2023年、犬・猫の累計飼育頭数は約1591万3000頭にのぼり、ペットフードの市場は拡大傾向にあるといえる。九州ペットフード株式会社は、「人とペットのよりよき関係を目指し、自然の惠みを生かした品質の高いペットフードの製造に社会的使命と大きな誇りを持ち、誠心誠意、心をこめて製品を創り続ける。」という経営理念のもと、1993年に創業された会社だ。
ペットを家族の一員と捉え、安心安全なフードの生産に取り組んでいる。今回、話をうかがった岩田裕社長は、創業者である父親の跡を継いだ二代目社長だ。社長就任以降、取り組んできた、さまざまな改革や展望について聞いた。
人事評価と設備投資による新たな道の開拓
ーー貴社に入社した経緯を教えてください。
岩田裕:
九州ペットフード株式会社は、1993年に父が創業した会社です。当時、私は中学生で、剣道漬けの日々を送っていました。父が会社を興したことは知っていましたが、入社して跡を継ぐということは少しも考えていませんでした。しかし、父親から「仕事をしてみないか」と言われ挑戦することにしました。これが、九州ペットフード株式会社に入社するきっかけとなり、現在に至ります。
ーー社長に就任後、大変だったことは何でしょうか。
岩田裕:
社長に就任してから9年経ちましたが、就任当時が一番大変でした。それまでは創業者である父が会社を牽引していたので、引き継ぐ際の不安は大きかったですね。私は、より現場の声を大切にするため、長年一緒に働いてきた主要メンバーと共に会社全体の計画や方向性をすり合わせ、役割を分担しました。
具体的には、先代までは報告すれば必ず答えが返ってきていましたが、それを「自分なりに考えて進めてくださいね」というスタイルに変えたのです。メンバーそれぞれの役割に応じた裁量権を与えたことにより自由に進められる反面、リスクも伴うので、社員は大変だったと思います。ただし、一人ひとりが責任感を持って一生懸命に取り組み、結果としてお互いが成長できる機会になりました。
ーー働き方に関して、どのようなことに取り組んできましたか?
岩田裕:
大きな取り組みは、人事評価と設備投資です。人事評価は、従来は、目標に対して上司が評価をするのみでしたが、現在は特にフィードバックに力を入れ、良い点や課題を上司と共有・理解した上で、次の目標に取り組めるように仕組みを変更しました。
また、設備投資では、古い設備を新しくし、自動化にも取り組んでいます。作業効率や安全面、体力的負担など、現場で働く社員の意見を取り入れ、できるところから優先順位をつけて改善を進めています。
安心の証であるISO認証取得に見る、品質と安全の確保
ーー貴社の強みは何ですか?
岩田裕:
一番の強みは、製品の品質管理の徹底です。
弊社は、ペットフードの製造と販売を行っています。業種は飼料製造業であり、食品製造業ではありません。食品は厚生労働省の管轄ですが、ペットフードは飼料なので農林水産省の管轄であり、製造段階に関連する法律や管理基準も食品とは大きく異なります。
しかし、創業者である父はもともと食品関係の会社で働いていたので、「ペットフードも人間の食品と同じような高い管理基準を持って作らないといけない」という考えを持っており、それを実現するために弊社を設立したのです。そのため、私たちの存在意義や強みは、製品の品質管理にあります。
弊社は、2003年にISO 9001認証(※1)、2009年にISO 22000認証(※2)、2011年にISO22005、そして2012年にFSSC22000を「ペット用食品」の項目で取得しました。「ペットフード」と呼ばれる製品ですが、弊社はこのように食品製造業における国際認証を積極的に取り入れてきました。
(※1)ISO 9001:一貫した製品・サービスを提供し、顧客満足を向上させるための品質マネジメントシステムに関する国際規格。
(※2)ISO 22000:衛生面を含めた食品安全管理を実践するためのマネジメントシステムに関する国際規格。
持続可能な成長への挑戦。ペットフード会社の展望と人材育成への取り組み
ーー今後、どのようなことに注力したいですか?
岩田裕:
今後注力したいテーマは3つあります。
1つ目は、工場の移転計画です。安心安全な商品をより高品質な環境で生産したいという思いから、工場の移転・拡張計画を進めています。新工場では現在の倍の生産量を予定しています。
また、3年ほど前からRPA(ロボットによる業務自動化)にも取り組んでいます。たとえば、これまで紙の伝票を使って行っていた工程管理をタブレットに置き換えることで、システムの改善と再構築を目指しました。これによって、実際にペーパーレス化で工数を削減できました。
2つ目に新たな商品の開発を進めていきたいですね。私たちの最大の強みは30年間の経験を基にした独自の技術と配合にあります。それを製品として価値あるものにしていくには、必然的に設備も必要になってきます。弊社では、ペット関連業界ではあまり扱っていない食品の設備を取り入れ、新商品の開発に取り組んでいます。
今までは「おやつ」を中心に生産してきましたが、今後は「主食」にも取り組み、普段の食事のすべてを提供できるようにしたいですね。
また、LINEなどのSNSを活用し、お客様の意見を取り入れています。現在、弊社のLINEアカウントには1万数千人の友達登録者がいます。今年はじめて、登録者の中から数名にご参加いただき、直接ご意見を伺うファンミーティングを開催しました。マーケットや消費者の反応にアンテナを張りつつ、自分たちにしかつくれない製品を生み出したいです。
3つ目に、海外進出も強化していきたいと考えています。私たちが取り扱っている製品は日本独自のものですが、現在ではアジア圏にも輸出しています。各国のニーズを把握し、日本製の良さを組み合わせて展開することで、販売量の増加も見込めるでしょう。
ーー5年後、10年後の展望について聞かせてください。
岩田裕:
家族同然のペットに対して安心・安全な商品を提供することが、私たちの存在価値であり、責務です。それを継続するためには、作り手である従業員の育成がすべてと言っても過言ではありません。社員とのコミュニケーションを図りつつ、彼らの学びと経験の場を増やしたいと考えています。
私たちの製品を購入し、喜んでくれるお客様がたくさんいらっしゃいます。お客様の満足度を高めるためには品質が重要であり、品質や安全の概念が根底にあってこそ、ものづくりができるのです。研修や資格取得の取り組みを強化し、人への投資を最優先することで、安心・安全な製品を作っていきたいですね。
編集後記
飼料ではなく食品としてペットフードに向き合ってきた岩田社長。彼は創業者の意思を引き継ぎ、生産の根底に据えている。その言葉の端々からは、ペットと人間の絆を大切に思っていることも伝わってきた。創業以来、変わらぬ思いを製品に込めて、安心・安全なペットフードを提供し続ける九州ペットフード株式会社の今後の活躍が楽しみだ。
岩田裕/1979年、福岡県生まれ。1998年、九州ペットフード株式会社に入社、東京営業所にて勤務。2010年に常務取締役として営業および開発部門を管掌。2015年、代表取締役社長に就任。