※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

通信自由化の波に乗って学生起業家としてスタートし、幾度もの事業転換を経て、今なお成長を続ける株式会社トラース・オン・プロダクト。IoTやエネルギー削減など、時代の最先端ともいえる事業を担う同社の戦略と展望について、代表取締役社長の藤吉英彦氏に話を聞いた。

学生起業から始まった、波乱万丈の経営者人生

ーー創業から現在に至るまでの経緯をお聞かせください。

藤吉英彦:
私は1991年に静岡大学工学部に入学しました。当時は通信自由化の波が押し寄せていた時期で、その変革のなかで見出したのが通信分野のビジネスチャンスです。

大学2年生の時に株式会社光通信の静岡事務所において、個人事業として新電電のアダプター取り付け工事を始めたことが起業のきっかけであり、私の経営者としての原点となっています。1993年には携帯電話の販売も手がけて事業を広げ、正式に会社を設立したのは1995年のことでした。

その後は、KDDIのPHSショップを静岡県の静岡市と沼津市に出店。事業の拡大を続けていたさなかの1998年、主力事業だったKDDIのアダプター取り付けビジネスが国の通信関連の政策変更で終了することになり、大きな転機を迎えることになります。会社の業績は大きく傾き、30人いた社員を7人にまで削減するというリストラを経て、再び会社の再建に取り組むことにしたのです。

ーー主力事業が継続できなくなった状況で、どのように立て直しを図ったのでしょうか。

藤吉英彦:
ちょうど時代の新しい流れが訪れ、インターネットの波がきました。そこでマンション向けのインターネットサービスや映像配信事業へと業態を転換させ、さらにホテル向けのビデオ・オン・デマンド・システムの開発・販売へも事業を展開したことが奏功し、株式上場を果たすまでに成長しました。

その後も何度か事業を変えながら、現在はIoTやエネルギー削減、小売店向けの商品評価をリアルタイムで表示するシステムなど、新たな分野に挑戦しています。

ニッチな技術で圧倒的な強みを築く

ーー貴社の事業内容と強みについてお聞かせください。

藤吉英彦:
弊社の強みは、エンベデッド(組み込み)技術と呼ばれる、専用デバイスのファームウェア開発技術です。これは一般的なスマートフォンアプリやウェブサイトの開発とは異なる、非常にニッチな分野です。

この技術を活かし、防衛省の艦船や警察の通信機器など、特殊な用途の機器開発を手がけています。また、過去には、台湾の工場と協業して商品開発を行ったことがあります。そこで培った技術ノウハウを活かし、機器の設計・開発をゼロから立ち上げることも得意で、弊社の強みになっています。

現在取り組んでいるのは、IoTを活用したエネルギー削減ソリューションです。これは商業的なビジネスの範囲にとどまらず、労働人口の減少や環境問題など、社会課題の解決にも貢献する事業です。また、小売店向けに顧客の商品評価をリアルタイムで表示するシステムなど、オンラインとオフラインを融合させた新しいサービスの開発も行っています。

新たな価値創造に向けた戦略と、「圧倒的な」価値を追求する経営哲学

ーー今後の注力分野と課題についてお話しいただけますか?

藤吉英彦:
現在、最も注力しているのが新規取引先・パートナー企業の開拓です。私たちのエネルギー削減ソリューションは、日本でも類を見ない技術であると自負しており、これを全国に展開していくためには、同じビジョンを共有できるパートナー企業との連携が不可欠な要件だと思っています。

また、事業を拡大するうえで営業部門の体制強化も課題です。しかし、単に人数を増やすのではなく、少数精鋭による効率的な体制を目指しています。パートナー企業に営業を担ってもらい、私たちはプロとしての知識やノウハウ、技術を提供する形で展開していきたいと考えています。

さらに、経営幹部候補の育成も重要テーマとなっています。新たな事業領域に挑戦し続けるため、高いレベルのサービスを提供できる人材の育成を欠かさず行うよう、努力しています。

ーー最後に、貴社が求める人材像と今後の展望をお聞かせください。

藤吉英彦:
多面性を持った、主体的に行動する人材がほしいと思っています。指示待ちではなく、自発的に動いていけるような人です。私の経営哲学は、「圧倒的なもの」を追求することです。単に他社と比較して少し良いというのではなく、比較の対象にすらならないような圧倒的な価値を生み出したい。そのためには時間がかかっても構わないと思っています。

たとえば、現在取り組んでいるエネルギー削減ソリューションは、まだ業績には直結していませんが、圧倒的な価値を持つ商品に育てていきたいと考えています。最終的には、日本発の技術で世界市場に挑戦したいですね。日本は特殊な市場ですが、ここで成功すれば、世界でも通用する可能性は十分にあります。

これからも、「圧倒的なもの」を追求し続け、新たな価値創造に挑戦していきたいと思います。

編集後記

藤吉社長の「圧倒的なものを追求する」という言葉が印象的だった。幾度もの危機を乗り越え、そのたびに新たな分野に挑戦してきた同社の歴史は、まさにこの哲学の体現といえるだろう。IoTやエネルギー削減など、社会課題の解決にも貢献する最新の取り組みにも、株式会社トラース・オン・プロダクトの高い積極性と力強さを感じた。同社は、さらなる成長と革新が期待される極めて先鋭的な企業であり、今後が楽しみだ。

藤吉英彦/1973年、岐阜県生まれ。1993年、静岡大学在学中に創業し、1995年にトランザス(現在の株式会社トラース・オン・プロダクト)を創立。大学を休学して事業拡大に尽力した結果、大学への復学を断念。2011年に北京大学でMBAの課程を修了し、MBAを取得。現在までに4つの特許を取得している発明家でもある。