※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

自社に適切な人材を見つけたいが、その評価方法が確立されていないと悩む企業。生徒の学力だけでなく、多様な力を伸ばす手法が見えてこないと悩む学校。世の中のこうした課題に応えるため、「人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、をつくる。」というビジョンのもと、人材評価と教育改革に挑む企業がある。

それが、Institution for a Global Society株式会社(以下IGS)だ。IGSは、科学的エビデンスに基づいた一貫性と信頼性の高い能力測定ツールを開発し、さらにその評価に基づいて、企業の人事育成や教育改革へ貢献するシステムの構築に取り組んでいる。今回は、代表取締役社長 COOの中里忍氏に、その歩みや会社の強み、そして今後の展望についてうかがった。

教育への情熱が導いた新たなキャリア

ーー入社するまでのキャリアについて教えていただけますか?

中里忍:
大学卒業後、生命保険会社に入社し法人営業に携わっていた際、経済同友会初の女性会員である起業家のインタビュー記事を目にして感銘を受けました。思い切って彼女にメールを送ったところ、採用していただけることになり、彼女のもとでPR領域の仕事を始めました。

その会社は人材派遣・紹介・研修を行う企業で、多くのプロジェクトを任せていただき、遂行しました。その後、より本格的にPRの仕事に取り組むために外資のPR会社に入社し、さまざまなクライアントのPRを手がける中で、現場の面白さを実感するとともに、部下の成長を見届けることに大きな喜びを感じるようになりました。そして、コミュニケーションの仕組みや人材マネジメントに興味を持つようになったのです。

その頃、メディア関係のAll About(オールアバウト)から声をかけていただき、執行役員に就任しました。

しかし、オールアバウト入社2年目に体調を崩したことで人生観が変わり、自分が本当にやりたいことを考えた結果、教育業界への転身を決意してIGSに入社するに至りました。もともと教育学部出身であり、経済格差や機会の格差に問題意識を持っていたことが、転身の理由です。

革新的な評価ツールが切り拓く教育と人材の未来

ーーIGSの事業について教えてください。

中里忍:
弊社の事業の核は、評価のイノベーションです。HR(Human Resource)事業では、従業員の能力や特性を測定する360度評価を行う「GROWシリーズ」を、また教育事業では、児童・生徒向けの「Ai GROW(アイ・グロー)」という能力測定ツールを提供しています。

これらは、論理的思考能力だけでなく、リーダーシップやコミュニケーション能力なども含めた行動特性を評価するもので、バイアスの最小化と、評価の一貫性の保持が課題となっています。特にHR事業では企業がより良い人材に投資するためにデータを分析し、提供するのが主な業務です。

「GROWシリーズ」は、自己評価と他者評価をアンケート形式で回答します。他者評価は忖度が入りやすいので、AIを用いて評価時間や評価の質の偏りを補正し、スコア化します。評価する人数を多くすることで、妥当性と信頼性を高めている点が弊社の強みです。

学校では文科省が重視している思考力・表現力の評価方法や、それに基づくフィードバックの仕組みが不足していることが課題だと考えています。

「Ai GROW」は小4から大学生が対象で、児童・生徒・学生の資質・能力と各種教育活動の教育効果を定量化するツールです。即座に結果が見え、、周りからの評価もわかるので、自分の強みなどを知ることができます。伸ばし方のアドバイスなども書かれています。また、このツールは一時的な評価だけでなく、たとえば個人の信用評価につながるような継続的かつ総合的な新たな評価システム構築の可能性があると考えています。

ーー事業を展開するにあたり、どのような苦労がありましたか?

中里忍:
開発当時はデータが少ない中で、妥当性と信頼性をどのように証明するかは困難でした。モデル構築とその信頼度向上に関する技術的課題、評価の正誤を確認するための指標の開発、そしてクライアントの納得度を高めるためのロジックの蓄積に多くの時間を費やしました。精度を向上させる試みは今後も続けていきます。

また、能力は多種多様であり、社会が複雑化するほど評価に多様な専門性の組み合わせが必要になってきます。その点を顧客に理解してもらい、評価制度の改革を促す啓発活動もまた難しい課題です。

ーー市場開拓にはどのようなアプローチをされていますか?

中里忍:
認知や集客に関しては、メディアを通じて、企業が弊社を利用するメリットを発信しています。また、大学との連携も欠かせません。共同開発を通じ、企業に興味を持ってもらう努力を続けています。さらに、DMの送付や名刺交換した方々へのセミナー案内の送付など、さまざまな活動を展開しています。

また、例えばHR事業では、弊社ならではの価値提供として、蓄積されたデータを基に、研修内容や管理職候補の選定、管理職育成方法についての参考資料を企業に提供し、研修内容や研修後の能力変化、あるいはその予測に役立てていただいています。

評価基準の標準化とグローバル展開への挑戦

ーー今後のビジョンをお聞かせください。

中里忍:
弊社サービスの内容も利用者も、グローバル化を推進し、、エンタープライズに強い企業との連携・提携を進めることで、市場開拓および営業力のさらなる強化に注力していきます。また、国内地域に限定せず海外比率を高め、グローバルでの評価の標準化を図ります。

採用については現在は中途採用が主ですが、HRや教育に関心がある方であれば経験や年齢は問いません。特に「エンジニア」「データサイエンティスト」「営業の専門家」を求めており、顧客により良い提案ができる人材、顧客の抽象的な希望を具体化して弊社のソリューションに結びつけられる人材を強化しています。

新しいものに対する好奇心が強く、情報に対して開放的であり、抽象と具体を行き来できる柔軟な思考を持つ方を歓迎します。

編集後記

中里社長の限られた時間の中で効率的かつ的確に評価を行い、その結果を教育に活かそうとする姿勢に感銘を受けた。評価の標準化とグローバル展開が進む評価ツールの進化は、注目に値する。さらに、科学的エビデンスに基づく評価システムの開発は、教育の質の向上だけでなく、企業の人材育成にも大きな波及効果をもたらすはずだ。IGSがこれらの課題にどのように取り組み、未来を切り開いていくのか、その動向を今後も注視していきたい。

中里忍/外資系PR会社、オンラインメディア企業の広報及び協会ビジネス担当執行役員を経て、2016年にIGS入社。教育事業、ONGAESHIの実証実験「STARプロジェクト」の立ち上げ、各事業推進や組織づくりに従事。2024年6月より現職。慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科で教育システムを研究中。システムエンジニアリング修士。東京学芸大学高校探究プロジェクトアドバイザリーボードメンバー。