大阪・関西万博の開催やリニア中央新幹線の開業を見据え、大規模な建築プロジェクトが着々と進み、建設業界は盛り上がりを見せている。その一方で就業者の高齢化が顕著で、若い人材が集まらず人手不足が大きな課題となっている。
そんな中、ICTの力で建設現場の生産性向上を支援しているのが、株式会社リバスタだ。これまでの常識をひっくり返し、建設業界の改革に貢献したいと事業を進める高橋社長の思いについてうかがった。
建設業界の生産性向上や働き方改革へかける高橋社長の強い思い
ーー高橋社長が建設現場での利用を目的とした複数のICTサービス開発に力を入れてこられた理由についてお聞かせください。
高橋巧:
私はもともと鹿島建設で働いていたのですが、入社した理由は「とにかく建設が好き」だという思いからです。
建設業界は日本の発展において、影響力の大きい業界であると感じていますし、設計図を元に一つ一つがオリジナルのオーダーメイドの建物を作る建設の仕事は、とても楽しいものなのですよ。
しかし、建設業はいわゆる3K(危険・汚い・きつい)のイメージが世の中に浸透していますよね。建設の仕事は唯一無二のものを創り出すことのできる本当は楽しいものなのに、それが上手く伝わっていないことにもどかしさを感じています。
建設業界で働いている方たちは、深刻な人手不足に悩んでいます。今この状況を変えていかないと、建設業界は衰退していってしまうでしょう。
人手不足のほか多岐にわたる建設業界の課題を解決するため、建設現場の生産性向上や環境問題の改善、働き方改革につながるサービスを提供しています。DXを進めるとともに業界全体のイメージアップをサポートしたいという強い使命感を持っています。
マニフェスト情報入力の煩雑さを解消する「e-reverse.com」の誕生秘話
ーーこれまでのご経歴と会社を設立された背景についてお聞かせください。
高橋巧:
当時は高度成長期で、就職先がたくさんあったなか、世の中に大きな影響を与える、そして未来を創る建設業に関わりたいと思い、鹿島建設に入社しました。仕事にはとてもやりがいを感じていたのですが、35歳の頃にサラリーマンではできることに限界があると思い、退職して自分の会社を設立しようと決意しました。
その後立ち上げた会社は軌道に乗らず失敗したのですが、その後入社した会社にて参加したある大学の建設ロジスティクス研究会で、弊社の主力サービスである「e-reverse.com」が生まれるきっかけと出会います。
そこでは建設現場で出る産業廃棄物を収集して廃棄する工程を効率的に行うための話し合いが行われていました。そこで現在の環境省が1998年に制定した「電子マニフェスト制度」について耳にしたのです。電子マニフェスト制度とは、排出事業者が産業廃棄物の処理を依頼する際に、種類や数量、運搬先、処分先などのマニフェスト情報を電子記録して処理責任を果たすためのもので、排出事業者、収集運搬業者、処分業者の3者でネットワークを介してやり取りする仕組みです。
マニフェスト情報をやり取りする際は日本産業廃棄物処理振興センターが提供しているJWNETを使うのですが、年間の産業廃棄物の排出頻度が高い建設業で利用が広まっていないという課題があったのです。
ならば自分たちで新たな機能を追加して、誰もが使いやすい「電子マニフェストサービス」を作ろうということになりました。そして開発した電子マニフェストサービス「e-reverse.com」の実証実験を進めました。現場の声をヒアリングしながら試行錯誤を重ね、実証実験に参加してくださっていた大手ゼネコン3社約15現場に好評を得るまでになりました。
その後このサービスの事業化をはじめ、そのタイミングで私が事業を譲り受けて2007年に株式会社リバスタの前身である株式会社イーリバースドットコムを創業しました。
ーー「e-reverse.com」がゼネコンの完工高売上トップ100社のうち9割以上の企業が導入するサービスになるまでに成長した理由はどこにあるのでしょうか。
高橋巧:
当時ほかにも電子マニフェストサービスを作ったところはいくつかあったのですが、実際に現場で職人たちが使うと使いづらいというような状況でした。
弊社はゼネコンの方々の声を聞き、現場で実際に便利に使えるサービスを、安価で提供しました。前述の実証実験の時にも3ヶ月間15現場で無償にてサービスを提供したところ、すべての現場で有料でも継続して使いたいというお声をいただきました。自分の作ったサービスが多くの人から支持されて、評価されることの喜びを感じた瞬間でした。
