物価高や原材料価格の上昇、ドライバー不足など、食品業界をめぐる環境は多くの課題を抱えている。そんな中、全国に物流拠点を構え、食品や飲料から消耗資材、品質の高い自社商品まで提供しているのが、株式会社久世だ。
お客様から選ばれている理由や、経営者としての基礎を築いた経験、食を通じた社会貢献に対する思いなどについて、代表取締役社長の久世真也氏にうかがった。
積極的な商品提案でお客様の期待を上回るサービスを提供
ーーまず貴社の事業内容についてお聞かせください。
久世真也:
弊社のグループは、主力事業である食品卸売事業と製造事業、生鮮卸売事業の3つから成り立っています。卸売事業では、首都圏を中心に約1万軒のお客様に食材を供給しています。
製造事業では、キスコフーズ株式会社およびキスコフーズインターナショナル(ニュージーランド)が、業務用のスープやブイヨンなどの製造を行っています。品質にこだわり、調理のプロが手軽に使える製品づくりを行っています。
生鮮卸売業では久世フレッシュワンと旭水産が豊洲市場で仕入れた商品を、全国にある弊社の物流センターへ配送し、鮮度の高い生鮮品をお届けしています。
ーーお客様から選ばれている理由は何でしょうか。
久世真也:
卸売業者として物を運ぶだけでなく、情報も合わせて提供し、利便性の高いサービスやオペレーションでお客様をサポートしている点です。展示会などを通じ、顧客のニーズに合ったメニューや商品の提案を行っています。半歩先を行く提案をすることでお客様から喜んでいただき、多くのお客様にご利用いただいていると自負しています。
今の経営にも生きている過去の経験と東日本大震災での教訓
ーー久世社長のご経歴を教えてください。
久世真也:
企業の社員食堂で4年半勤務、アメリカに1年、九州に1年行き、会計事務所で4年間働いた後、株式会社久世に入社しました。入社後は東京支店の副支店長、経営企画室長、広域営業部長、キスコフーズの社長を経験し、45歳のときに久世の社長に就任しました。
社員食堂でチームワークの大切さや、コミュニケーション、事前準備の重要性などを学んだ経験は、私の原点となっています。また、アメリカの多様な価値観に触れ、日本の良さを再発見しました。会計事務所では厳しい状況に置かれている企業の現実を目の当たりにし、経営の難しさを学びました。私のバックグラウンドと言えるこれらの経験は、現在の経営にも活かされています。
ーー入社してから特に印象に残っている経験はありますか。
久世真也:
特に強く印象に残っているのが、キスコフーズの社長を務めていたときに見舞われた、東日本大震災の経験です。このときは工場が停電で4日間停止し、製造を中止せざるを得なくなりました。
この経験から現場の声を聞き、いち早く現状を把握することや、トラブル時に従業員の気持ちを結束させることの重要性を学びました。また、予期せぬ事態を想定し、事前に備えを行っておくことの大切さも改めて感じました。この経験があったからこそ、経営者にとって重要な学びを得られたと思っています。
効率化の追求と従業員の情熱をかけ合わせ、お客様から求められる企業へ
ーー社長に就任してから、社内の雰囲気はどのように変わっていったと感じていますか。
久世真也:
自ら考え、実行できる体制になりつつあると感じています。高度経済成長期は競争の激しい時代なので、トップが先陣を切って迅速な決断を下す必要がありました。そのため昭和の時代から続いている弊社も、もともとはトップダウン型の組織でした。
そこから各部門、各セクションがそれぞれの役割を認識し、一人ひとりが主体的に行動する組織になりつつあります。最近では子会社からもこの案件に挑戦したいという提案や、M&Aを行う企業の候補案が上がってくるようになりました。
こうした社員の行動から見てとると、社風や雰囲気が大きく変化してきていると感じています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
久世真也:
優れた仕組みと強い情熱のある、「情」と「理」のバランスがとれた組織を目指しています。一人ひとりが熱意を持ってお客様に商品を提案し、戦略を考え出す。そして、お客様の依頼にスピード感を持って応え、頼られる存在になること。
さらに、戦略が明確で利益が出しやすく、社員にとって働きやすい体制を目指しています。こうして感情と理性のバランスを上手くとることで、お客様に必要とされる企業になりたいと考えています。
そのために社員一人ひとりが「やらされている」という意識ではなく、意欲的に参加できる環境を整えていきます。
食品卸会社として楽しく豊かなフードサプライチェーンを守っていきたい
ーー最後に読者の方々に向けてメッセージをお願いします。
久世真也:
異常気象による食糧危機など、食をめぐる環境は日々変化しています。そのため食産業の今後のテーマは、食材の持続可能な調達と、食べたいものを楽しく食べられる環境を守ることです。
人々のコミュニケーションにおいても、食は欠かせない要素です。私たちはさまざまな場面で食を通じて信頼関係を築いてきました。孤独が社会問題化している現代では、食を中心としたコミュニケーションがより重視されていくでしょう。
そうした中、弊社は多様な食材を効率的に提供する重要な役割を担っています。豊かな食を支え、より良い社会を目指す私たちの思いに共感していただける方に、ぜひ力を貸していただきたいと思います。
可能な限りみなさんの意見を受け入れ、実現に向けてサポートしますので、挑戦する意欲のある方を歓迎します。「食を通じて社会に貢献したい」という熱意のある方をお待ちしています。
編集後記
トップダウン型だった組織を自分の意見を言いやすい風土に変えていき、現場で働く社員を大切にする改革を行ってきた久世社長。「食の安定的な供給を支え、豊かな食環境を守りたい」という話からは、食品卸売会社としての強い意志を感じた。株式会社久世は、これからも日本全国に新鮮で良質な食を提供し、人々の食生活を支えることだろう。
久世真也/1972年、東京都生まれ。東京経済大学卒業。2002年に株式会社久世へ入社。取締役営業本部東京支店副支店長をはじめ、常務取締役、取締役副社長を経て、2017年に代表取締役社長に就任。子会社のキスコフーズ株式会社の代表取締役社長も兼任している。