インバウンド観光客向けの宿泊管理、オプショナルツアーの企画・運営、着物レンタル、観光コンサルティング、コミュニティ・メディアの運営など、観光・インバウンド領域で幅広い事業を展開する株式会社羅針盤。2023年に3つの会社が合併して社名も新たに、現在上場を目指して事業拡大中だ。
代表取締役である佐々木文人氏に、インバウンド市場の現状やそれに対する同社の取り組み、今後の展望について話をうかがった。
世界旅行で日本の観光業のポテンシャルを実感、そして起業へ
ーー大学卒業後はどのような進路にすすみましたか?
佐々木文人:
2005年に大学を卒業し、当時は「何かやりたいけどやりたいことが見つからない中で、とりあえず社会を学ぶために大企業」という気持ちで損害保険ジャパンに入社しました。同期とも仲が良く、社内のサークルや組合活動にも積極的に参加し、仕事もプライベートも充実していましたね。
ただ、一方で「このままでいいのかな?」「20代でもっと頑張って成長したい!」という思いを胸に、社会人4年目にボストンコンサルティンググループに転職。コンサル時代には社会人としての基礎力や価値の出し方が磨かれたと思います。
ーーその後、起業の経緯について教えてください。
佐々木文人:
コンサル会社に転職し30歳を目前にしても「何か大きなことをしたいけど、それが見つかっていない」というモヤモヤした状態が続き、思い切って1年間世界旅行することに決めました。旅行先では、改めて日本の観光業のポテンシャルの高さを感じ、日本にインパクトを与える産業は観光だと考え、帰国した2014年に、中学からの同級生と共同で、羅針盤の前身であるノットワールドを起業したのです。
ーー羅針盤の社長に就任するまでにどのような道のりがあったのでしょうか?
佐々木文人:
ノットワールドでは訪日外国人の方向けにツアーを販売していました。「世界と日本の結び目をつくろう」というビジョンがあり、東京や京都、大阪のような人気があるエリアはもちろん、それ以外のエリアのツアーも企画しました。2015年1月にツアーを売り出したときは1カ月のゲストが2人だけだったのですが、グローバルの旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」を活用しながら口コミ情報を集めたことで、同年4月には100人くらいのゲストが集まりましたね。
当時は順調に業績も伸びていましたが、2018年くらいから競合が増えてきたのに加え、2020年には新型コロナウイルスの感染が拡大し、生き延びるための道を模索するようになったのです。
コロナ禍が収束した2023年に、宿泊管理事業を行っていた株式会社エアトリステイ、着物レンタル事業を譲受した株式会社インバウンドコンソーシアムと3社で合併することになり羅針盤という会社がスタートし、私が代表として就任しました。
アフターコロナの今、日本が持つコンテンツの価値を高めることに力を注ぐ
ーーアフターコロナの今、インバウンド需要が盛り返しています。今の市場をどのようにお考えですか?
佐々木文人:
観光庁の2023年度の調査によると、インバウンドの消費額は約5兆3000億円でした。その約95%は宿泊、飲食、ショッピング、交通で、娯楽サービスはほんの約5%です。私たちが現時点で関わっているのは宿泊と娯楽サービスの一部になります。
ちなみに、アメリカの観光市場では娯楽サービスは10%なので、仮に日本でも10%になれば市場規模は5000億円になりますよね。さらに日本政府は15兆円を2030年のインバウンドの消費額の目標においていますが、インバウンド需要が高まれば娯楽サービスだけで1兆円も視野に入ってくると思うので、まだまだ伸びしろはあると感じています。
また、多くの観光地では泊まってもらわないと地元にお金が還元されない状況です。それを踏まえたうえで、面白いコンテンツをつくり上げてツアーや宿泊を伸ばしていくのが弊社の成長にもつながり、各地域の経済活性化のためにも大切なことだと考えています。
ーーそのような状況のなかで、貴社が注力していることを教えてください。
佐々木文人:
宿泊の管理、オプショナルツアーの企画運営、着物のレンタル、その他観光に関するコンサルティングなどを通して、日本が持つコンテンツの付加価値を高めることに取り組んでいます。たとえば、ツアーなどのトラベル事業ではガイドの育成をしたり、ツアーを磨き上げたりすることが必要です。着物レンタルでは、集客や単価の向上、出店、宿泊事業では、物件の開拓・収益力向上をしなければなりません。
他に注力していきたいことは、メディアの運営による情報発信です。OTA(※)だけで集客すると手数料がかかるし、リスクにもなるので、オウンドメディアで集客できる体制を整えていきたいと考えています。
(※)OTA:Online Travel Agentのこと。実店舗を構えず、インターネット上で取り引きが完結する旅行代理店を指す。
柔軟な考えでプロセスの大変さも楽しめる方に来てほしい
ーー今後の展望は何ですか?
佐々木文人:
人材育成にも力を入れ、上場を目指していきたいです。上場は、弊社にとってはあくまでも通過点です。観光には地域の事業者や住民、旅行会社、ガイド、ゲスト、そしてもちろん会社のメンバー含めさまざまなステークホルダーが関わっています。私自身にとって上場とは、そうした方々との信頼関係を強くし、さらに社会に与えられるインパクトを加速させることが出来るきっかけだと考えています。
しっかりと収益を上げて地域社会を活性化させるためには、観光において、マーケティングやテクノロジーの活用もさらに強化していかなければと考えています。そのためにもいい人材を採用したいですね。
ーーどのような人材を採用したいと考えていますか?
佐々木文人:
スタートアップが価値を打ち出していくためには、スピード感を持って挑戦していくことが求められると思います。成長するためには大変だなと感じることも多々ありますが、そのプロセスの大変さも楽しめるような方に来ていただきたいですね。そうした方が集まれば会社も伸びるし、日本の観光も変えていけるはず。何よりも社員一人ひとりの成長につながるのではないかと思います。
編集後記
今や観光は日本の一大産業であるため、今後もさらにインバウンド需要が高まると考えられる。決して観光市場のトレンドを追うのではなく、隠れたニーズを捉えて今後の成長が期待できる事業を展開してきた同社。これから日本の観光業界や地域社会にどのようなインパクトを与えていくのか、その事業展開に注目したい。
佐々木文人/1983年、愛媛県生まれ。大学卒業後、株式会社損害保険ジャパン(現:損害保険ジャパン株式会社)、ボストン・コンサルティング・グループで働いた後、1年間の世界一周旅行を経て、2014年に株式会社ノットワールドを創業。2023年、3社合併により株式会社羅針盤を設立し、代表取締役に就任。全国通訳案内士、総合旅行業務取扱管理者。