なお現在に至るまで、解約率はほぼゼロです。お客様の声に耳を傾けて、それに対応をしてきたことが、弊社が「e-reverse.com」を成長させることができた理由だと思います。
現場で働く方が本当に求めているものを共創する
ーーこれまで貴社ではさまざまな事業を立ち上げられていますが、「e-reverse.com」以外のサービスの開発エピソードについてお教えください。
高橋巧:
施工管理業務をサポートする「Buildee(ビルディー)」を開発したきっかけとなったのは、日々の調整会議を管理する鹿島建設の自社システムをWeb化するプロジェクトの話を聞いたことでした。
この話をヒントに施工管理業務を合理化できるサービスを作ろうと思いつき、鹿島建設に申し出たのです。このような経緯もあり「Buildee」の立ち上げに際しては鹿島建設の多大なるご協力をいただきました。
ーーシステムを開発される際に意識されていることはありますか。
高橋巧:
実際に建設現場で働かれている方々が求めているものを提供し、本当に使ってもらえることを重要視しています。
弊社では「Buildee」を開発するにあたり、現場で作業している方々からどのようなことにお困りなのか、問題を解決するためにどんなサービスが欲しいと思われているのかをヒアリングしました。
そして、現場で働いている方が抱えている課題を解消できるよう、サービスに反映するべく機能改善・向上を続けています。「e-reverse.com」の開発と運営においてもそうですが、弊社はお客様とともにサービスを「共創」することを重視し、そのために組織を強化しています。
一気通貫の建設現場ICTサービスで建設業の課題解決に寄与
ーー今後の貴社の目標や展開をお聞かせください。
高橋巧:
まず、既存サービスである「e-reverse.com」「Buildee」などをはじめとした、建設現場のDXを進める一気通貫のソリューション展開を目指しています。
これにより、将来的には生産性の向上、建設就業者の処遇改善・フラット構造化、業務の標準化、持続可能な開発への貢献といったことが実現できるようにしていきたいと考えています。
その展開に向け、持続可能な開発に向けた建設業のCO2排出管理サービスと、建設業を魅力的にするための建設技能者向けポイント付与サービスにも着手しています。
こういった新しい取り組みにおいても「共創」の心を忘れずに展開を進めていく予定です。
ーー組織強化をされているということでしたが、採用の際に貴社が求める人物像についてお教えください。
高橋巧:
リバスタのミッションである『「つくる」の現場から、世界を変える。』および、ビジョンである、「お客様との信頼と共創を通じて、業界に変革を起こし、未来に向けた社会課題を解決する」、これらに向けて自分は何をするべきか、どうすれば問題を解決できるのかを自発的に考え、行動できる人です。
組織で必要なのは画一的な能力ではなく、それぞれの得意分野を活かし、ウィークポイントを全員で補うことだと思います。各々が秀でた能力を持っていて、それぞれの力を存分に発揮できる組織でありたいですね。
弊社は2022年の4月に社名を変更しましたが、変更後の社名であるリバスタはリバーススタンダードの略で、常識を変えていこうという意味を込めています。この言葉にもあるように、変化を恐れず自分を変化させていける人を求めています。
また、私たちのバリューのひとつに「チームとして勝つ」とあるように、失敗を恐れず、全員でチャレンジして高みを目指していきたいと思っています。
編集後記
大手建設会社のキャリアを捨て、いくつもの挫折や困難を乗り越えながら会社を発展させてきた高橋社長。建設の仕事が好きだと話す姿からは、建設業にかける熱い思いがうかがえる。
人手不足が深刻な建設業界を新たなサービスで効率化し、ICTの力で魅力的な業種に変えていきたいという株式会社リバスタのさらなる躍進に期待だ。
高橋巧(たかはし・たくみ)/鹿島建設にて12年間、主に医薬品製造施設や物流施設の情報システム構築のエンジニアリング業務に従事。その後株式会社イー・クラッチ取締役、インシェント株式会社取締役副社長を経て、2007年6月株式会社イーリバースドットコムを設立、代表取締役に就任。