※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

Siemens Healthineers(シーメンスヘルシニアーズ)は、2016年にドイツのシーメンスより独立上場した世界有数の医療機器メーカーで、その日本法人の1つがシーメンスヘルスケア株式会社だ。

同社は2021年、世界初の技術を使用したCT機器の発表で医療業界を驚かせた。そのSiemens Healthineersの日本代表として、2024年4月に代表取締役社長に就任した櫻井悟郎氏に、医療と先端技術が融合した新たなヘルスケア事業の構想と、今後のビジョンについて伺った。

経営の基礎を学びながら、病気の早期発見に貢献するヘルスケア事業へ転身

ーーヘルスケア業界に入ったきっかけは何ですか?

櫻井悟郎:
大学を卒業して最初は株式会社東芝に入社しましたが、将来は企業の経営に携わりたいという思いもありました。営業を3年間経験した後、希望を出して経理財務部門に移り、6年間、コーポレートファイナンスや資金調達の業務を通して、企業経営の基礎を学びました。ただ、企業の規模や当時の年功序列制度では、このまま会社で責任あるポジションに就くまでには時間がかかりすぎると感じていました。

そこで、経営について本格的に学ぶために会社を辞め、アメリカでMBAを取得しました。留学中のインターン経験を通してヘルスケア業界を知り、その仕事に大きな社会的意義を見出したため、帰国後は製薬会社であるヤンセンファーマ株式会社(ジョンソン・エンド・ジョンソングループの医薬品部門)に入社しました。

ーーその後、ヘルスケア業界でどのような経験をされましたか?

櫻井悟郎:
ヤンセンファーマでは、市場情報の分析を担った後、がん領域で特定の製品のマーケティングなどをとりまとめるリーダーを務めました。

さらに、前立腺がんの革新的新薬のマーケティング担当に抜擢され、ローンチ後は日本の大手製薬会社を競合とする中、市場シェアで戦略的に成功を収めることができました。その成果が評価され、アメリカ本社で2年間、リンパ腫向け新薬のグローバル責任者としてマーケティングに携わりました。

ところが帰国後に、父ががんで亡くなったことが自分のキャリアを見直す転機になりました。早期発見の大切さを身に沁みて感じ、治療薬の提供とは異なるアプローチで医療業界に貢献したいという思いが強くなったのです。また、新たな領域で自分の実力を試したいという思いもあり、医療機器などの最先端テクノロジーを活用してヘルスケア事業を行っているシーメンスヘルスケアに入社しました。

個からチームへ、新たな風を吹き込む社内改革

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。

櫻井悟郎:
弊社は医療機器メーカーとして、CTやMRIなどの画像診断装置、術中に使う血管撮影装置、AIによる診断支援ツールなど、主に画像診断関連の製品を取り扱っています。グループ内には検体検査やがん治療、放射線治療を手掛ける会社があり、これほど幅広い分野の医療機器を提供できる企業は少ないと思います。

また、グローバル全体では、売り上げの10%を研究開発に投資して「今まで世界になかったものをつくっていく」イノベイティブな企業として知られています。AIの研究や活用にも早くから取り組んでいただけでなく、世界で初めて「フォトンカウンティングCT(※)」を実用化し、これまでのCTと比べて高精度で、より低被ばくな検査を可能にするなど、業界に先駆けた技術開発を行っています。

(※)フォトンカウンティングCT:Siemens Healthineersが世界で初めて実用化した、X線を構成する光子(フォトン)の一つ一つのエネルギー値を特別な半導体で検出し、電流に変換して画像化するCT

ーー入社から社長就任までの経緯をお聞かせください。

櫻井悟郎:
経営に携わる立場でシーメンスヘルスケアに入社したわけですが、薬と医療機器ではアプローチする相手も顧客満足の捉え方も全く異なります。当たり前のことですが、まず、現場やお客様の声に耳を傾け、会社のビジネスモデルを理解し、商習慣に慣れることから始めなくてはなりません。

同じヘルスケア業界でも、自身のこれまでの常識や知識がそのまま活かせない部分も多々あり、今だから言えますが、毎日が緊張と勉強の日々で、自分が想像していた以上に色々な修羅場を経験しました。

しかし、どの業界でも共通している正攻法は新製品を投入しゲームチェンジを起こすことです。売る方も買う方も初めてなので不安もありますが、フォトンカウンティングCTはまさに、業界の流れを変えるような新商品でした。そのマーケティング強化に注力し、3年連続の売上拡大を達成したことを含め、画像診断機器事業の事業部長としての成果が評価されて、社長になることができたのだと思っています。

ーー社長として、現在力を入れて取り組んでいることは何ですか?

