
DOUBLE株式会社は高級車向けの特殊コーティングやカーラッピング、プロテクションフィルムを主力とし、出張洗車、レンタカー、ロードサービスなど、多岐にわたる自動車関連サービスを展開している。同社は、外国人メンバーを積極的に採用・育成し、その多様性を強みに高品質なサービスを提供。コロナ禍という未曾有の危機も乗り越え、現在は海外展開を視野に入れるなど、新たな挑戦を続けている。今回は、代表取締役の神谷氏に、これまでの歩みと今後の展望について話を聞いた。
海外放浪で見えた価値観と起業の原点
ーー社長のこれまでの経歴をお聞かせください。
神谷正晴:
大学の頃はタイやインドへ、いわゆるバックパッカースタイルで旅に出ていました。それまでは小さなコミュニティの中で満足していましたが、海外に出たことで視野が一気に広がり、それまでの私の価値観を大きく覆される出来事の連続でした。
大学卒業にあたり就職活動を行い、内定もいただいていました。しかし、海外での経験から画一的な働き方ではなく、もっと自由な働き方をしたいという思いが強くなっていました。そんな時、友人から「洗車の仕事を始める人がいるから、一緒にやらないか」と誘われました。軽い気持ちで話を聞きに行くと、社長が工場の床のペンキ塗りをしている、まさに「創業前夜」。でも、その光景に「これから始まるんだ」というワクワクを覚え、合流を決意しました。
当初は給料ゼロ。アルバイトで生計を立て、午後から仕事をする日々でした。がむしゃらに飛び込み営業をしているうちにお客様は増えましたが、今度は夜中の2〜3時まで働いても仕事が終わらないほど多忙な状況に。そんな中、半分趣味で始めた当時の社長との方向性の違いもあり、起業を決意しました。
人材こそが強み。コロナ禍を乗り越え見据える未来
ーー起業されてから、特に印象に残っている出来事や苦労された経験はありますか。
神谷正晴:
直近では、やはり新型コロナウイルスの影響が甚大でした。コロナ禍が始まって1年ほどは特に影響がなかったため、楽観視していた部分もありました。しかし、弊社は輸入車をメインに扱っているため、アメリカやドイツといった自動車生産国の工場が停止し、日本への車両供給が完全にストップしてしまったのです。
先の見えない状況で、多くの人材を抱えていることが、かえって経営を圧迫する苦しい状況でした。それでも、「人材こそが弊社の強みである」という信念は揺るがず、技術研修などを続けながら耐え忍びました。
ーー苦労を乗り越えた経験から得られたものはありますか。
神谷正晴:
コロナ禍で仕事が激減した経験から、BtoB事業におけるメーカー分散の重要性や、コーティング以外のサービス(ラッピング、プロテクションフィルム、ウィンドウフィルムなど)の必要性を痛感しました。また、BtoC向けのブランド「アルファ」の展開にも、より一層力を入れるようになりました。
そして何より、コロナ禍でも雇用を守り抜き、技術研鑽を続けてくれたメンバーがいたからこそ、需要が回復してきた現在、彼らの存在そのものが再び大きな強みとなっています。
特にラッピングやプロテクションフィルムは、海外でのニーズが高い一方で、日本ではまだ専門技術者が少ない分野です。弊社にはこの技術を習得した外国人のメンバーが多数在籍しており、彼らを中心に育成を進めています。
多様性を尊重し、共に成長する組織へ

ーー外国人人材の採用や育成において、大切にされていることは何ですか。
神谷正晴:
外国人の社員を採用し始めて約8年半になります。業界内でも早い段階から外国人採用に取り組んできたと自負しており、現在では外国人のマネージャーも育ち、国籍を問わずチームをまとめてくれています。
弊社では外国人の社員を、安価な労働力として見たり、彼らとの間に上下関係をつくったりすることは決してありません。私自身、タイやインドを旅した経験から、そのような差別的な考え方が大嫌いなんです。相手がどの国の人であっても、どのような立場の人であっても、人によって態度を変えることはしません。
