1907年に日本で初めてマーガリンの製造を開始したリボン食品株式会社。冷凍パイ生地や冷凍ホットケーキ、冷凍デザートケーキなど、数々の「日本初」を生み出してきた食のパイオニアだ。現在は、マーガリンをはじめとしたさまざまな油脂や冷凍パイ生地、焼成タルトなどの業務用商品を中心に、「低糖工房」や「Fat Witch New York」、「Minotte」などの一般消費者向けブランドも展開している。「ユニーク」をモットーとするリボン食品でひときわユニークな経歴を持つ筏社長からお話をうかがった。
夢中になれることを探して渡米した後、家業を継いで会社を変革
ーー当初、ホテルウーマンを目指していたそうですが、その理由を教えていただけますか?また、アメリカでの経験についても教えてください。
筏由加子:
私は幼い頃から教師になりたいと思い、教師を夢見て塾講師のアルバイトをはじめました。アルバイトとは言え、大学時代の4年間をかけて一生懸命仕事に向き合った結果、大学を卒業する頃には、教師になる夢が果たされたような感覚を感じたことを覚えています。
そこで次に夢中になれることを探したときに、幼い頃祖母と一緒に見ていた「HOTEL」というドラマに登場するホテルマンたちの姿を思い出し、次の目標をホテルウーマンに決めました。
アメリカのデンバー大学を卒業し、ホテルをはじめ、3社ほどの会社に勤務しましたが、日本とアメリカではビジネスの進め方が異なり、昨日まで一緒に働いていた人が今日解雇されるといった場面に度々遭遇しました。
アメリカでは日々100%以上の力を出さないと生き残っていけないと実感しました。緊張感を持って働くことで日々最高のパフォーマンスを発揮できる一方で、皆、働きながら万が一解雇されたときの身の振り方を考えています。会社に対する愛着心は日本人ほどではないように感じました。
転機が訪れたのは、日本に一時帰国した時です。当時の専務に家業の「リボン食品に帰ってきてほしい」と言われ、100年以上続く企業の歴史はお金では買えない価値があると気付かされたのです。今まで、他人の会社でも好きになって一生懸命に働いてこられたのだから、自分の家の会社なら、もっともっと好きになれる、より一層頑張れるだろうと、その日のうちに会社を継ぐことを決意しました。
ーーリボン食品に入社してからは、どのようなことに取り組みましたか?
筏由加子:
入社後は開発部長として商品開発や新事業の立ち上げなどを担当し、常務時代には現場の苦労を肌で感じるべく各工場で働いたこともありました。その後専務経験を経て、社長に就任したのが2018年です。社長に就任する際、責任感と同時にワクワク感を覚えたことを思い出します。
それまで自分が担っていた実務を誰かに任せる寂しさやもどかしさはありましたが、父である会長がこれだけ大事な会社を私に任せてくれたので、これからどうやって輝かせ続けようかというワクワクの方が勝っていました。
社長就任後は、皆が働きやすい環境をつくるため、年間休日数を増やすなど、就業規則の改定に取り組みました。社員食堂も充実させ、社員の健康面にも気を配り、この春からは賞与の支給制度を変更し、皆が安定した賞与を受けとれるようにしました。
自由な発想とチャレンジを生み出す経営理念
ーーリボン食品の事業内容や強みについて教えてください。
筏由加子:
弊社は1907年に日本で初めてマーガリンの製造を開始し、加工油脂やパイ生地なども製造しています。求められた原料を販売するだけでなく、商品企画やクライアントの生産ラインの検討、工場立ち合いなども行っており、こうしたBtoBの仕事が全体の9割です。
BtoCの事業としては、ブラウニー専門店や女性特有のトラブルに食でアプローチするブランドなども展開しており、このBtoCには社員が自慢や誇りを持って働いてほしいという思いも込められています。一般消費者に届く商品を持つことで家族や友人、恋人などに会社や商品を認知してもらえるため、社員の誇りにつながるのではないかと考えています。
弊社の強みはモットーである「ユニーク」です。「こういうことをしたらおもしろいんじゃないの?」という社員の声を逃さず、スピーディーに実行に移してきました。たとえば「マーガリンが料理の上で燃えたらおもしろいのでは?」という声から、ステーキやアイスクリームの上で燃えてお客様へのパフォーマンスにもなるマーガリンを開発しました。「アイデア募集ボックス」を用意して、アルバイトやパートを含む全社員からアイデアを募集することもあります。
ーー「理念なき理念経営」について教えていただけますか?
筏由加子:
「理念なき理念経営」はリボン食品最大の特徴です。祖父も父も、「明文化された理念があるとそれに縛られてしまう。ユニークさを追求する会社は柔軟であるべきだ」と考えていました。半信半疑だった私は、多くの社員にリボン食品が大事にしていることは何かと聞いたのです。
すると、「ユニーク」や「柔軟」など共通するワードがたくさん出てきました。理念を明文化せずとも、そのワードをレゴのように自由に組み立てることで、思いもよらない発想に至る。その方がリボン食品のカラーに合っていると納得しました。「理念なき理念経営」が、リボン食品らしい自由な発想とチャレンジを生み出しているのではないかと思います。
「200年後もみんなの帰る場所」を目指して
ーー今後、注力したいことについて教えてください。
筏由加子:
やりがいをもって働いてもらえる環境づくりに注力しています。上からいわれたことをやる、という「やらされ仕事」ではやりがいを見い出しにくいので、自由な発想で意見し、チャレンジしてもらえる環境づくりが重要だと思います。
また、評価制度というところでは、会社が期待することや働く目的など、状況の見える化に取り組んでいきます。漠然とした「頑張っている」という評価ではなく、求めることを明確にすることで、一緒に成長していける環境をつくっていこうと思います。その上で、お客様の要求に応え、家族に安心して食べさせられるかどうかを判断基準にいい商品をつくり続けることで、150年、200年続く、みんなの帰る場所であり続けたいと考えています。
編集後記
「ユニーク」を土台に社員の声に耳を傾け、食のパイオニアとしての事業を展開するリボン食品。その背景には、アメリカでの社会経験を持つ筏社長の視点がある。この経験が生み出す化学反応は、よりチャレンジングな発想を社員にもたらし、「ユニーク」を加速させるだろう。リボン食品の未来は、伝統を守りながらも常に新しい挑戦を続ける姿勢に支えられて輝いていると強く感じた。
筏由加子/1978年、大阪府出身。2004年、アメリカのデンバー大学を卒業後、同地でハイアットなどのホテル勤務に従事。2005年、リボン食品株式会社に入社。再度アメリカで他企業に勤務した後、2012年にリボン食品へ再入社。2014年に専務取締役、2018年に代表取締役社長就任。