NTTドコモ入社後、2006年にジェイコムホールディングス株式会社(現ライク株式会社)入社。主要子会社のジェイコム株式会社(現ライクスタッフィング株式会社)で取締役東京本社営業副本部長などを歴任。2013年、「識学」を知り、組織コンサルティング事業を開始。2015年に株式会社識学を設立し、2019年、東証マザーズ(現東証グロース)に上場。