※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

「形を生み出す」ことへの情熱を原点に、35年以上にわたり機械設計一筋で歩んできた多田東市氏。2021年に京都精工株式会社の社長に就任し、評価制度の見直しや人材育成の強化に取り組むとともに、次世代への技術継承を視野に入れた経営を推進している。

専門機器の設計・製造においては、一貫した生産体制を確立し、取引先や地域社会から厚い信頼を得ながら堅実な成長を遂げてきた。技術、人材、信頼を三本柱に、新たな挑戦を見据える経営者の姿に迫った。

鉄を形にする魅力が導いた天職

ーー機械設計の世界に足を踏み入れたきっかけを教えてください。

多田東市:
鉄を形にする仕事に強く惹かれ、この道を選びました。自ら設計し、加工し、部品として組み立てる一連の流れに関わる中で、機械設計が自分の天職だと実感しました。高校卒業後から一貫してものづくりの現場に携わり、気づけば35年以上経過しています。

入社当初、明確な夢があったわけではありません。しかし、設計から加工、組み立てまでのプロセスに没頭する中で、この仕事の奥深さと喜びを実感しました。ものづくりに向き合い、日々成長してきた経験が、今日の自分を支えています。

ーー2002年には中国・佛山にも進出し、海外赴任も体験されていますね。

多田東市:
当初は技術顧問として赴任しましたが、肩書きだけでは信頼を得ることは困難でした。中国人スタッフの信頼を築くには、時間と努力を重ねるだけでなく、文化や現場の空気を深く理解する必要があると痛感しました。そこで、システムづくりを進める前に、まず意識改革が重要だと気付いたのです。

この経験を通じて、現地スタッフの信頼を得るには、一貫した行動と実績こそが不可欠だと再認識しました。真の信頼関係は、現場での実績を積み重ねる中で徐々に築かれるものです。机上の理論ではなく、現場で実践的な技術力を示すことが信頼を得る鍵でした。

設計から保守まで、ワンストップの技術サポート

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。

多田東市:
弊社は、産業用自動機や検査装置の設計・製作を中心に、製造現場における自動化を支援しています。製品づくりの全工程を社内で完結するワンストップ体制を整えており、構想段階から納品、さらにはアフターメンテナンスまで、一貫したサポートが可能です。

特に、リークテスト装置や画像検査装置といった分野において高い技術力を持ち、これらを組み込んだ製造ラインの設計や製作にも対応しています。また、お客様の要望に応じた設計に対し、限られた条件下でトラブルを解決できる技術力が弊社の強みです。

トラブル対応には、時間的制約やさまざまな制限がつきものですが、その中で最適解を導き出すことが、私たちの真価だと自負しています。これらの技術を磨き、組織全体で維持・向上させ続けることが私たちの使命です。

次世代を見据えた公平な評価制度の確立

ーー注力していることはありますか?

多田東市:
社長就任からの3年間、評価制度の整備に力を注いできました。次世代、さらにその次の世代を見据え、公平に人を評価する仕組みが必要だと考えています。教育カリキュラムとも連動させることで、単なる評価の仕組みにとどまらず、実効性のある人材育成の基盤づくりを目指しています。

この取り組みでは、20年以上の実績を持つ前社長(現会長)の実績も参考にしながら、制度設計を進めました。一朝一夕には完成しないものですが、これからも追加や修正を重ね、より良い制度へと育てていく方針です。

「技術は後からついてくる」挑戦する姿勢を重視した人材採用

ーー人材採用において、特に重視されている点をお聞かせください。

多田東市:
新卒採用においては、技術力よりも探究心を重視しています。「なぜ?」という疑問を持ち、自ら学ぼうとする姿勢が何より大切です。もちろん、失敗することもあるでしょう。真摯に取り組んだ上での失敗であれば、それは必ず次の成長につながると考えています。それを糧に次の挑戦に活かす姿勢を評価しています。

ーー社員の成長を支援する上で、どのような環境づくりを心がけていますか。

多田東市:
言うべきことは言い、聞くべきことは聞く、自己弁護に終始しない姿勢を重視しています。失敗した経験は必ず記憶に残り、それが次の成長につながります。そのため、適切な範囲内での失敗は許容し、それを学びの機会と捉えるよう心がけています。また、社員同士が疑問や課題を率直に話し合えるコミュニケーションの場を整え、前向きな雰囲気を醸成することにも注力しています。

世代を超えて受け継がれる技術力の維持・向上

ーー今後の経営課題について、どのようにお考えでしょうか。

多田東市:
最大の課題は技術の継承です。30代の技術者が50代になる頃には、体力の衰えは避けられないため、その分を経験と知恵で補っていく必要があります。世代交代を円滑に進めながら、いかに技術力を維持・向上させていくか。これは簡単な課題ではありませんが、次世代の育成を促しつつ、地道に進めていきたいと考えています。

編集後記

多田社長へのインタビューを通じて、ものづくりへの純粋な情熱を強く感じた。「何もない所から形を生み出す」ことへの喜びを語る言葉には、35年という歳月をかけて技術を磨き続けてきた確かな重みが感じられた。そして今、その情熱は次世代育成への確固たる使命感へと形を変えつつある。

失敗を恐れずに挑戦できる環境づくりや、公平な評価制度の構築に向けた真摯な姿勢から、技術者から経営者へと立場は変わっても、ものづくりへの愛情と信念は少しも揺らいでいないことが伝わってきた。

多田東市/1964年京都府出身。伏見工業高等学校卒業。1996年に京都精工株式会社入社。中国現地法人 京都精工(佛山)精密機械有限公司の設計部長、同副総経理を務めた後帰国し、取締役設計部長を経て、2021年、代表取締役社長に就任。