※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

カーボンニュートラル(※)の実現に向け、製造業でも脱炭素化と資源循環の視点が求められている。そうした中、プラスチック樹脂成形を手掛ける株式会社ワカクサは、家庭から廃棄されるプラスチックを再資源化し、物流用パレット(荷物をまとめて載せられる台)として再生・再利用する循環型ビジネスを展開。リーマン・ショック後に経営改革に乗り出し、社員とともに会社をつくる道を選んだ代表取締役社長の安本昌広氏に、その軌跡と今後の展望をうかがった。

(※)カーボンニュートラル:温室効果ガスの排出量から植林や技術による吸収・除去量を差し引き、地球全体で実質ゼロを目指す取り組みのこと

危機の只中で気づいた、仲間と築く経営の在り方

ーーまずは、社長ご自身のご経歴についてお聞かせください。

安本昌広:
大学卒業後、祖父の代から続く家業である株式会社ワカクサに入社しました。私には兄がいたため、兄が継ぐものだと思い、私は別の道に進もうと、就職活動もしていました。ただ、祖父を継いだ父も3兄弟で、営業・現場・経理それぞれの立場で、“3本の矢”のように会社を盛り上げていたこともあり、祖父から「兄弟二人で力を合わせて会社を続けてほしい」と言われ、入社を決めました。

入社後は製造現場からスタートし、さまざまな業務を経験しました。

ーー経営者として苦労を感じた時期などはありますか?

安本昌広:
リーマン・ショックの影響で、売上が大きく落ち込んだことがきっかけで経営に関する考え方が変わりました。それまでお取引先1社に依存していたため、影響は甚大。「このままでは会社がもたない」と危機感を抱き、経営を学び始めました。

さらに、事業を吸収された後に再起を目指す経営者の話を聞かせてもらう機会があり、「私には、建屋も仲間も資金もある。変革に取り組まない理由はない」と覚悟が決まりました。

そこから社員と本気で向き合うようになりました。はじめは思いが伝わらず、反発もありましたが、対話を重ねる中で共感し協力してくれる社員が現れ、少しずつ改革が進んでいきました。

社員と問い直した「この会社で何を目指すのか」

ーー経営方針を見直す中で、どのような理念にたどり着いたのでしょうか?

安本昌広:
弊社が掲げているのは、「『PLASTIC』に生命を吹き込む『ものづくり』」という理念です。これは2015年から4年かけて、社員とともに議論を重ねて2019年に生まれました。

2015年頃までは他社から依頼を受けて代わりに製品をつくるOEM事業が中心だったのですが「今のビジネスモデル(OEM事業)で、理念とか方針とかビジョンをつくっても、何か絵に描いた餅になるんじゃないかな」という思いがありました。

しかし、OEM事業だけでこのまま生き残れるのか、自社の未来を考えたとき、OEM事業に頼らず自社で製品をつくることで黒字化に成功している企業があると、ある経営者の方から教えていただき、「これからのワカクサは何を目指すのか」という根本的な問いから出発しました。

私たちは事業について考える際に「やれること」「やりたいこと」「社会から求められていること」「収益性」の4つの軸で物事を考えています。その重なりの中に、資源循環型の製造業としての可能性を見出しました。

「どう考え、どう動くか」を軸に、人が育つ風土を整える

ーー人材育成について、貴社ではどのような取り組みをされているのでしょうか?

安本昌広:
私たちが人材育成において最も重視しているのは、考え方です。日々の業務においても、「意見を言うなら代案も出す」「課題は自分ごととして捉える」といった姿勢を大切にしています。実際、私の提案が通らないこともありますし、役職に関係なく合理的な判断が優先される。それがワカクサの文化です。

ーー採用のプロセスは、どのように設計しているのか教えてください。

安本昌広:
総務部で人材がほしいとなれば総務部のメンバーが人材を募集し、現場メンバーが一次面接を行います。そして、一次面接を通過した場合、候補者の方には来社いただき、会社の雰囲気や社員が働いている姿を見てもらいます。それを踏まえて「ここで働きたい」と思ってくれたら二次面接という、候補者が会社を選ぶ、いわゆる“逆面接”という形式を導入しています。

また、二次面接は他部署の上長が面接をするようにし、知識や能力の確認よりも弊社の理念に共感してもらえるかどうかをすり合わせています。さらに、入社後は他部署の社員がメンターとして関わり、全社的に育てていく体制を整えています。

再資源化の先に描く、100億の社会的価値

ーー現在、特に注力している事業を教えていただけますか?

安本昌広:
廃プラスチックを物流用パレットに再生するリサイクル事業です。企業や行政から使用済みプラスチックを回収し、物流用パレットとして製品化。再び社会に戻す仕組みを構築しました。汎用性の高い製品のため、幅広い業界での展開が可能です。さらに、京都大学や同志社大学と連携し、繊維や燃料への再資源化など新たな技術にも挑戦しています。

こうした取り組みを通じて、私たちは「社会にどれだけ貢献できたか」を成果の指標とするようになりました。現在掲げているのが、「100億の貢献ポイント」という目標です。

ーー「100億の貢献ポイント」について、詳しくお聞かせください。

安本昌広:
私たちは売上ではなく、「社会からどれだけ必要とされたか」を成果と捉え、「貢献ポイント」としています。売上はその結果であるため、「100億の貢献ポイント」が生み出せる会社になれば、社会をよりよくすることができると考えているのです。

利益だけでなく、仲間の幸せや社会の持続可能性も含めて「貢献」と考えています。今後は10人の経営者を社内から育て、10社のグループを形成し、「100億の社会的価値」を生み出す企業を目指していきます。

編集後記

安本社長の言葉から伝わってきたのは、「人を信じ、理念を共有する経営」の本質だ。理念を社員と共有し、現場を主体に採用し、事業の意義を自分たちで考え抜くという文化の積み重ねが、社会に必要とされる企業づくりにつながっていると感じた。製造業における循環型ビジネスの最前線として、ワカクサの挑戦は、今後ますます注目される未来が広がっている。

安本昌広/大学卒業後すぐにワカクサに入社。自社ブランドを立ち上げることに成功し、環境配慮のエコエコパレットを全国で展開中。サーキュラーエコノミーをベースに社会貢献ができる企業へと成長を遂げた。その過程でさまざまな賞を受賞し、Expo2025 大阪・関西万博への出展も決定している。日本でのスキームを活かして、今後は世界に打って出る。