※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

農林水産省などの推計によると、2022年度の日本のフードロスは約472万トン、このうち事業系のフードロスの量は236万トンに上るという。株式会社クラダシは「日本で最もフードロスを削減する会社」というビジョンを掲げ、フードロスの削減に挑戦している。2024年に代表取締役社長CEOに就任した河村晃平氏に経済性と公益性の両立を目指す社会貢献ビジネスの取り組みをうかがった。

SDGsの国連採択に先駆けてフードロスの削減ビジネスに挑戦

ーーはじめに、貴社の事業「Kuradashi」について教えてください。

河村晃平:
弊社は、「ソーシャルグッドカンパニー」というミッションを掲げ、環境に配慮する事業をビジネスとして成立させることにより社会に貢献することを目的としています。具体的にはフードロスを削減するためのECサイトを運営しており、それがソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」です。

フードロスの中には、1/3ルールなどの商慣習やパッケージングの不具合など一般の流通では販売できなくても食品そのものには問題のないものがあります。Kuradashiは、まだ食べられる食品を買い取り、ECサイトを介して消費者にリーズナブルな価格で提供する仕組みです。さらに、売り上げの一部を環境保護・災害支援などに取り組むさまざまな社会貢献団体への寄付やクラダシ基金として活用し、SDGs17の目標を横断して支援しています。

ーー食品事業者や消費者からの評価はいかがですか?

河村晃平:
消費者には、欲しい商品を安い価格で購入できるというお得感やお宝探しのような感覚で買い物を楽しんでいただいております。また、自らの購買行為が社会貢献につながるという点で共感をいただきました。

一方、食品メーカーからは、ESG(※)の観点からして、これまでの「食べられるのに廃棄せざるを得ない」というジレンマを解消する画期的なソリューションが見出せたといった評価を受けています。

(※)Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)を考えた投資活動や経営、および事業活動のこと

ーー創業当時、食品メーカーの受け止め方はいかがでしたか?

河村晃平:
弊社の設立は2014年7月ですが、当時の食品メーカーはフードロスという概念がありませんでした。価格破壊やブランド毀損といった懸念が強かったですね。2015年にSDGsが国連サミットで採択されましたが、弊社の事業が大きく動いたのは2019年10月の食品ロス削減推進法が施行された後です。

事業化できているのは市場規模の1%。事業規模の拡大を目指す

ーー事業で主に注力している点について教えてください。

河村晃平:
会社設立から5年後の2019年に入社し、まず取り組んだのは、会社のミッション、ビジョンの確立でした。

経済性と公益性の両立によるサステナブルな社会貢献を実践できるよう努めています。他にも、強固な経営基盤を築くために、収益性の確保を実現する事業計画の策定にも力を入れました。

ーー今後の経営ビジョンについてどのように考えていますか?

河村晃平:
一つは、フードロスの削減に貢献するEC事業のさらなる成長です。このビジネスの市場規模は8500億円とも言われていますが、弊社の事業規模はまだ1%程度です。今後成長の余地があります。

もう一つは、組織全体の価値生産性を高めることです。EC事業のバリューチェーンには、「製造工程」「倉庫保管」「販売戦略」「販売チャネル」という4つの機能があります。これらの機能の強化とM&Aを併用することによって、収益力の向上、事業規模の拡張をはかっているところです。

社内カンパニー制の導入によって事業の拡張と意思決定のスピードアップを実現

ーー各領域の未来について教えてください。

河村晃平:
まず製造の領域では、需要に見合った最適な生産量を予測する機能を開発し、食品メーカーをサポートする事業などが考えられます。また、M&Aによって弊社が製造事業を行うこともありえるでしょう。

倉庫管理で言えば、一般的なデータ管理だけでなく、弊社のノウハウを活用して賞味期限などのスケジュール管理も行うことでフードロスを迅速に回避する仕組みをつくることができます。

また、販売戦略、マーケティング販促では、フードロスの削減をブランド価値の向上につなげるコンサルティングも視野に入ってきます。SDGsが今後ますます重視されると、このような領域の事業の可能性は大きいでしょう。販売チャネルにおいては、これまでのBtoCビジネスに加えて、BtoBも取り込みたいですね。

ーー事業を拡張するためにどのような取り組みをしたのでしょうか?

河村晃平:
私が社長に就任したタイミングで組織体制を変更し、4つの事業部門をカンパニーとして独立させました。

実際に、ECカンパニーを基幹としつつ、ロジスティクスソリューション、ブランドソリューション、サプライチェーンソリューションの3つの事業部門をカンパニーとして設けています。各カンパニーのトップはCEOとして事業部門における意思決定があるので、仕事のスピード感は飛躍すると見込んでいます。

ーーカンパニー制を設けることで、貴社の新しいステージが開かれていくということですね。

河村晃平:
社内カンパニー制を導入することによって「ソーシャルグッドカンパニー」としての経営基盤がさらに強くなり、経済性と公益性の両立が進み、その先にある資本主義の新しい形として示せるのではないかと考えています。

食品メーカー、消費者、そして弊社が支援する社会貢献団体の「三方が全てよし」という形をもっと大きな規模で実現したいです。

編集後記

EC事業のバリューチェーン分析や社内カンパニー制の導入によって、経営基盤をさらに強くするとともに、フードロス削減ビジネスのさらなる活性化につながるということを実感した。「市場全体の1%しか取り込めていない」と語る河村社長の画期的な経営戦略によって、社会貢献につながるビジネスとして確立する動きに今後も目が離せない。

河村晃平/1985年生まれ。早稲田大学を卒業後、2009年より豊田通商株式会社にて自動車ディーラー事業に従事。5年間の中国駐在ののち、株式会社Loco Partnersの執行役員を経て、2019年6月に株式会社クラダシに入社。以来、ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」の運営を中心に事業成長をリードし、取締役執行役員CEOを経て、2024年7月に代表取締役社長CEOに就任。