ネパール出身の社員が多いのですが、コロナ禍直前にネパールを訪れ、社員の実家を訪問したり、家族と交流したりする機会がありました。そこでは、まるで昭和の日本のような温かい歓迎を受け、改めて人と人とのつながりの大切さを再認識しました。この経験も、現在の経営方針に大きく影響しています。
ーー社員の評価制度や社内体制で工夫されている点はありますか。
神谷正晴:
評価制度については、社労士やコンサルタントの意見も取り入れつつ、階層に応じて評価者を明確にし、定期的な面談を通じて評価を行っています。また、経営の透明性を高めることも意識しており、マネージャークラス以上の社員には、売上だけでなく経費や役員報酬に至るまで情報を開示しています。これにより、社員が会社に対して不信感を抱くことなく、チームとしての一体感を高められると考えています。
「アルファ」ブランドとメンテナンス重視の顧客戦略
ーーBtoC向けブランド「アルファ」について、どのような戦略をお考えですか。
神谷正晴:
「アルファ」では、単に高価なコーティングを一度施工するだけでなく、その後の継続的なメンテナンスを通じて、お客様の車の資産価値を守り、常に美しい状態を保つことを重視しています。アフターフォローに力を入れることで、お客様との長期的な信頼関係を築き、LTV(※)を高めていきたいと考えています。それが結果として、口コミや紹介にもつながると信じています。
(※)LTV(顧客生涯価値):顧客が企業との取引を開始してから終了するまでの期間に、企業にもたらす利益の総額
ーー今後の採用について、どのようにお考えですか。
神谷正晴:
正社員採用だけでなく、フリーランスの方々との連携を積極的に進めていく予定です。特に洗車などの部門では、フリーランスの方々に業務委託することで、より柔軟な人材活用が可能になると考えています。
例えば、ハウスクリーニングのフランチャイズを展開している企業と提携し、そこの加盟店の方々に週1〜2日程度、弊社の洗車業務を手伝っていただく、といったモデルも検討しています。これにより、採用コストを抑えつつ、必要な時に必要なスキルを持つ人材を確保できる。これは、人材不足が深刻化する業界において、新しい働き方のモデルケースにもなり得ると考えています。
車が日本とネパールの未来をつなぐ架け橋に
ーー今後の展望や、社長が目指す会社の姿についてお聞かせください。
神谷正晴:
現在、最も力を入れたいのは海外展開、特にネパールへの進出です。車は、日本とネパールをつなぐための「架け橋」だと考えています。ネパールでは、自動車のラッピングやプロテクションフィルム、コーティングといった技術のニーズが見込まれるだけでなく、中古車市場も有望です。
また、ネパールにはまだ進出していない日本の優れた技術やサービスを紹介したり、逆にネパールの人材を日本企業につないだりすることもできる。日本の経営者仲間と共にネパールを訪れ、現地のビジネス環境の整備にも貢献したいです。
この事業を通じて、ネパールの発展に貢献し、日本とネパールの架け橋になることが、私の大きな夢であり、ここまでついてきてくれた社員たちへの恩返しにもなると信じています。
編集後記
自動車への深い愛情と、人とのつながりや海外への思いを原動力に事業を拡大してきた神谷社長。その言葉の端々からは、社員一人ひとりへの敬意と、彼らと共に未来を切り拓こうという強い意志が感じられた。コロナ禍という逆境を乗り越え、多様性を武器に新たな市場へと挑戦するDOUBLE株式会社の今後に、大いに期待したい。

神谷正晴/1982年東京生まれ。東海大学卒業。大学時代にタイやインドを放浪した経験から価値観が一変し、内定を得ていた企業を辞退。その後、友人の紹介で自動車の洗車・コーティングを行う会社の立ち上げに参画する。6年半の勤務を経て、2012年7月、29歳でDOUBLE株式会社を設立し独立。外国人を積極的に採用・育成し、その多様性を活かした組織運営を行う。現在は、国内事業の拡大に加え、ネパールを中心とした海外展開を目標に事業を推進している。