※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

手厚い福利厚生制度を整備し、地元への社会貢献活動に全力で取り組む松川電氣株式会社。代表取締役の小澤邦比呂氏は、これらの取り組みを「恩返し」だと語る。その恩返しを支えているのが、同社の技術力と直接受注主義だ。温もりのある会社づくりを目指す代表取締役の小澤邦比呂氏に、経営にかける思いをうかがった。

浜松を代表する大庄屋旧鈴木家屋敷の復元と保存、そして地域への恩返しがレストラン経営につながる

ーー始めに貴社が取り組んでいる事業について教えてください。

小澤邦比呂:
弊社は1967年創業の電気・通信設備工事会社であり、学校、工場、病院などの大規模施設の電気設備を中心に幅広い分野の工事を請け負っています。

さらに、弊社では浜松市のパークPFI制度による旧鈴木家跡地を活用した地域貢献活動拠点「万斛庄屋屋敷 鈴松庵(れいしょうあん)」という古民家レストランの経営もおこなっています。鈴松庵の鈴は、浜松の地で室町時代から続く庄屋、鈴木家の名からとったものです。かつて鈴木家は徳川家康に単独で面談できる家格をもつ庄屋でした。この鈴木家の屋敷跡地を整備した公園と併せて一体的に活用するため、旧鈴木家の母屋・離れ屋・弓道場矢場・的場(登録有形文化財)を修復し、レストランとして弊社がその経営を担っているのです。

――レストラン経営にひもづいた地域貢献活動について聞かせてください。

小澤邦比呂:
弊社が今日まで企業として存続できているのは、社員や協力業者、それに地域の方々のおかげです。ですから、そうした方々に恩返しすることが私の役目だと考えています。地域への恩返しは、地域貢献活動そのものです。具体的には、視覚障害者や盲導犬支援、街頭募金活動(年10日実施)外国人学校への奨学金や外国人家族への支援、特別養護施設などへの贈り物、ボランティア活動への積極参加など、可能な限りの取り組みを続けています。

レストラン経営も、由緒ある地域の誇りである旧鈴木家の土地と建物を復元、保存し地域で活用するための地域貢献活動の一環です。また、社員や協力業者への恩返しの柱は、福利厚生制度の充実にあります。弊社では、健康診断は人間ドック、予防接種、あるいは社員旅行などの対象者を、社員とその家族、さらに協力業者にまで広げているのです。ほかにも、7日以上の有給休暇取得者への報奨金、年代別の特別有給休暇の付与、傷病手当金100%支給、育英資金制度、社会貢献活動参加者への報奨金といった制度も設けています。

感謝の気持ちでつながる大家族主義が日々の仕事にも必ず生きてくる

ーー福利厚生制度で実際に取り組んだ事例を教えてください。

小澤邦比呂:
私は、社員や協力業者にとって温もりのある会社をつくりたいと考えています。福利厚生制度の充実もその一環ですが、2006年には定年制を廃止しました。これは、その年に定年を迎える社員(現在78歳 施工部所属 現役バリバリです)から「まだ働きたい」という申し出があったことをきっかけに決定したものです。

給料を下げることもしておらず、現在では70歳以上の社員が4人在籍しています。もちろん、加齢によって作業が思うように進まないこともありますが、それは若い社員がサポートすれば良いのです。若手社員がまだ半人前だった時期を支えてくれたのは、まさにその70代の社員たちです。彼らに対して恩返しをしなければならないと思っています。

ーー社員に恩返しの大切さを理解してもらうために取り組んでいることをお聞かせください。

小澤邦比呂:
恩返しの基本にあるのは感謝と思いやりの気持ちです。私は感謝の気持ちが人間力を高めると思っています。管理者の育成にあたっても、リーダーシップやコミュニケーション能力などよりも感謝と思いやりの気持ちを重視していますね。

弊社では、内定者に対して、母親の足を洗い、その感想を書くという課題を与えています。ずっとお世話になった母親の足を洗うなんて照れくさいことでしょう。しかし、母親の愛情に感謝し、それを気持ちとして示す行動が、きっと新しい自分に変わるきっかけになると思います。

感謝の気持ちは、社員同士の助け合いの精神も育むのです。たとえば、現場が予定通り進まず、午後5時から残業を行わなければならなくなった時など、他の現場を終えた社員が次々と駆けつけて手伝うこともあります。これも恩返しと大家族主義の現れですね。

最高の営業担当は現場の技術者。高い施工品質を実現し、受注競争力を強化

ーー会社と地域のお客さまが満足できるように、日頃意識していることは何ですか?

小澤邦比呂:
弊社は、難しい仕事でもこなせる集団として、技術力で他社と闘い抜くことのできる会社を目指しています。そのために徹底していることは、社員の技術教育と施工品質に対する意識の向上です。

弊社の営業担当は現場の技術者であり、ハイレベルな施工品質をお客さまに直接見ていただくことが最高の営業活動だと考えています。この姿勢は、直接受注主義にもつながるのです。

弊社は原則として地元の企業を中心に元請けで工事を手がけています。中間でマージンを発生させるよりも、適切なコストで最良の施工品質を提供する方が、お客さまにも弊社にも最善の結果をもたらすからです。原価を下げて施工の品質も下げるようなことは、あってはならないと思います。

ーー高い施工品質を保つための工夫を教えてください。

小澤邦比呂:
弊社で請け負った仕事については、希望者が自ら申し出る仕組みです。弊社の技術者は皆、十分に勉強し経験も積んでいるため、誰に任せても安心ですが、やはり現場の仕事は、意欲が高く、強い思いを持った人間が携わった方が、お客様により良い施工を提供することができ、安全で安心な工事に繋がると確信いたします。

希望者はレポートを提出し、技術力などを総合的に評価した上で、責任者を決めているのです。なお、すべての工事の竣工検査は、必ず私自身が行っています。

ーー責任者は若手の社員でも申し出ることができるのですか?

小澤邦比呂:
もちろんです。ただし、技術力と施工品質で成り立っている会社なので、任せられるかどうかの見極めは非常に厳しくしています。無理だと判断すれば却下しますが、サブに別の社員をつけることで大丈夫だと判断した場合、しっかりとバックアップして任せます。希望が却下されたときには、自分に足りないものを見つめ直す機会だと受け止め、感謝する。任されたときにはサブについてくれた先輩社員に感謝するという気持ちを大切にしてほしいですね。とはいえ、若い人が成長できるようにするためも、チャンスはいつでも開いています。

編集後記

大家族主義と地域貢献に正面から取り組む松川電氣株式会社。経営効率や仕入れ価格の上昇を理由に、賃金カットや雇用の削減に走りがちな経営とは一線を画す小澤社長の姿勢が輝いて見える。会社が社会の良き一員であるか否かは経営者の考え方一つだと改めて思う。

小澤邦比呂/1954年静岡県生まれ。1973年、松川電氣株式会社に入社。現場施工や設計・管理部門に従事。1987年に専務取締役、2003年に同社代表取締役に就任。