
ベトナムの自社工場での海外ブランド向けOEM生産から、国内での高品質な日本製バッグの製造、そして自社ブランドの展開まで、幅広く事業を展開する株式会社キヨモト。近年は事業部間の垣根を超えた協働にも注力し、新たな価値創造に情熱を注いでいる。同社の3代目として、日本のものづくりの価値向上に挑む代表取締役、清本英昇氏に話をうかがった。
自身の人生をかけるべき場所として家業への入社を決意
ーー貴社に入社する前は、どのような経験を積みましたか?
清本英昇:
私は小中高とセントメアリーズインターナショナルスクールに通い、その後はアメリカにあるワシントン・アンド・リー大学へ進学しました。大学では3年目から経済学を専攻し、卒業後は北米での就職を考えていましたが、父の知人であった伊藤忠商事の方からお誘いをいただき、ニューヨーク支店に入社することになったのです。
そこでは主に北米ブランドの日本市場への展開に関する業務を担当しました。日本の会社の一員でありながら、アメリカ式の組織文化を経験できたことは、私にとって貴重な経験でした。
ーー貴社への入社を決めた経緯をお聞かせください。
清本英昇:
最も大きなきっかけは、弊社の存続に対する責任感が芽生えたことでした。伊藤忠商事で6年働く中で、大きな組織は私がいなくても存続し、繁栄していくのだと実感していました。しかし、祖父が創業し、父が2代目として育ててきた弊社は、次の世代に引き継がなければいずれなくなってしまう運命にあったのです。
今後のキャリアを考える中で、弊社こそが私の人生をかけて取り組むべき場所だと考え、継ぐことを決意しました。父からは一度も継いでほしいと言われたことはなかったため、私から継ぎたいと申し出て2008年に帰国し、弊社に入社しました。
品質にこだわり、国内外でOEM事業を両軸に展開

ーー貴社の事業内容について教えてください。
清本英昇:
弊社の事業は大きく3つに分けられます。1つ目は、ベトナムのホーチミンにある自社工場で行う海外ブランド向けOEM事業です。ここでは世界的に有名なブランドのバッグを製造しています。
2つ目は日本国内でのOEM事業で、日本のハイブランドのバッグを中心として、品質にこだわったものづくりを行っています。
そして3つ目が、「HERGOPOCH(エルゴポック)」(※1)や「ENGAGEMENT(エンゲージメント)」といった自社ブランドの展開です。現在は銀座に直営店を出店しており、2026年中には大阪の心斎橋への出店も計画しています。
ブランドの企画から製造、販売までをワンストップで行える点が、弊社の特徴といえるでしょう。
(※1)HERGOPOCH(エルゴポック)公式オンラインストアはこちら
ーー貴社が大切にしているものづくりへの思いについてお聞かせください。
清本英昇:
私たちが大切にしているのは、「日本のものづくりを諦めない」ということです。日本では、海外に対する憧れから海外製品への評価が高く、同等以上の品質を持つ日本の製品が適正に評価されていない状況があると感じています。この状況を打破するためには、単に良い製品をつくるだけでは不十分で、消費者に欲しいと思ってもらえる魅力的な提案とブランディングが必要です。
現在は、品質を高めながら単価も適正に上げ、真に価値のあるものを提供することに注力しているところです。日本のものづくりの未来のために、粘り強く挑戦を続けていくことが重要だと考えています。
事業部の垣根を超えたシナジーで生み出す新たな価値
ーーどのような人材を求めていますか?
清本英昇:
ものづくりに興味を持ち、新しいことに挑戦したい方を募集しています。弊社の事業は属人性の高い職種が多いため中途採用が中心ですが、必ずしもバッグに関する経験がなくても大丈夫です。たとえば、デザイナーであれば、デジタルツールを使えるスキルを活かしてバッグのデザインに挑戦することも可能です。
最終的には私が面接を担当しますが、その際には持っているスキルよりも、私たちの思いに共感し、前向きに捉えてくれる方かどうかを重視しています。新店舗のオープンに向けて、さまざまな職種で仲間を増やしていきたいと考えているので、ものづくりへの情熱を持っている方々とご縁があれば嬉しいですね。
ーー現在注力している取り組みについてお聞かせください。
清本英昇:
現在は、部署の垣根を越えたシナジーの創出に力を入れているところです。これまでは各事業部がそれぞれ独自の目標を持ち、ものづくりを推進してきましたが、現在はそれらを交差させて新たな価値を生み出す取り組みを進めています。
例をあげると、コロナ禍に社員の発案で立ち上がった「ANINSANE(アンインセイン)」(※2)というブランドはクラウドファンディングで注目を集め、ベトナム工場の生産力と日本人デザイナーの企画力を組み合わせて成功を収めました。他にもいくつかのプロジェクトが動いているため、その成果が3〜5年後に形になることを大いに楽しみにしています。
(※2)ANINSANE(アンインセイン)公式オンラインショップはこちら
編集後記
3代目として家業を継ぐ決断をした清本社長の言葉には、ものづくりへの誇りが溢れている。特に印象的だったのは、事業部間の垣根を越えた協働から生まれる新たな価値創造への情熱だ。日本のものづくりを守り、進化させていくその姿勢からは、伝統と革新を両立させる経営者としての確かな覚悟が感じられた。

清本英昇/1980年、東京都生まれ。ワシントン・アンド・リー大学卒業。伊藤忠商事のニューヨーク支店で6年間勤務。2008年に帰国し、株式会社キヨモトへ入社。自社ブランド「HERGOPOCH」の事業部長に就任し、自社ブランドの構築に注力する。2012年、同社代表取締役に就任。