フードデリバリーサービスは増加傾向にある。中でもフードデリバリー業界の老舗とも言える株式会社SL Creationsの順調な売れ行きには目が離せない。
安全性と美味しさを長年追求し、1,000品目以上のオリジナルブランド商品を提供するSL Creations。50年以上にわたり「シュガーレディ」と呼ばれる1万人の女性販売員による宅配スタイルを貫いてきた。
時代が変わり、現在はオンライン販売や外販も開始し、変化する環境に対応している。「高品質な素材、添加物の排除。自分が毎日食べたいもの、大切な人に食べさせたい商品だけを作る」と言う代表取締役社長、佐藤健氏に独自の経営方針についてうかがった。
職場を離れても会社を想い続けるOGたち
ーーどんな方が活躍していらっしゃるのですか?
佐藤健:
父が創業者で、私が3代目なのですが、初めは業務用冷凍食品を小分けにして車で巡回する販売スタイルでした。当時、料理についての知識が乏しい男性が販売を行っていたのですが、あまり売れず、それを見かねた主婦の方々が手伝い始めたのが、販売員組織の始まりです。
その当時は約7名だったのが、最終的には1万名の規模に成長しました。皆さんの年齢層はだいたい30代から90代までです。80歳以上の方々もたくさんおられます。定年もノルマもありませんので、皆さん自分のペースで元気に活動しています。
最近、社風を象徴するような出来事がありました。平均年齢が85歳くらいの売上が高かった方々が集まるOG会があるんですが、先日旅行会をしたときのことです。支店長が3名同行したのですが、その旅行に来ていた大御所の方から旅行の後にメールをいただきました。
「支店長さんらは、会社を大きくしたいという強い愛情を持っていて、仕事を離れた私の心に響きました。素晴らしいことです。彼らがいる限り会社は大丈夫」と。社員もそうですが、そういう熱い気持ちを持つ販売員の方々にも会社は支えられてきたのです。OGになっても会社を思う、そんな組織です。
安心安全でかつ美味しい、高品質な素材を使用
ーー貴社の強みは何でしょうか?
佐藤健:
豊富な知識と情熱を持つ販売員です。商品に惚れ込んだお客様が販売員となることも多いのですが、値段設定が高くても「この商品なら知り合いに紹介したい」と言っていただけます。商品の試食会のほか、添加物や健康に対しての勉強会などにも参加したいと思ってくださる方が多いのです。
私をはじめとして、社員や1万人の販売員も含めた全員が毎日食べたいと思えるもの、そして大切な家族や大事な人の健康のために毎日食べさせたいと思える商品しか私たちはつくりません。余計なものは極力加えず、化学合成の添加物は一切不使用にしています。美味しいもので、安心で安全な商品しか開発しないっていうのが根本にありますね。
一般市場には安く、添加物で満ちた商品が存在します。そうした商品はスーパーマーケットなどの需要から、安価な原材料を使用するしかありません。それだけでは美味しくないから色付けや風味付け、とろみ付けなどの添加物が必要となってしまいます。しかしながら弊社の場合は、高品質の素材を使用することに注力していますので、多少価格が高くなるかもしれませんが、余計な添加物を使わなくても、十分に美味しい商品を生産できるのです。
会社の取り組みは海外でも評価される
ーー貴社で働こうと決めたきっかけはありますか。
佐藤健:
会社を継ぐつもりは元々全くなかったんです。30歳までその考えを公言していました。父も無理に継ぐ必要はないと言っていましたし、私が社長になれば何かを成し遂げても2代目だからと言われるし、失敗すればさらに厳しいことになるだろうと考えていました。自分の力を試すべく、マーケティング関連で活動したかったというのもあります。
しかし考えが変わったのは、アメリカの大学院に社会人留学をしたときでした。ドイツ人の教授の授業で、ケーススタディを通じてさまざまな企業を取り上げるグループワークがありました。私たちのグループは最初、テーマに困っていたのですが、メンバーが「健の父の会社を取り上げてみよう」と提案し、研究と発表を行いました。そのときは何も思いませんでしたが、最後に教授の総評で「シュガーレディという変わった名前だが、安心安全で美味しい商品を、経営者から販売員までが本当に実現しようと取り組んでいる会社が一番印象に残った」と言ったのです。
