
全国の転職希望者は、2017年から7年連続で増加し、その数はついに1000万人を超えた。一方で、求職者が企業に求める価値観や条件は多様化しており、自身に適した企業を見つけるのは容易ではない。
働く人々のキャリアやストーリーを発信し、就職や転職活動をする人に、仕事やキャリアパスを紹介するサイト「talentbook」を運営するtalentbook株式会社。この分野において、「自社で働く社員の情報を発信する意味があるのか?」と問われた時代から、同社は道を切り開いてきた。今回は、共同代表取締役の大堀航氏に、働く人に焦点を当てた背景や、これからの採用広報のあり方についてうかがった。
PR現場で気づいた「人」を通じた企業価値の発信
ーー創業のきっかけとご経歴を教えてください。
大堀航:
創業前は、企業の広報支援を2社にわたって経験しています。1社目の総合PR会社では、IT系の企業や地方自治体の広報戦略を立案・実行していました。2社目は、オンライン英会話サービスを提供する企業の広報責任者として入社し、上場を経験しました。
事業規模の小さいベンチャー企業は、毎日発信できるニュースがあるわけではありません。しかし、ある老舗企業の女性研究員にインタビューを通じて情報を収集し、記者さんに情報提供を行った結果、その内容が大手全国紙の記事として掲載され、社員の考えが社会に伝わる喜びを感じました。「働いている社員一人ひとりが、会社の広報資産だ」とひらめいたのです。
社員の情報を発信できる場を提供すれば、多くの企業が「人」を通じて魅力を伝えられるのではと考えるようになり、この思いが創業の原点となりました。
工数8分の1を実現!AIが広報を変える

ーーどのような事業を展開されていますか。
大堀航:
弊社は、AIを活用した新しいHRプラットフォームを運営しています。例えば、個人向けには、就職活動や転職活動に役立つキャリア学習サイトです。このサイトでは、さまざまな人の働き方やキャリア事例を紹介し、働く人々の「作品」が集まる美術館のような場を目指しています。
法人向けには、運用型採用広報ツールとしてtalentbookを提供していますが、そのツールは採用広報支援や1万本以上のインタビュー記事作成実績を活かし、記事の作成、発信、分析を一元的に行えるという優れた機能を備えているものです。他社ツールも多様ですが、私たちは、さらに「良いもの」を提供している自信があります。
ーーどのような特徴がありますか。
大堀航:
特に注目されているのが、「社員インタビューAI」という機能です。従来のインタビューは企画から取材執筆まで多くの工程が必要でしたが、この機能では、私たちのノウハウをAIに搭載させることで、より手軽に記事を作成することが可能になりました。
工数は従来の8分の1に短縮され、このインタビューも話している間に記事が完成します。ご試用いただいた方々からは、「人が隠れているのかと思った」などの感想をいただき、私たちもさらに自信を深めています。
加えて、talentbookには伴走支援が付いており、課題解決に向けたSNS広告の運用に関する提案も行っています。この伴走支援では、勘に頼るのではなく、データに基づいて施策を展開する点が特徴です。
ーーどのような企業にマッチするサービスですか。
大堀航:
大手の場合は、新卒採用からキャリア採用へシフトする企業が増えてきているものの、発信不足で事業の魅力が伝わっていないという課題を抱える企業に適しています。こうした企業の、社員を通じて自社の魅力を伝えたいというニーズに応えます。
中小企業では、talentbookに掲載されたことで、社員がやりがいを感じているという声をいただきました。企業への愛着心を高められるという観点からも、有効なサービスであると自負しています。
3万社の物語を届ける採用広報の未来
ーー創業後、どのような苦労がありましたか。
大堀航:
当初は、社員の発信について企業から「やる意味があるのか?」という反応ばかりでした。特に実名発信については、「引き抜きのリスクがあるからやらない」と考える企業が多かったのです。
しかし、現在では、会社内部を見える化することで競争力が向上し、他社との差別化につながると評価され、採用広報やブランディングの一環として、社員情報の発信が普及しています。この変化が生まれるまでには、創業から約6年という時間を要しました。
ーー大切にされている考えを教えてください。
大堀航:
私たちのビジョンやミッション、バリューに通じるものですが、「違和感をなくす」ことを重視しています。仕事をしていると、「誰のために働いているのか」「お客様のためになっているか」といった違和感を覚えることがあります。
これを放置するとモヤモヤが積み重なり、思考力の低下や生産性の減少につながるのです。だからこそ、気になることを誰かに相談したり、話し合ったりすることで解消していく社内風土を大切にしています。
ーー今後、注力したいことや展望をお聞かせください。
大堀航:
有名人ではなく、身近な人々のキャリア選択や働き方を発信することで、キャリアについての視野や選択肢を広げられる場を提供していきたいと考えています。転職希望者が1000万人を超えたといわれる時代において、その全員が利用するサービスを実現するには、あと3万社が必要です。
この3万社というのは、大手新卒ナビサイトに掲載されている企業数に相当しますが、「3万社で働く方々のストーリーが何百万人分掲載されています」といえるぐらい、多くの社員のストーリーを求職者に届けられる状態を目指しています。
また、今後はAIを活用して社員インタビューのフォーマットを多様化させると同時に、求職者が閲覧するタレントに関して、その人の考え方、職種、キャリアに近い人物を推薦する仕組みを構築したいですね。
編集後記
「働く人の姿を見せることに意味があるのか?」という問いから6年。talentbook株式会社は大堀氏のもと、リアルな情報を発信し続けることで、採用広報の新たな形を築いてきた。
「3万社、数百万人の働く人々の物語を届ける」という大堀氏の展望は、もはや夢ではない。AIによる効率化と、キャリアマッチングの精緻化により、1000万人の転職希望者それぞれが、自分らしい働き方に出会える未来は、確実に近づいている。talentbookは、テクノロジーの力で、「働く」をもっと身近に、もっと魅力的に変えていく。

大堀航/2008年、大手総合PR会社のオズマピーアールに入社し、IT企業を中心に広報戦略立案・実行業務に従事。2012年、レアジョブに入社し、広報責任者として2014年に東証マザーズ上場に貢献。2014年、弟の大堀海とPR Tableを創業する。採用マーケティング支援サービス「talentbook」を通じて、これまで累計1200社以上の大企業・成長企業の情報発信を支援している。