※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

1972年、住友化学の分析部門から独立する形で設立された株式会社住化分析センター。顧客の大切なサンプルを分析するだけでなく、時には環境問題の解決や安全性のチェックも行う開発業務受託機関(CRO/Contract Research Organization)だ。今回、代表取締役 社長執行役員の織田佳明氏に、これまでの取り組みや事業内容、今後の展望をうかがった。

理学部から工業化学の道に進み、ファインケミカルの研究開発に従事

ーーご経歴をお話しいただけますか。

織田佳明:
大学院の研究室でお世話になった先生の紹介で、博士課程の前期修了後に住友化学(旧:住友化学工業)へ就職しました。

入社後、研究開発に取り組んだのはファインケミカルです。化学製品を意味するケミカルズは大きく2つに分けられ、汎用品・大量生産の大きい塊であるバルクケミカルに対して、多品種・少量生産の細かい塊をファインケミカルと呼びます。大学院で研究した生理活性物質はファインケミカルの中に含まれ、医薬や農薬、機能性食品、半導体材料などの開発で重宝されています。

しかし、理学部出身の私にとって、物質の製造方法を研究する工業化学は未知の領域でした。また、学生時代とは異なる自由奔放な研究スタイルに、カルチャーショックを受けたものです。当初は「自分には不向きな仕事ではないか」と思いつつ、父から「何事も石の上にも3年」と教えられていたので、「3年続けていれば楽しみを見出すことができるかもしれない」と考え、業務に従事。自分なりに研究を進めていく中で、少しずつ楽しみや喜びを感じられるようになりました。

ーー仕事への向き合い方が変わる大きなきっかけはあったのでしょうか?

織田佳明:
入社3年目に、とあるプロジェクトで初めてメンバーを統括する立場になったことが一つの転機です。それまでフラスコをじっと観察していた私が、チーム内の“人”を見るようになりました。

それまで、組織で仕事をするといっても私と先輩一人、後輩一人がいる程度の少人数で仕事をすることはありました。しかし、新しいプロジェクトでは徐々にチームメンバーが増え、他の部署の方々とも協力しないとプロジェクト完成に近づかない。そのプロジェクトを通して、チームで仕事をする大変さと大切さを学びました。

また、そのおかげで「私の孫世代にまで影響を与えるような、大きな仕事で社会に貢献していきたい」という思いが湧き上がり、将来のキャリアも具体的に描けるようになりました。そして、大きな夢を叶えるには個人プレーを楽しむよりも組織で仕事に取り組むべきだと痛感しました。

「何よりも品質を大切にする」分析会社としての経営基盤と事業基盤を強化

ーー貴社の社長に就任してからの取り組みもうかがえますか?

織田佳明:
2021年に弊社に来てから、まずは3ヶ月以上かけて社内の現状を把握しました。会社を成長軌道に乗せていくにあたって、最初のミッションとしたのは、経営基盤と事業基盤の強化です。

着手して4年が経ちましたが、経営基盤の強化は未だ道半ばという感じです。私が目指しているのは、不正行為の防止と撲滅です。小さな問題でも見逃さずに修正する。この繰り返しを個人に依存するのではなく、組織全体で担うシステムとして構築しています。

事業基盤に関しては、立て直しに失敗したら社長を交代すると覚悟した上で、1年目は「会社を赤字にしない」という課題を達成しました。2年目に取り組んだのは、2期連続で業績が低迷していた医薬事業部門の業績回復です。おかげさまで、今では会社を引っ張る主力部門となっています。

弊社では「品質文化(Quality Culture)」を重んじる土壌を育てています。誰もが品質最優先で働いているからこそ、私の声も受け入れられ、事業が好転したと言えるでしょう。

ーー改めて、現在の事業内容を教えてください。

織田佳明:
私たちの仕事は、分析機器を用いて物質のデータを分析・考察し、お客様にレポートをお送りするサービス業です。

事業は大きく3つの領域に分かれ、1つ目のライフサイエンス・ヘルスケア領域では医薬事業部門が中心となり、製薬会社様の研究開発や製造に必要な受託分析を承っています。医薬品以外にも対応しているジャンルは医療機器・食品・化粧品と実に多彩で、さまざまな企業様の戦略立案や課題解決に役立つ分析をお手伝いしています。

2つ目のレギュラトリーサイエンス領域では、お客様に代わって化学品の安全性を評価し、世界各国の規制に沿った製造・販売・輸出入を行うための手続きをサポートしています。また、法規制の遵守に必要な環境分野の分析も見方を変えると、大気や水に含まれる不純物や製造過程で生まれる有害物質を分析することで、人々の健康と地球環境を守っている事業です。

3つ目は、高度な分析技術によって、モノづくりにおける課題を解決するマテリアルサイエンスの領域です。主に半導体や自動車、カーボンニュートラルの分野で役立っています。

人事評価の再構築と人材の成長によってさらなる成長企業に

ーー今後の展望をお聞かせください。

織田佳明:
人事制度の再構築と運用に注力していきます。私たちは表舞台には立たない存在として社会を支える企業だからこそ、社内でがんばっている人にスポットライトを当てたいですね。「私の仕事は世の中を良くしている」と自信を持つスタッフを増やし、社内外を生き生きさせる会社に変えていきたいと思います。

また、2025年4月以降は、新しい人事制度として管理職という概念がなくなり、従来のマネージャーはリーダーという位置づけになります。全従業員にチャレンジ精神を大切にしてもらい、専門性と人間性の両方を向上させることが狙いです。そして、マインドセットの変化によって組織力を強化し、お客様に提供する価値もアップさせていく。この連鎖こそが、会社のさらなる成長につながるでしょう。

これらを実践する過程で戸惑う人がいないよう、私自身、自分の思いをきちんと伝えつつ、会社全体を一層リードしていかなくてはいけません。トップと従業員が切磋琢磨して、互いに成長していきます。

編集後記

組織の力を活用して、自分の夢を実現しようと考えた結果、一研究者から経営者にまで登り詰めた織田社長。人事制度の一新については、「どんな化学反応が起きるか不安はありつつ、ワクワクする気持ちが勝る」と語り、従業員も同様ではないかと締めた。社会貢献への意志を共にする人が集まり、さらなるチャレンジを続ける住化分析センターの未来は明るい。

織田佳明/1961年生まれ。1986年に大阪大学大学院理学研究科の博士前期課程を修了後、住友化学株式会社(旧:住友化学工業)へ入社。有機化学・触媒を専門とし、ファインケミカルの研究開発を中心に発明と事業化に貢献する過程で、1996年に大阪大学にて博士号を取得。技術・経営企画室部長、研究所長を歴任後、経営企画室担当の常務執行役員を経て、2021年に株式会社住化分析センターの代表取締役社長に就任。(※インタビューは2025年2月6日時点のものであり、2025年6月23日付で住友精化株式会社社長に就任)