※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

1941年に創業した富士工業株式会社。一般家庭用レンジフード(※1)供給台数において国内トップのシェア(※2)を誇り、ブランド「FUJIOH」(※3)の存在感も国内外で高まっている。代表取締役社長の柏村浩介氏に、これまでの歩みや今後の展望についてうかがった。

(※1)レンジフード:キッチンの加熱機器上方に設置する換気設備。調理時に発生する燃焼ガスや油煙・水蒸気・におい等を捕集し、ダクト(風道管)を通して屋外に排気する。

(※2)富士工業グループは、一般家庭用レンジフード供給台数国内シェアNo.1。(2021年4月東京商工リサーチ調べ。ODM製品を含む。)

(※3)「FUJIOH」は、富士工業グループの企業ブランドです。

レンジフードメーカーとしての歴史――自社のブランド化

ーー事業内容をご解説ください。

柏村浩介:
創業83年目を迎えました。現在は厨房機器メーカーとして主に一般家庭用レンジフードの製造・販売を行っています。キッチンメーカー様をはじめ、BtoBのお取引が多い中で、2019年以降は自社ブランドの展開にも力を入れています。

日本での一般家庭用レンジフード供給台数シェアNo.1のメーカーですが、ODM(委託者のブランドで製品を生産すること。全工程を生産者が担う)およびOEM(委託者のブランドで製品を生産すること。製造工程の一部を生産者が担う)が主な事業であったため、海外の代理店から「日本で『富士工業』の名前を見かけない」と言われ、不信感を持たれたことがありました。

また、日本以外のアジア圏では、一般生活者が家電量販店などで直接レンジフードを購入されますので、将来的な事業の拡がりを踏まえ、自社のオリジナル商品を国内外で「FUJIOH」ブランドとして統一する必要があると感じました。

ーー強みはどこにあると思われますか?

柏村浩介:
QCD(クオリティ・コスト・デリバリー)の追求は業界内で特に評価されている点です。デリバリー(納期)の面では、世界中で人や物が動かなくなったコロナ禍においても製品の出荷を停止したことがありません。「納期を守る」という、メーカーとして当然かつ守るべき責任をまっとうすることが我々の存在価値です。その強みを全社員が理解していたからこそ、どんなときでもQCDを徹底できるのだと思います。

「最も厳しい修行先を選んだ」結果としてのイタリア赴任から社長就任まで

ーー柏村社長の経歴を教えてください。

柏村浩介:
曾祖父が弊社の前身となる会社を創業し、私は4代目にあたります。先代社長である父から跡継ぎとして育てられたわけではないものの、「父の思いを一番理解しているのは私だ」と感じる出来事があり、大学卒業を機に家業へ入りました。

入社後は「他の社員が持っていない実績をつけよう」と考え、イタリアのパートナー企業で勉強しました。英語すら苦手だったため、父から提案された修業先の中で最もつらい場所だろうと思いつつ、「将来的にはイタリア語も身につけたことが自分の一番の武器になる」と信じて2年間ふんばりました。

帰国後はモノづくり全般を学んだのち、父の病気が発覚したことから2014年に代替わりした次第です。当社ならではのフットワークで動き続けることが第一だと考えています。

「空気環境を改善する」というビジョンーー製品開発における差別化と海外展開

ーー今後の展望をお聞かせください。

柏村浩介:
飲食店・食品工場・病院といった空気環境を重視する場所を中心に、プロユーザー向けの製品を充実させていきます。製品開発としては「空気環境を改善する」というビジョンを掲げ、空気清浄やCO₂濃度の管理技術を高めています。家庭用機器とは異なる分野であるため、社会の役に立てる製品や技術を開発しつつ、新規取引先の開拓も必要です。

これまでの一般家庭用機器開発で培った清掃面での技術は他社との差別化ポイントでもあります。そこで「一般家庭用レンジフードのようにフィルター掃除が楽になります」とアピールしたところ、大手コンビニエンスストアとの大口契約が決まりました。日々の掃除がかなり軽減されるのです。ニッチなニーズに応える独自の技術は、他社にはない強みです。

ーー海外展開にも注力しているのでしょうか?

柏村浩介:
アジアを中心にした海外展開として、シンガポール・中国・台湾・マレーシアに拠点があります。日本も含めてアジアの調理は炒める工程が多く、レンジフードの使用環境が似ています。家電量販店やECサイトでレンジフードを買うという日本以外のアジア圏の文化も特徴的で、欧米圏よりも勝機があるのです。将来的には総売上高の20%を目指し、人材確保や会社作りに積極的に投資している段階です。

私は「チャンスは残念ながら平等に与えられるものではない」と考えています。チャンスを待つだけでなく、何事にも興味を持ち、主体性を持って行動できる人はぜひ弊社にお越しください。

編集後記

今までの市場も大切にしながら、空気環境改善事業を通して人々の暮らしを豊かにすることを目指すFUJIOH。日本国内の新設住宅着工戸数が今後も減少予測の中で、老舗企業でありながらもニッチな新規マーケットを開拓していく野心に大いに刺激を受けた。

柏村浩介/1982年、神奈川県生まれ。日本大学を卒業後、2005年に富士工業株式会社へ入社。イタリアのエリカ社に赴任し、2年にわたり、ものづくりを学ぶ。帰国後、開発・生産本部副本部長、開発本部本部長に就任。2014年に代表取締役社長に就任。2018年、世界統一ブランドを「FUJIOH」とする。