※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

株式会社ディーエムエスは、ダイレクトメール事業を主軸に、物流、セールスプロモーション、イベントからデジタル領域まで幅広く事業を展開する総合情報ソリューション企業だ。年間3億通以上の取り扱いを誇るダイレクトメール事業では、制作から発送までの一貫体制と強固なセキュリティで、業界内でも一線を画す存在として知られている。

現状に満足せず、さらなる飛躍を目指して挑戦を続ける同社。その舵をとるのが、銀行員から転身し、改革を進めてきた代表取締役社長の山本克彦氏である。これまでの歩みと未来への展望について、山本社長に話を聞いた。

銀行員の経験を活かした大胆な業務改革

ーー入社の経緯についてお聞かせください。

山本克彦:
弊社は父が立ち上げた会社で、私は2代目ですが、かつては銀行員として働いていました。「いずれは親の会社を継ぐ」という思いがあったため、1998年に銀行を辞めて弊社に入社、社長に就任したのは、それから3年後の2001年のことです。

ーー入社後、最初に取り組んだことは何でしたか。

山本克彦:
銀行員時代から、弊社の財務状況や業務運営を見て、「これでいいのか」と感じる点が数多くありました。そこで、無駄が多いと感じていた部分を改善することにしたのです。最初の改革は、業務センターの集約でした。当時、弊社には複数の業務センターがあり、それぞれに総務や経理担当者が配置されていましたが、これでは明らかに非効率だと考え、全ての業務センターを1つに統合したのです。

業務センターの集約は、コストの効率化以上に大きな目的がありました。それは、セキュリティの向上です。弊社の主軸は、個人情報を扱うダイレクトメール事業ですから、セキュリティは万全でなくてはなりません。業務センターを1つに集約すること自体がリスクの軽減につながりますが、新しいセンターそのものを、セキュリティを第一に考えた構造にしたのです。

リアルとデジタルを融合したクロスメディア戦略

ーー業務内容について教えてください。

山本克彦:
弊社は、ダイレクトメール事業を中心に、物流事業、セールスプロモーション事業、イベント事業など、幅広いサービスを提供しています。加えて、AI、OMO(※)、ECといったデジタル領域のサービスも展開し、リアルとデジタルを融合させたクロスメディア戦略を通じて、総合情報ソリューションを提供しているのです。

主軸事業であるダイレクトメール事業では、通信販売カタログから民間企業のイベント案内、選挙のための投票所入場整理券などの公的なお知らせまで、幅広い情報を取り扱っています。

取引先はさまざまですが、多くは「ナショナルクライアント」と呼ばれる大手企業です。創業以来、ずっとお付き合いいただいているお客様も多く、大変ありがたいことだと感じています。

(※)OMO:Online Merges with Offline:オンラインとオフラインを融合したマーケティング手法。

ーー貴社の強みは何ですか。

山本克彦:
弊社の事業全体の70%以上を占めるダイレクトメール事業では、データ処理から発送までを一貫して提供しています。このワンストップ体制は、業務センターを1つに統合したからこそ実現できましたが、これが、弊社の大きな強みです。

このワンストップ体制は、単に業務効率を高めるだけでなく、セキュリティ面でも大きな利点があります。繰り返しになりますが、個人情報を扱う以上、セキュリティは最優先事項です。作業場所や過程が分散すれば、それだけリスクが高まります。弊社では、すべての作業を一か所に集約し、強固なセキュリティシステムのもとで運営することにより、安心と信頼を提供しているのです。

ーーどのようなセキュリティを構築しているのですか。

山本克彦:
たとえば、弊社の主要業務センターでは「誰でも入れる場所」を排除しつつも、監査や見学者の受け入れに対応しています。実は、弊社には、同業社からの「見学させてほしい」という依頼が多いのです。そこでセンターをつくる際、建物の構造から見直しました。

