※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

日本では超高齢社会の到来に伴い、50歳以上の高年齢労働者の割合が増えている。こうした中、労働者の負担を軽減するアシストスーツの開発・製造・販売を行っているのが、ダイヤ工業株式会社だ。製品の特徴や自身の転機となった経験、従業員がやりがいを感じられる環境づくりなどについて、代表取締役の松尾浩紀氏にうかがった。

運動器の悩みを解消し、人々を笑顔にする製品を提供

ーーまず、事業内容についてご説明いただけますか。

松尾浩紀:
自社で開発・製造した製品を販売するメーカーベンダーとして、サポーターやコルセットなどを開発・製造・販売しています。接骨院・鍼灸院などのほか、オンラインストアで個人のお客さまにも製品を販売しています。

その中で弊社の主力ブランドとなるのが、bonbone(ボンボーン)とDARWING(ダーウィン)です。bonboneは、腰用コルセットやひざ用サポーターなど、今ある運動器の悩みをサポートする製品を取り揃えています。

DARWINGは、身体を自由に動かせない方々の運動能力を伸ばしたり、体への負荷を軽減したりする製品を販売しています。Power Assistシリーズは、手足に障がいのある方向けの製品を展開しています。人工筋肉に圧縮した空気を送り込むことで、手足の動きを促しています。

この技術を応用したのが、物を持ち上げる際に使う筋肉を補助するアシストスーツです。このスーツを装着して作業することで、労働者の身体負担を軽減できます。この製品は国内だけでなく、オランダを中心に世界8ヶ国へ販売しています。

ーー貴社の強みや他社との差別化ポイントを教えてください。

松尾浩紀:
弊社の強みは個別のカスタマイズに対応できる点です。弊社のR&Dセンターで身体の動作を解析し、個々の特徴に合わせた調整を行っています。

サイズ展開している既製品の場合、人が物に合わせることになります。一方で弊社の場合は、お客さま1人ひとりに合わせて製品をカスタマイズすることができます。それぞれの身体にぴったりフィットするよう調整することで、使い心地の良さを追求しています。

共に働く仲間の大切さを実感した入社当時のエピソード

ーーダイヤ工業に入社した経緯をお聞かせください。

松尾浩紀:
「これから若手を登用して事業を伸ばしていこうと思っているから、うちの会社に入らないか」と父から声がかかったのです。私は父から信頼されたことが嬉しく、その場で快諾しました。

私には兄がいるので、会社に入っても後を継ぐのは私ではないと思っていました。しかし、会社がホールディングス化することになり、子会社の代表に任命され今に至ります。

ーー入社してから苦労した点を教えてください。

松尾浩紀:
まずは論理的な知識を身に付けようと、MBAを取得するため大学院に進学しました。オンラインで受講し、日本とオーストラリアで半分ずつ講義を受けるというコースでした。

しかし、学んだ方法を使ってもうまくいかず、悶々とする日々が続きます。そんなときに京セラの創業者である稲盛和夫さんの考えを知り、「テクニックを生かすには心が大切」ということに気付きました。

それからは共に働く従業員と思いを共有し、同じ方向を見て業務に取り組むことを意識するようになりました。

転機となった先輩方からの愛のこもったアドバイス

ーービジネスパーソンとして成長できたターニングポイントについてお聞かせください。

松尾浩紀:
主に2つあります。1つは前職で営業職をしていたときです。ベンチャー企業で勢いがあり、成果を出せば若手でも評価される環境に魅力を感じ、自分の力を試すため入社しました。

しかし、営業先で断られ続けたことで自信を失い、オフィスを出ると公園でブランコに揺られて時間をつぶしていました。その頃は自尊心から「まだ本気を出してないだけですよ」と虚勢を張っていました。

そんなときに尊敬する先輩から「やれるもんならやってみろ」と言われ、火がつきました。それから先輩方に話を聞いたり、営業に同行したりして本気で取り組んでからは、面白いように成果が出ましたね。

ーーもうひとつのターニングポイントはいつですか。

松尾浩紀:
社長に就任した後です。当時は「成果を挙げて認められたい」という自己顕示欲が強く、周囲の意見を聞かずに独断で進めていました。その結果、思うように成果が出ず、信頼していた従業員が離れていってしまいました。また、業績が悪化して悩んでいたものの、父のアドバイスを素直に受け入れられずにいました。そんなとき、京セラの元社長である伊藤謙介さんが主催する懇親会に参加する機会がありました。

そこで「父親が自分の考えをわかってくれない」と不満を漏らしたのです。すると「長年経験を積んできた人の意見を聞き入れない時点で、経営者失格だ」と一喝されてしまいました。この言葉に心を打たれ、父に謝罪し素直に教えを乞うようになりました。

これらの経験から、うまくいかない原因を周囲のせいにせず、常に自分に向き合い、内省するよう心がけるようになりました。

従業員がやりがいを感じられる環境づくりを徹底

ーー今後の展望についてお聞かせください。

松尾浩紀:
従業員たちのやりがいや待遇、働き方など従業員の満足度を高め、「この会社で働けて最高」だと思える環境をつくりたいと考えています。そのために個人ごとにKPI(達成目標)を設定し、改善に取り組んでいます。

また、京セラフィロソフィーを参考にした自社で大切にしたい理念について話し合う時間を、毎朝10分設けています。これは部署や年代の垣根を超えた4〜5名のランダムなグループで「素直さ」「謙虚さ」など、働く上で軸となる部分について話し合い、お互いの考え方を共有しています。これにより従業員同士のコミュニケーションが活性化し、相手を思いやる風土が育っていると感じています。

今後も従業員がやりがいを持って働ける環境を整えながら、社会に価値を提供し続ける企業を目指していきます。

編集後記

結果を出すことにこだわるあまり、周りの意見を聞き入れず、自分の意思を通していたという松尾社長。そのときの反省を活かし、やりがいのある環境づくりをしたことで、お客さまの笑顔を引き出す組織に成長していったのだろう。ダイヤ工業株式会社は、これからも身体の悩みに寄り添う製品を生み出し、人々の日常を支え続けていくだろう。

松尾浩紀/1981年生まれ岡山県出身。2000年岡山朝日高等学校卒業。2004年東洋大学の経営学部を卒業し、IT関連企業を経て2006年にダイヤ工業株式会社に入社。CS本部長を務め2013年から取締役に就任。2017年オーストラリア BOND大学大学院 経営学修士課程修了(MBA取得)。2018年代表取締役社長に就任。