※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

株式会社イノカ(INNOQUA)の社名は、「innovate(新しいものをつくり出す)」と「aquarium(アクアリウム)」をかけ合わせた造語だ。同社は海洋環境を水槽の中に再現する技術を独自開発した。その技術を活かし、環境教育プログラムや、海洋治験サービスを提供している。

アクアリストが持つ技術とAIをかけ合わせ、新たな価値を創造する、創業者の高倉葉太氏に思いをうかがった。

海洋環境を水槽で再現する独自技術を開発

ーーまずは貴社の事業内容についてご説明いただけますか。

高倉葉太:
弊社の主力事業は、AIやIoTで水質や水温、照明環境などを制御する「環境移送技術®」を活用したサービスです。環境移送技術®️とは、海洋環境を水槽の中に再現するものです。この技術を活用し、環境教育プログラムや、企業が開発する製品が生態系に与える影響を調査する「海洋治験サービス」を提供しています。

弊社は、アクアリウムの愛好家であるアクアリストの方々と、研究者をマッチングすることでより海洋生物の研究が進むのではないかという仮説からスタートした企業です。アクアリストの中には、水槽の中で自然に近い環境を再現し、生き物を飼育したり、生態系を再現する優れた技術を持っている方がいます。

しかし、アクアリウムの技術は、これまで趣味の世界だったため、彼らの技術と専門家の知見をかけ合わせることで、今のビジネスモデルを構築していきました。

ーーアクアリウムや環境ビジネス事業を展開している他社との違いを教えてください。

高倉葉太:
アクアリウムの販売や設置を行っている企業の多くは「非日常空間をつくるインテリア」としてアクアリウムを提供しています。

また、環境コンサルティング事業を行っている企業には、環境学のプロの方々が在籍しています。しかし弊社には、海洋科学を学んできたメンバーだけではなく、趣味でサンゴ礁やマングローブのアクアリウムをつくっていた人や、人の再生医療を研究している教授など、多様なメンバーが集まっています。あらゆる領域の知見がかけ合わされ、斬新なプロジェクトを生み出し続けているのは、弊社ならではの特徴ですね。

ーー起業後、特に印象に残っている出来事はありますか。

高倉葉太:
3年の月日をかけ、2022年の2月に世界初、閉鎖空間で産卵時期をコントロールしたサンゴの人工産卵に成功したことです。これは自分たちが趣味の域を越えたと実感した、大きな出来事でした。

AIの研究を経て、アクアリウム事業を立ち上げるまでの経緯

ーー高倉社長がアクアリウムに興味を持ったきっかけは何でしたか。

高倉葉太:
もともと私の父がアクアリウムを楽しんでいました。しかし、父が仕事などで忙しく実家のアクアリウムが放置されている状況を見かね、手入れをはじめたのがきっかけです。進学を機に上京してからも、一人暮らしの家に水槽を持って行き、世話を続けました。ただ、周りにアクアリウム仲間が少なかったこともあり、次第に情熱は薄れていきました。

ーーそこからアクアリウム事業を立ち上げた経緯を教えてください。

高倉葉太:
大学ではAIの研究をしていたのですが、自分ならではというテーマが見つからず、それを模索していました。そんなときに起業家支援プログラムに参加し、株式会社リバネスの丸幸弘社長とお会いしたんです。

「好きなものはないのか」と聞かれ、「アクアリウムは好きですが、マーケットが小さく、ビジネスには向かないと思います」と伝えました。すると「その世界を丁寧に見てから考えなさい」との指摘を受けたんです。

そこでもっと深く調べてみようと思い、店のオーナーや愛好家の方々に、話を聞いて回りました。その中で、アクアリウムをベースに海洋生物の研究を進め、そこで得たノウハウを社会に役立てようと思いました。

アクアリウムもそうですが、現代の技術でも自然界の環境を再現するのは難しく、まだ研究の余地があると感じました。バーチャル技術が進歩する今、私たちはあえて生命科学の分野に注力しようと考えるに至りました。

ーー研究分野とは接点がないように思うのですが、それでもアクアリウム事業を始めたのはなぜですか。

高倉葉太:
バーチャル技術が進歩する今、私たちはあえて生命科学の分野に注力しようと考えました。その理由のひとつが、現代の技術でも自然界の環境を再現するのは難しく、まだ研究の余地があると感じたからです。

アクアリウムをベースに海洋生物の研究を進め、そこで得たノウハウを社会に役立てようと思いました。

日本企業が注目するネイチャーポジティブの重要性

ーー今では日本を代表する企業とも取引していますが、貴社が企業から求められる理由は何ですか。

高倉葉太:
環境に配慮した製品づくりに力を入れている企業がネイチャーポジティブ(※)を推進する中で弊社に関心を持たれています。

温室効果ガスの排出を抑制するカーボンニュートラルは、欧米諸国の企業が先陣を切っており、日本は後れを取っています。しかし、ネイチャーポジティブに関しては、世界でも取り組んでいる企業はあまり多くありません。

そのため先手を取ろうと、環境に配慮した製品づくりに力を入れている企業が国内に増えているのです。弊社がこれまでに培った技術や知見を提供し、お客様のブランド力向上の一助になればと思っております。

(※)ネイチャーポジティブ:自然生態系の損失を食い止め、回復させていくこと

ーー貴社の今後の展望をお聞かせください。

高倉葉太:
CAO(Chief Aquarium Officer)の増田直記と2人で会社を立ち上げてから、社員数は順調に増加しています。同じ思いを持つ仲間と語り合い、彼らが活躍している姿を見て、「ようやくビジネスの土台をつくるフェーズまで来られたな」と実感しているところです。

今はやっと土台ができた状態なので、引き続き仲間を増やし、さらに会社を発展させていきたいですね。

ーー最後に読者の方々にメッセージをお願いします。

高倉葉太:
昨今では温暖化対策が進められていますが、中には太陽光パネルを設置するために木を伐採する事例も起きています。そんな中でみなさんには、環境対策に必要なことは何か、自分で判断できる目を持ってほしいのです。

まずは自然の不思議や魅力に目を向けてみてください。自然界で起こる現象に興味を持っていれば、環境保護の本質を見極める判断力が備わっていくはずです。

もうひとつお伝えしたいのが、グリーンエコノミーだけでなく、ブルーエコノミーにも意識を向けてほしいということです。もちろん森林保護も大切ですが、海洋資源の保護も同じくらい重要なテーマです。森と海の環境保護を両立し、日本の豊かな自然を私たちと共に守っていきましょう。

編集後記

「みなさんの身近なところで起きている自然の現象に目を向けてほしい」と語った高倉社長。この言葉を受け、まずは自然の営みをじっくりと観察し、環境保護に対する意識を高めたいと思った。海洋環境の教育を行い、環境保護に取り組む企業をサポートする株式会社イノカは、持続可能な社会の実現に大きく貢献することだろう。

高倉葉太/東京大学工学部を卒業、同大学院暦本純一研究室で機械学習を用いた楽器の練習支援の研究を行う。2019年4月に株式会社イノカを設立。2021年10月より一般財団法人ロートこどもみらい財団の理事に就任。同年、Forbes JAPAN「30 UNDER 30 JAPAN」に選出される。