見学者用の通路を設け、その通路から作業風景を見ることができるように、業務スペースの大部分をガラス張りにしたのです。これは私が弊社に入社してから行った大きな改革の一つといえるでしょう。

会社の未来を形づくる人材育成への情熱

ーー今後の課題と戦略についてお聞かせください。

山本克彦:
大量のダイレクトメールを取り扱う弊社では、お客様から多くの顧客リストをお預かりしていますが、企業内には他にも購買履歴やWebアクセスログなど、膨大なデータが蓄積されているはずです。しかし、それらは現状「サイロ化」しており、組織間で十分に共有されていない状態になっていることも少なくありません。

データ活用を推進することが、今後の課題であり戦略の柱となります。弊社の顧客管理サービスによってサイロ化を解消することで、部門間でデータを共有し、AI分析を活用して顧客の行動傾向を可視化できるようになるのです。これにより、顧客一人ひとりに最適なマーケティング施策を提案・提供できるようになると考えています。

ーー戦略の展望を教えてください。

山本克彦:
何事も多様化しており、なおかつ移り変わりの早い時代です。そんな中にあって、既述したようなデータ活用の推進を自社だけで成し遂げるのは、至難の技です。もちろん、不可能というわけではありませんが、非常に時間がかかってしまいます。

そこで、今考えているのが他社との業務提携や資本提携です。1961年創業の弊社は、言ってみれば「成熟企業」で、それに見合う資本を持っていると自負しています。実は、この資本も弊社の大きな強みなのですが、それをうまく活用できていないのが現状です。

近い将来、この強みをうまく活かしながら、他社との業務提携や資本提携を模索しつつ、M&Aも視野に入れています。今後の5年から10年で、会社として、このような成長の仕方もあるのではないかと思っているのです。

また、「課題」という意味では、こうした成長戦略を外部に向けてうまく発信することも、弊社の大きな課題です。今現在の株価を見る限り、弊社には資本や実績があるにもかかわらず、まだ世の中から評価されていません。それは、アピール不足が大きな要因だと考えています。今後は、弊社の存在と今後の成長戦略を、世間に向けてうまく発信していくことが必要不可欠です。

ーー人材育成については、どのようにお考えですか。

山本克彦:
単純にコストや時間効率の尺度だけで評価すべきではないと考えています。社員は「人的資本」であり、適切な投資をしなければ十分なリターンを得ることはできません。

この「投資」とは、単に資金をかけるだけではなく、育成する側とされる側が向き合う時間や情熱を含むものです。たとえば、若手中堅社員を対象にした合宿形式の研修では、私自身も参加し、膝を突き合わせて議論を重ねます。この場は、私にとっては人材発掘の場となり、彼らにとっても学びの機会となるはずです。

また、社員有志とチームを組み、マラソンや過酷なスポーツ競技に参加する活動も行っています。最近では、参加しない社員も応援に加わり、社内全体に連帯感が広がってきているように感じます。こうした活動を通じて、同じ目標に向かって努力する仲間同士の絆が深まり、それが職場の雰囲気を良くして、業務にも良い影響を与えています。

私は、人材育成とは、研修や教育だけでなく、このような多面的な取り組みを通じて実現するものだと信じています。

編集後記

軽井沢で行われる合宿形式の研修や、有志が挑戦するマラソンイベント。株式会社ディーエムエスでは、社長自らが参加する「心躍る場」がいくつも用意されている。これらは山本社長が掲げる人材育成ビジョンの一環だ。こうした取り組みを通じて育った若手社員たちは、どのような成長を見せるのだろうか。

その姿を見守る楽しさもさることながら、何より彼らを前にした山本社長の表情を見てみたい。きっと、その瞬間に社長の熱意と思いが結実しているのだろう。

山本克彦/1969年生まれ。成蹊大学卒業後、ボストン大学経営学大学院修了。1995年に第一勧業銀行(現:みずほ銀行)へ入行。1998年に株式会社ディーエムエスに入社し、2000年に取締役、2001年に代表取締役社長に就任。