岐阜県揖斐郡を中心に数多くの土木工事を手がける揖斐昭和建設株式会社。道路や橋梁、砂防工事など幅広い現場に対応可能な力を持つ、一次下請けのプロフェッショナル会社だ。
同社の代表取締役社長である高橋謙太郎氏は、ITベンダーから建設会社の社長へと転身したキャリアを持ち、ICT(情報通信技術)を駆使した技術革新に注力している。揖斐昭和建設の事業内容やICTへの取り組み、会社のビジョンなどを高橋社長に聞いた。
ITベンダーで8年のキャリアを積み、建設業界へ異色の転身
ーーまずは社長の経歴についてお聞かせください。
高橋謙太郎:
私は岐阜県で生まれましたが、大学卒業後は東京のITベンダー企業に勤めていました。その当時は土木や建設業には縁がなく、IT分野で働き続けるつもりでした。
私が建設業界へ進む転機となったのは妻との出会いです。揖斐昭和建設は妻の実家の家業で、結婚する際に入社を約束することになったのです。そして東京で8年働いた後、30歳を迎えたタイミングで岐阜に戻り、揖斐昭和建設に入社しました。
弊社に入社してからは、最初の約3年間はひたすら現場に出て、重機の操作や施工技術を徹底的に学びました。スコップを持って現場へ行くことから始めたことは、今では良い思い出です。この現場で汗を流して学んだ体験があるからこそ、今でも社員の言葉や困りごとが肌感覚で理解できます。
現場での学びを終えた後は、すべての部門を網羅するように経験して、経営者に必要な、多様な視点を磨きました。そして取締役を経て2022年に社長に就任しました。
ーー社員とのコミュニケーションで意識していることは何ですか?
高橋謙太郎:
社長と社員との距離感をなるべく近く保つことと、現場経験が豊富な社員に気持ちよく働いてもらうことです。
まず社員との距離感についてですが、弊社は中間管理職を介さずに、現場責任者と社長とがダイレクトにコミュニケーションを取れる構造になっています。これにより社長は現場を把握したうえで会社の運営ができ、現場責任者は社長の考えを理解しながら働くことができます。つまり、社長と現場責任者が同じ目線で物事を見られるようになるのです。
そのうえで、現場経験が豊富な社員に気持ちよく働いてもらえれば、現場は円滑に回るようになります。いかに社長といえど、現場経験の豊富さではベテラン社員には敵いません。
そこは素直にベテラン社員を敬うべきですし、彼らが積んだ経験は、何物にも代えがたい会社の財産であり武器です。そのポテンシャルを発揮できるよう、社長である私がマネジメントしていく必要があるでしょう。
施工力の高さにICTを組み合わせ、長期的に成長できる組織を目指す
ーー貴社の事業内容を教えてください。
高橋謙太郎:
弊社は土木工事を専門とする建設会社で、道路や河川、橋梁、砂防、治山など、地域の安心・安全に関わるさまざまな土木工事を手がけ、工事種別は公共事業が9割以上を占めます。
弊社の現場は約8割が一次下請けです。これまで数多くの一次下請けの現場を経験してきたノウハウに加え、現場管理から施工まで一貫して自社で行える組織体制を構築しています。また、大型油圧ショベルからキャリアダンプやラフテレーンクレーン、ホイールローダまで、数多くの重機を自社で保有しており、高い施工力も備わっています。
これにより、さまざまな現場でスピードと品質を兼ね備えた施工が可能で、地域からはフットワークが軽く頼れる会社としてご利用いただいています。
ーー貴社の強みは何でしょうか?
高橋謙太郎:
建設業界全体で問題視されている、人材不足や経験不足などの課題に対応するために、積極的なICT技術の導入を行っていることです。すでに図面の3D化やマシンコントロール技術の導入による施工の自動化や効率化を図っており、施工精度の向上や人的リソースの節約、作業時間の短縮などに成功しています。
人口減少下にある日本において、人的リソースに頼らずに品質と効率を高めていくには、ICTの活用は避けて通れないでしょう。ICT設備の投資が進めば元請け企業からの信頼も一層厚くなってきますので、今後もICTの活用を推進し、効率的で確実な施工を進めていきたいと考えています。
地図に残る仕事をする会社として、地域に誇れる会社になりたい
ーー貴社ではどのような方が活躍していますか?
高橋謙太郎:
仕事に対するプロ意識を持った職人気質の人ですね。弊社で請け負っている建設工事とは、多くの方が利用する「地図に残るもの」をつくる仕事です。だからこそプロ意識を持って現場に臨み、皆さんが安心・安全に使えるものをつくらねばならないのです。
施工例を挙げると、福井県へ抜けるトンネルや、全国で最大級の砂防堤防など、ニュースに取り上げられる規模の現場を任されることもあります。
それだけに責任は大きいですが、仲間たちとやり遂げた仕事が、地図に刻まれたときの喜びはひとしおです。これは建設会社だからこそ味わえる嬉しさだと思いますよ。
ーー今後のビジョンや注力テーマについて教えてください。
高橋謙太郎:
今後も地域密着企業として、地域貢献を第一に考えていきます。建設会社を地域に必要不可欠なものと捉え、地域の皆様に安心で豊かな生活を提供する努力を続けていきたいと考えています。そして、皆様から「揖斐昭和建設があってよかった」と思っていただけるような存在になりたいですね。
そのためにも、ICTのさらなる活用や施工管理の効率化などを進め、先進的な技術力と対応力で、地域とともに成長していく企業を目指していきます。
編集後記
さまざまな業界でITとの掛け合わせが進められていく中で、高橋社長のキャリアは揖斐昭和建設にとって大きな推進力になることだろう。プロ集団として培ってきたノウハウや誇りと、ICTという新たなツールが融合を果たすことで、揖斐昭和建設は地域社会を支える存在としての価値を一層高めていくことに期待だ。
高橋謙太郎/1981年、岐阜県生まれ。名古屋商科大学卒業後、ITベンダーへ就職。結婚後、2012年、妻の父親が経営する揖斐昭和建設株式会社へ入社。現場経験を積み取締役就任を経て2022年、代表取締役社長に就任。