新幹線車両清掃・整備の専門会社、株式会社JR東日本テクノハートTESSEI。1952年に鉄道整備株式会社として設立されて70余年。現在はJR東日本グループの「一員」として、お客さまへ快適な旅の提供に努めている。
今回は、代表取締役社長の三村亮介氏に、社長就任までの経歴や事業への取り組み、今後の展望などについてうかがった。
30年のJR勤務で実感した「1対1の関わりを大切に」という思いを経営に活かす
ーー代表取締役になるまでの経緯を教えてください。
三村亮介:
1992年に総合職としてJR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)に入社しました。列車ダイヤや乗務員、車両など列車運行の最前線に関わる系統に配属され、若い頃は在来線と新幹線両方の車掌・運転士として乗務もしました。その後輸送指令として新幹線の運行管理、さらに現業機関の管理業務や本社・支社の計画部門など、さまざまな部署を経験しました。
30余年のうち、20年ほど在来線関係に、10年ほど新幹線関係業務に従事してきましたが、JR東日本の新幹線の運行管理を担う「新幹線総合指令所」の所長を経て、2021年6月にTESSEIの代表取締役に就任しました。
ーーなぜJR東日本への入社を希望したのですか?
三村亮介:
もともと鉄道が好き、というか身近な存在でした。
子どもの頃は時刻表をみて空想旅行をしたり、沿線まで列車を見に行ったり、漢字も時刻表で覚えるほどでした。
なかでも、JRは在来線や新幹線、リニアといった鉄道業だけでなく、幅広い分野での事業活動を展開しています。この中でJR東日本は私が住んでいる首都圏を管轄していること、また鉄道だけでなくいろいろな事業に携われる可能性があると考え希望し、ご縁があって入社しました。
ーー経営者になってから、特に大切にされていることは何ですか?
三村亮介:
一言で「社員」といっても、年齢・経験・性格・特徴などいろいろな面でバラエティに富んでいます。管理者になってからは特に、一人ひとりを受け入れ、やりがいを感じてもらえるよう接点を持つことは大切にしてきたつもりです。
初めて管理者になったのは30歳の時ですが、部下が年上ばかりということもあり、最初はいろいろ悩みました。「社員が前を向いて仕事をしてくれるようになるためには、どうしたら良いのか」と考え、オン・オフ問わずいろいろな場面・形でコミュニケーションを大切にするよう心掛けてきました。
その結果、職場の雰囲気が徐々に変わり、少しずつ成果も出るようになってきました。これは私自身にとっても成功体験となり、今でも大切にしています。
ーー30年間勤務された中で大事にしてきた思いはありますか?
三村亮介:
信念を持ち、ベストを尽くし続けることです。
入社当時には、在来線の運転士や車掌をする先輩方がいました。しかし、新幹線の運転士まで経験するのは、JRの総合職では私たちの代が初めてでした。背中をみせてくれる先輩がいない中で不安を感じましたが、ブレずに信念をしっかり持ち続けることを大事にするようになりました。
また、会社というのはスーパーマンが一人いてもそれだけでは組織として成り立たない、大きな成長は望めないと思っています。そうした存在もときには必要ですが、個人の少しずつの努力や積み重ねが結集したときこそ、想像を超える大きな力になりますし、一体感や信頼感も生まれます。
そこで、すべての社員が、時には苦しいことがあっても乗り越えようという気持ちを持てるように、一人ひとりとコミュニケーションをとるようにしてきました。
今日も明日も来たくなる職場へ
ーー職場環境を良くするために行っている施策はありますか。
三村亮介:
弊社は10数年前、大きな変革を遂げましたが、その頃から取り組んでいるものの一つが「エンジェルリポート」です。
「エンジェルリポート」とは、お客さま満足を実現する上での基準となる「さわやか・あんしん・あったか」という行動規範の下で従業員同士が感謝を伝えあったり、一人ひとりが努力している姿をみつけて報告、共有し合う、端的にいうと従業員満足を高める取り組みで、「今日も明日も来たくなる」ような職場づくりを目指して導入されたものです。
従業員一人ひとりの行動は、結果として成果に結びつくこともあれば、結びつかないことも当然あります。
そこで、目に見える結果がなかったとしても、一生懸命やっている姿勢を「認める」こともレポートの対象にしています。
必ず安全行動をしているとか、声をしっかりかけているとか、誠実かつ地道に仕事に向き合う姿勢を見つけるためには、真剣に相手をみなくてはいけません。仲間を観察する努力も必要なので、その結果、チームとしてのまとまりにつながっていると考えています。
7分という限られた時間の清掃サービスで、効率と品質を追求
ーー今後注力していきたいことを教えてください。
三村亮介:
効率性と出来栄えの両立を追求していきたいと考えています。現在、東京駅で新幹線が折り返しのためにホームに停車している時間は僅か12分です。その間、お客さまが降車・乗車される時間を差し引くと、清掃はたった7分で終わらせないといけません。その中でお客さまにご満足いただけるレベルの清掃品質を常に保つのは大変です。
現在、インバウンドのお客さまが増えていますし、新幹線ネットワークの拡充も計画されています。今後、列車本数が増えてくると、作業時間がさらに短くなるかもしれません。
一方で、人口減少の影響により人材の確保も難しいので、「今よりも少人数でも一定レベルの品質を保てる作業を行うにはどうすれば良いのか」というのもテーマになっています。
そのためには個人のスキルを高める必要もあります。弊社では「ツボ・コツ」と呼んでいますが、熟練者が持つ技術を「見える化」し、従業員たちに伝承する取り組みも開始しています。
ーー今後の事業に対する考えをお聞かせください。
三村亮介:
インバウンドのお客さまの増加などもあり、日本の移動を支える新幹線はこれからさらに重要度が増していきます。弊社は清掃のレベルを高めるとともにお客さまの多様なニーズにもお応えすることで、さらに安心・快適にご利用いただけるようにしていきたいと考えています。
その重要な役割を今まで以上に果たしていける会社にしていきたいと思います。実現するためには一人ひとりが明るく元気に働く社風を大切にしていきます。年齢問わず多くの方に興味を持ってもらい、「一緒に働きたい」と思ってもらえると嬉しいですね。
編集後記
従業員とのコミュニケーションを大切にし、お互いを褒め合える職場環境を作ってきた三村亮介社長。職場の雰囲気づくりに大きく寄与する「エンジェルリポート」は、さまざまな企業でも応用が可能な、すばらしい取り組みだ。今後さらに拡充する新幹線の「快適な環境」を支える、株式会社JR東日本テクノハートTESSEIの今後の発展に期待したい。
三村亮介/1969年6月、千葉県生まれ、東京大学卒。1992年東日本旅客鉄道株式会社に入社し、在来線及び新幹線の乗務員、運行管理業務などに従事。その後、運輸車両関係、現業機関の管理者として職場管理、人材育成や業務改善などに尽力。本社運輸車両部次長や横浜支社運輸部長、新幹線総合指令所長など、在来線及び新幹線の運輸車両部門におけるマネジメント業務を歴任。2021年6月、株式会社JR東日本テクノハートTESSEIの代表取締役社長に就任。