※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

株式会社KRIは、メーカーなど企業の研究開発をワンストップで担う受託研究の会社だ。そのユニークな事業は、世界的に見ても珍しいという。代表取締役社長である重定宏明氏は、圧倒的な技術力が同社の財産だと語る。蓄積されたノウハウを武器にさらなる発展を目指す同社の強みや、今後の展望についてうかがった。

幅広い分野のビジネスに携わり、2024年に代表に就任

ーー社長就任するまでの経緯を教えてください。

重定宏明:
大学院で化学工学の研究を行っていた時、同じ研究室の先輩が、大阪ガス株式会社で工場に技術提案を行う営業部署に勤めていました。先輩から業務内容を聞き、大学院で学んだ知識を活かしながらお客様にエネルギーシステムの提案ができ、環境に貢献できると感じたのが入社を決めた理由です。

営業部では、大阪府の有名テーマパーク向けにガスを使ったアトラクションの演出を提案したり、ダイオキシンを削減するゴミ処理場のシステムを開発・営業したりと、メーカーと連携して、お客様のニーズに対して何ができるのか考え、提案する業務に就いていました。

18年間営業を行い、次に技術戦略部に異動し、戦略マネージャーとして全社の技術開発をマネジメントする立場になりました。それまでは研究者が就いていたポジションだったため、営業出身の私にとっては晴天の霹靂でしたね。そこでは技術シーズ志向(※)の研究から、マーケットを意識した研究へのシフトやオープンイノベーションの取り組みを始めるなど、6年間さまざまな取り組みを行いました。

その後は自ら希望し、大阪ガスケミカルの活性炭事業部長として、メーカーの仕事に初めて就きました。研究開発から、原料調達、工場生産、営業、物流まで一連の仕事を経験できたので、経営についてのイロハを学ぶことができたと思っています。そして2024年4月に出向という形で、大阪ガスの子会社である弊社の代表に就任しました。

(※)シーズ志向:企業が自社の技術やノウハウ、アイデアなどを活用して、新しい商品やサービスを開発するアプローチ方法

あえて研究の権利を顧客に渡すことで安心できるしくみを構築

ーー貴社の概要と事業内容をお聞かせください。

重定宏明:
弊社は、最先端の研究に挑戦し世の中に貢献することを理念に、シーズとなる技術をメーカーに提案する国内初の民間企業として、1987年に設立されました。現在では、企業の研究開発の課題解決をワンストップで受託する民間の受託研究機関であり、世界的に見ても珍しい唯一無二の企業で、競合はいません。

これまで、2000社以上のお客様の受託研究を行ってきました。分析単体で依頼された際にも、データをもとに考察し提案を行うなど、必ず技術力をもって付加価値を提供するよう心がけています。弊社の技術領域は多岐にわたり、現在9つの研究組織があります。中でも材料・蓄電池と水素・燃料電池の分野が強いですね。

弊社の大きな特徴として、機密保持を徹底し、得られた調査・研究結果や特許をすべてお客様のものとしてお渡しする点が挙げられます。受託研究では、依頼者側と研究者側の権利関係の問題が生じがちですが、あえて権利を丸ごとお渡しすることで、お客様が安心して研究を任せられる体制を整えています。権利がなくても、ノウハウは蓄積されます。数多くの研究を通して培った技術力が強みであり、財産ですね。

ーー貴社社員にはどのような方が多いですか。

重定宏明:
弊社社員の25%は、博士号を持った研究員です。新卒採用はなく、大手企業の研究所や大学などの公的研究機関を経て弊社に入ってきた社員がほとんどですね。

特徴としては、とにかく研究が好きな点でしょうか。中には大手メーカーで定年退職を迎え、研究がやりたくて弊社に来た社員もいます。

弊社は3ヶ月〜1年間など、プロジェクトごとに期間が定められており、メンバーもプロジェクトごとに入れ替わります。さまざまなお客様と幅広い研究ができ、新しいものを開発する機会が多いという点は、社員にとって知的好奇心を刺激するかもしれません。

受託研究なので、もちろんお客様からのテーマありきですが、それに加えて社員が提案のための新しい技術開発を自分の裁量で行えますので、研究の自由な環境はあると思います。社員からも、自由さが良いという声を聞きますね。

化学の知見を武器に積極的な事業拡充を目指す

ーー今後の展望について教えてください。

重定宏明:
弊社には9つの研究組織があり、お客様の守秘の点から独立性が強く、たとえば蓄電池分野においても材料開発、蓄電池開発、解析と3組織でそれぞれの専門家が、各々受託研究を受けている場合があります。お客様起点で考えると、3人集まれば文殊の知恵ではないですが、それぞれの専門家の創意を凝らした提案のほうが喜ばれると思いますので、今までより組織間で技術連携し、さらなる新しい提案をできるよう、仕組みづくりを行っていきます。

ほかにも、事業を大きく広げるチャンスを積極的に掴んでいきたいですね。具体的には、半導体や次世代通信、カーボンニュートラルに対する研究開発への注力が挙げられます。

製造工場は必ずCO2を排出するため、カーボンニュートラルはあらゆるメーカーに関係があります。かつ、カーボンニュートラルは化学の分野なので、弊社の得意とするところです。これまでのノウハウを生かし、積極的に事業開拓を行っていきたいです。

また、採用活動も引き続き注力していきます。受託研究を行う企業は、人がすべてです。腕がありモチベーションが高い方に来ていただき、弊社の技術力をさらに磨いていけたらと考えています。

編集後記

研究開発の受託研究という唯一無二の存在でありながら、事業の拡充や社内の仕組みづくりなど、常に挑戦を続ける同社の姿勢に感動した。どんな活躍を見せてくれるのか、同社の今後に注目したい。

重定宏明/1965年大阪府生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科を修了後、1990年に大阪ガス株式会社に入社。大阪ガスケミカル株式会社の活性炭素事業部などを経て、2024年4月に株式会社KRIの代表取締役に就任。