株式会社三協乾物店は、メーカーから商品を仕入れ、小売店に販売する総合食品卸問屋として卸売を行っている会社だ。また、オリジナルブランド商品の製作や、物流委託管理、配送業務などを請け負っている。
同社と卸問屋ならではの強みや、社員とのコミュニケーションの取り方などについて、代表取締役の栗田秀和氏に話をうかがった。
卸売と自社商品の開発で利益の拡大を目指す
ーー最初に貴社の強みを教えてください。
栗田秀和:
商品の仕入れや販売だけでなく、オリジナルブランドの製作も行っているところです。八百屋が閉店したりスーパーが買収されたりと、小売店の規模は縮小傾向にあります。そこで、自分たちでつくった商品を販売し、利益を確保しています。
ーー卸問屋の強みや役割についてどのようにお考えですか。
栗田秀和:
卸問屋の強みは、メーカーと小売店の両方と関わりがあるため、それぞれの利点を活かせることです。たとえば、オリジナル商品の開発を依頼することもでき、どういったルートで販売しているのかといった情報も得られます。
また日本全国、世界各国の流通ネットワークを持っているため、地域を超えた情報交換ができます。そのため大阪で売れている商品を東京で販売したり、海外の商品を輸入したりするなど、幅広い視点で市場を見られるのも強みです。
さらに、客層に合わせて仕入れる商品を変えられるのもメリットです。手頃な商品を販売しているところには価格を抑えたもの、高級志向のスーパーには素材にこだわった商品など、柔軟に対応できます。
ーー卸問屋のセールスの難しさについてお聞かせください。
栗田秀和:
単に商品を売るだけでなく、ヒットしそうな商品を見極める力が必要です。また、それぞれの商品に合った販売ルートを考えるなど、アイデアの引き出しの多さも求められます。こうした能力を養うには感覚を磨いていくしかないので、1人前のセールスになるまで10年はかかります。
ーー仕入れは担当のセールスに一任しているそうですね。
栗田秀和:
通常は上司の許可を得るのが一般的だと思いますが、弊社ではどの商品をどのくらい仕入れるかを個人の判断に委ねています。これは現場の判断を尊重し、迅速な意思決定を可能にするためです。これにより、セールスの能力と意欲を最大限に引き出せると考えています。
本音でぶつかった従業員の意識改革
ーー入社当初の印象や社長就任のきっかけをお聞かせください。
栗田秀和:
先代である父の後を継ぐため入社したときは、昔ながらの八百屋のような会社だと思いました。友達同士のようなあいさつが飛び交い、腹巻きをしている人がいたりと、一般的な企業とのギャップに驚きましたね。
入社するまでは、先輩から仕事を教わるものだと思っていましたが、これは私が指導するしかないと思いました。まずは「仕事中はネクタイを着用する」など、基礎的なところから見直しました。
当初は従業員から反発を受け、年配の方々から抗議されてたじろいでしまうこともありました。しかし、次第に私に賛同してくれる人たちが増えていき、今なら経営者としてリードできると思い、社長に就任しました。
ーー日頃から従業員とのコミュニケーションを大切にしているそうですね。
栗田秀和:
常に本音で話すことを心がけています。赤字が続いていた時期、誰も何も言わない状況を見て、このままではいけないと危機感を覚えました。そこで、何にどのくらい経費がかかっているのかを説明し、業務改善の必要性を訴えました。
そして、「私が一生懸命頑張ったところで、みんながついてきてくれなければ意味がない。このままだったら会社をたたむ」と、あえて強い言葉を使いました。このように会社を良くするため、時には厳しい言葉で指摘することもあります。
トップが真っ先に動く、従業員の成長を見守る教育方法
ーー貴社の社風についてお聞かせください。
栗田秀和:
上の立場の者が率先して動いていて、人手が足りなければ80歳を超えた会長も現場に出ています。このように経営陣が率先して働くことで、従業員も自分たちも頑張らなければという意識が生まれています。
トラブルが起きて残業になるときも、「社長が対応しているから自分たちもサポートしよう」と、自然に思えるようです。このように嫌々仕事をするのではなく、自主的に動いてくれている従業員が多いです。
ーー人材育成についてはどのような考えをお持ちでしょうか。
栗田秀和:
多くの人がいれば、当然能力にも差が生まれます。ただ、上達が遅い従業員を置いてけぼりにはしません。それが1年でもたとえ10年でも声をかけ続け、成長を促します。
会長からは「それぞれの能力に合った仕事を任せるのが、リーダーとしての役目だ」と言われてきました。その教えのとおり適材適所に人員を配置し、成長の過程を見守るようにしています。
また、従業員に注意をするときはタイミングを考え、その場によって言い方を変えます。きつく言い過ぎてしまったときは素直に謝ってフォローしています。
ーー現在注力していることと、今後の意気込みを教えてください。
栗田秀和:
最近では姫路に物流センターを開設し、商品の運搬にかかる時間を短縮するなど、業務の効率化を図っています。また海外にもオフィスを設置し、海外展開に力を入れています。
今後も自分たちにできることを積み重ね、少しずつレベルアップしていきたいと思っています。小さな成長でも繰り返していけば高いハードルも超えられるようになるでしょう。自分たちができることを愚直に続けていきます。
編集後記
社員と真正面から向き合い、経営者として全力を注ぐ栗田社長。そんな姿に惹かれ、多くの従業員や取引先から慕われているのだと感じた。自社の強みを活かす株式会社三協乾物店は、市場の変化にあらがいながら、着実に成長し続けることだろう。
栗田秀和/1972年、岐阜県出身。1993年、滋賀文教短期大学初等教育科卒業後に三協乾物店入社。新規取引先開拓担当、営業課長、自社ブランド商品開発責任者、広域事業部開設担当役員などを経て2022年年2月代表取締役社長に就任。