父親らが一軒家から始めたことを知っている私は、海外の専門家からも評価されるほどの会社に成長したことを、そのとき初めて実感しました。そこで私も会社に参加したいと思い、初めて父親にその考えを伝えました。父は「大変だぞ」と言いましたが、実際にはとても嬉しかったようです。さらに販売員の方々が「有名な大学を出て、大企業で活躍すると思っていたような人が」と父親以上に喜んでくれたそうです。
時代とともに変化するお客様の意識に合わせ、マニュアルを作成
ーー入社してから社長になるまでの経緯を教えてください。
佐藤健:
入社当初は「一番下からやらせてくれ」と、知っている人のいない関西で2年間販売員として働き、チラシ配りから始めました。次に、東京の城南地区で営業をゼロから行った後、福岡に支店を立ち上げ、500人の組織を築き上げました。そしてちょうど10年目に本社に入りました。
1997年に入社し、2010年に社長になったのですが、仲間たちとずっと話し合っていたこともあり、変えていきたいことがたくさんありました。社長になった当初から商品を変更し、セレクトや新定番といったシリーズを立ち上げ、販売員向けのマニュアルを新たに作成しました。
昔は、販売員とお客様は友達同士やママ友同士の関係でしたが、時代が変わってお客様もよりビジネス的な、クールな関係を求めるようになってきたので、マニュアルが必要だったのです。
また、無料試食会の際も出席者がばらばらな服装をしていたのでユニフォームを統一し、社名の変更やオンライン販売の開始など、新しい取り組みも行いました。ただ、皆さんが数十年間行ってきたことを一つ一つ変える際には、抵抗もたくさんあって、挑戦の連続でした。
大きなお屋敷をリフォームするように、改善しながら新しいことにも取り組む
ーー今後のビジョンについてお聞かせください。
佐藤健:
うちの会社の売上は、大半が販売員によるもので、外販はまだ新規開拓の段階です。私たちの組織をできるだけ多くの人に知ってもらいたいので、OPF(オフィスプレミアムフローズン)というサービスを展開しています。
このサービスは成功していて、毎月4万円弱をお支払いいただいて、オフィスに冷凍庫と電子レンジを提供し、常時80種以上の商品を配置しています。100円か200円で弊社の商品を購入できるので、一種の社員食堂のようなもので、これが今とても伸びています。他社さんですと、配送業者さんが商品だけを置いて、総務の人が商品を全て入れ替えなければなりません。私たちの場合は、販売員さんが入れ替えをするため、企業様の負担を減らすことができることに加えお客様のニーズも直接伺えるのが、導入企業様が増えている要因だと思います。
加えてもう一つ、健康な人を増やしたいと考えています。適度な運動、健康的な食事、十分な睡眠などが重要とされていますが、食の分野で寄与できたらと思っています。何千商品もの素材から加工品まで扱っているので、管理栄養士が一人ひとりにコンサルティングして、アドバイスを提供したいですね。また今年、男性のシュガーレディを30人程度採用しました。男性も料理や食べ物に興味を持つ人が増えているので、これは新たな試みだと感じます。
私が抱いているのは、何世代もが住んでいる大きなお屋敷をリフォームしながら良いものにしていくというイメージなのです。全てを新しくつくり替えるのではなく、皆が愛している部分は残し、少しずつ直しながら自分たちにしかできない新しいことをやりたいのです。
編集後記
佐藤健氏は「商品の美味しさと高い品質は、多様な年齢層の販売員の熱意と愛情によって支えられている」という。
会社の長い歴史に敬意を示しつつ、次の段階に進化させるため、販売員向けのマニュアルの作成やオンライン販売の開始など、多くの新たな取り組みを行ってきた佐藤氏。逆風に晒されながらも、根気強く社員と共に変革を重ねてきた。
「大きなお屋敷をリフォームしながら、自分たちにしかできないことをしたい」と、新しい試みに突き進む姿勢は、食品業界を次なるステップへと進化させていくだろう。
佐藤健(さとう・けん)/1966年4月27日生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、博報堂香港入社。3年間の勤務を経て米国留学。米コロンビア大学大学院でMBA取得。1997年、同社グループに転じ、SL(シュガーレディ)関西入社。2007年、代表取締役副社長、2010年代表取締役社長就任。2020年、創業50年の節目に株式会社SL Creationsへ社名変更。現在、SL Creationsグループ代表取締役社長。趣味は合気道。