
文部科学省の調査によると、週1回以上の運動やスポーツを行う成人の割合は年々増加しているものの、59.9%(2020年)にとどまっている。一方、2017年に策定された第2次スポーツ基本計画では、成人の週1回以上のスポーツ実施率を65%にまで引き上げることが目標とされているが、この目標達成への道のりはまだ長い。
こうした中で、この課題に取り組むスポーツ用品店がある。サッカー王国として知られる静岡に本社を持つ株式会社シラトリだ。1920年に創業した老舗企業であり、単なる商品販売にとどまらず、スポーツを広めるための新たな挑戦を続けている。今回は、同社の代表取締役社長である西丸聡司氏に、その取り組みと将来のビジョンについて詳しくうかがった。
地域ごとに盛んなスポーツをいち早く見つけてラインナップを充実
ーーまずはこれまでのご経歴についてお聞かせください。
西丸聡司:
大学卒業後、私は住友商事で28年間、生鮮食品の売買に従事しました。妻の実家がスポーツ用品店を経営していることは知っていましたが、当初は後を継ぐという話はまったく出ていませんでした。しかし、2018年ごろに後継者問題を親族で話し合い、継承することになりました。決断は大きなものでしたが、やるからには全力で取り組もうと決意しました。
ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。
西丸聡司:
弊社は、総合スポーツ用品店としてスポーツ・レジャー用品を販売し、静岡県を中心に11店舗、インターネット上でもECサイト(※1)を展開しています。年間を通じてさまざまなスポーツに対応した商品を取り揃えており、地域のスポーツ文化に深く根ざした営業スタイルが特徴です。特にウィンタースポーツの分野では静岡県内で約7割のシェアを有しています。県内における影響力が大きい一方で、全体の売上ではスポーツウェアやシューズが約6割を占めており、これらのカテゴリーも重要な収益源となっています。
弊社の強みは、地域密着型の経営にあります。たとえば、サッカーの強豪校が近くにある店舗では、サッカー用品の品揃えを充実させ、ランニングが盛んな地域の店舗では、ランニング用品に特化したコーナーを設けるなど、各店舗が地域のニーズに応じた商品展開を行っています。このような地域特性に合わせたサービス提供が、地域の方々からの信頼を得る鍵となっていて、地域に根ざした経営を続けることで、地域社会の一員としての役割も果たしています。
(※1)公式ECサイト
人口減少により減っていくスポーツ人口に対しての戦略

ーー日本全体で少子高齢化が進む中で、スポーツ人口を維持し、さらに拡大していくための展望についてお聞かせください。
西丸聡司:
少子高齢化による人口減少が進む中で、スポーツ人口の維持・拡大に取り組むために、3つの主要な戦略に注力しています。
第一に、ECサイトの拡充において、リアル店舗の知名度が重要であると考え、まずは静岡県内でのECシェアを高め、その後徐々にエリアを広げていく戦略をとります。既存の顧客基盤を活かして、オンラインでも顧客との関係を深めていくことを目指しています。
次に、年配者向け商品の拡充で、健康寿命が延びる中で、シニア層にもスポーツを楽しんでいただけるように、ゴルフや卓球など年齢を問わず楽しめるスポーツ用品の充実を図ります。特に、高齢化が進む日本では、シニア世代の健康維持が社会全体の課題となっており、これに応える商品展開は、地域の健康促進にも寄与するものと考えています。
最後に、子どもたちへのスポーツ機会の創出です。子どもたちにもっとスポーツの楽しさを知ってもらうために、店舗を拠点とした活動だけでなく、行政や地元自治体との連携を強化し、学校部活動を民間に委ねる「地域移行」などにも取り組んでいきます。スポーツ指導者の派遣やスポーツ用品の提供といった取り組みを通じて、将来的には地域全体で子どもたちの健全な成長を支える基盤を作り上げることを目指しています。
インドアゴルフとトレーニングジムで地域にスポーツの新たな楽しみを提供
ーー最近、新たな取り組みを始めたとうかがいました。具体的にはどのようなプロジェクトなのでしょうか?
西丸聡司:
2024年9月27日に、スポーピアシラトリ 静岡店を拡張してインドアゴルフの練習場とトレーニングジムをオープン(※2)したことにより、お客様にスポーツ用品を体験していただくと同時に、健康づくりを支援する新しいコンセプトの施設を提供していきます。
インドアゴルフ練習場では、最新の設備を導入し、プロのレッスンも受けられる環境を整えており、多くのゴルファーに利用していただいています。ゴルフのスキルアップを目指す方々にとって、快適で効果的な練習環境を提供したいと考えています。
トレーニングジムは、全国で4番目のココロとカラダにちょっといいことができる「整えるジム」として、TSUTAYACONDITIONINGブランドで展開する施設です。リラックスできるラウンジや、タニタ食堂のお弁当を楽しめるスペースも設けており、運動だけでなく、健康的なライフスタイルを提案しています。さらに、AIセンサーで混雑状況を確認できるシステムを導入し、待ち時間を減らす工夫も行っており、ジムを利用する多くの方々に、快適で効率的なトレーニング環境を提供することを目指しています。

スポーツを愛するたくさんの人に向けて
ーー最後に、スポーツを楽しむ方へのメッセージをお願いします。
西丸聡司:
弊社ではアスリート採用(※3)を推進しており、スポーツと仕事の両立ができる環境を提供しています。たとえば、ゴルフのプロテスト合格を目指す方が、昼間に練習し、夕方から店舗で働くといった働き方も可能です。スポーツを続けながら働きたいという方は、ぜひご相談ください。アスリートとしての夢を追いかけながら、同時に社会でのキャリアも築くことができる環境を整えています。これからも、スポーツを愛するたくさんの人々を支援していきたいと考えています。
(※3)SPOPIA シラトリ採用ページ
編集後記
西丸社長は、自らのスポーツ経験をもとに、スポーツ用品業界に新たな風を吹き込んでいる。その背景には、「自分が実際に使ってみなければ、お客様に自信を持って薦められない」という信念がある。この情熱と行動力が、スタッフや地域と一体となって、静岡県から全国へとスポーツ文化を広めていく原動力となっている。アスリートの採用を通じてスポーツと仕事の両立を支援する姿勢は、今後のスポーツ産業においても大きな影響を与えるだろう。シラトリの未来には、さらなる可能性と成長が待っていると確信している。

西丸聡司/1969年、大阪府生まれ。慶應義塾大学卒業後、1992年に住友商事株式会社に入社。食品部門で28年間、国内外で勤務し、2020年に株式会社シラトリに入社。2023年に同社代表取締役社長に就任。