櫻井悟郎:
弊社はこれまで外部人材の受け入れが少なく、また、営業やマーケティングを個々の能力に頼っている状況でした。現在は、新たな人材を迎え、既存社員との融合を図りながら、組織としての力をさらに伸ばせるように取り組んでいます。また、マネジメント会議を情報共有型から議論重視に変更して経営に関する意思決定を行い、チーム間の結束力を高めています。

チームを主体とした組織構成で意思決定やマーケティングを行うことにより、属人的な運営に陥ることなく、会社全体としての強みを継続して発揮できる仕組みの構築を目指しています。社長である私自身もたびたび現場に足を運び、社内の風通しを良くするように心がけています。

ーー人材の育成に当たり、社員に伝えているのはどのようなことですか?

櫻井悟郎:
マネジメント層には、自分の責任範囲だけでなく、その一段階上の責任にも目を向けてほしいと伝えています。営業責任者であれば営業だけを知っていればいいのではなく、それぞれの立場から、会社全体の意思決定に積極的に関わってほしいのです。何事も自ら参画しないと人は育ちません。さまざまなテーマに積極的に関わっていけば、将来は社長にもなり得る人材が育つはずです。

マネージャーの役割は、部下に惜しみなく機会を与え、真摯にフィードバックを行うことに集約されます。この2つを意識すれば、部下は確実に成長します。私自身も全社員に対して、機会とフィードバックを与えることを大切にしています。

販売後のカスタマーサービスも会社の「ブランド」として打ち出す

ーー今後、取り組みたいことは何ですか?

櫻井悟郎:
医療機器の製造・販売だけではなく、カスタマーサービスに関してももっと情報発信していきたいと思っています。病院は患者さんがいる以上、業務を止めることができないので、医療機器が故障した場合などは迅速な対応が必要です。

そのため、弊社はオンライン対応を進め、病院とのネットワーク接続やコールセンターからの指示で、大半の不具合を即座に解消できるようにしています。それでも解決できない場合は、一度の訪問で的確な修理をできる、高い技術を持つエンジニアを派遣します。

弊社のカスタマーサービスの迅速さと品質の高さは自信を持って誇れるものだと考えており、今後は、医療機器の価格や性能だけでなく、サポート力の高さも弊社の強みとしてブランディングし、お客様に選ばれる企業にしていきたいと考えています。

ーー将来的にどのような会社にしたいと思いますか?

櫻井悟郎:
製品力には自信があります。さらに多くの医療機関に導入していただき、医療従事者の方々や患者さんに貢献していきたいと思います。

また、優秀な人材が生き生きと働ける会社にしたいですね。人事制度や働き方についてはまだ伸びしろがあると思うので、従業員の声を聞きながら取り組んでいきます。弊社はフェアで、実力主義の会社です。若い人たちにも多くのチャンスがありますし、ハードルの高い仕事を通じて成長できる機会もたくさんあります。幅広い世代、女性、障がいを持つ方、LGBTQ+など、社会の多様性を反映した組織を目指していきます。

編集後記

「当社の製品とサービスは本当にすごいんですよ」と、自社の製品・サービスについて言い切る言葉には、豊富な知見と実績に裏打ちされた自信がうかがえる。

高い技術力と現場を支えるサポート力で、国内外の医療業界に貢献するシーメンスヘルスケア株式会社が、今後どのような進化を遂げるのか、次のステージが楽しみだ。

櫻井悟郎/1998年慶應義塾大学卒業、株式会社東芝に入社。2009年、米国ワシントン大学にて経営学修士号(MBA)を取得。2009年、ヤンセンファーマ株式会社入社。2017年より米国Janssen Global Commercial Strategy Organizationに出向し、血液腫瘍領域のグローバルマーケティングディレクタを務める。2019年、ヤンセンファーマ株式会社に帰任。2021年、シーメンスヘルスケア株式会社入社。2024年、代表取締役社長に就任。