
グンゼグループの一員として、樹木や花卉の販売を通じて緑豊かな環境創造に貢献する、グンゼグリーン株式会社。同社は長年培ってきた植物に関する知見と全国的な供給網を強みに、都市の景観形成から国家プロジェクトまで幅広く手掛けている。2025年、代表取締役に就任した池田智範氏は、植物への純粋な興味からこの世界に入り、一貫して緑化事業の最前線を歩んできた。今回、池田氏に、事業を通じて地球環境の未来を創造する同社の現在地と、今後の展望について話を聞いた。
理想と現実のギャップから知る緑化という仕事の奥深さ
ーーこれまでのご経歴をお聞かせください。
池田智範:
私は京都府立大学の農学部出身で、化学や物理というよりも生物、特に植物に興味がありました。就職活動中に肌着のイメージが強いグンゼに緑化事業部があることを知り、農学部での経験を活かしたいと思ったのが入社のきっかけです。
ーー学生時代に描いたイメージと、入社後の現実にギャップはありましたか。
池田智範:
工業製品と異なり、私たちが扱う花や樹木は「生き物」であるという点で、想像以上に繊細で取り扱いが難しいと感じたのが一番のギャップです。また、建設業界における緑化事業の立ち位置や、建設工事の最終工程を担う重要な役割であることも、入社してから深く理解しました。味気ない人工的な空間に自然が加わることで、人が本来の能力を発揮できる豊かな環境が生まれます。その環境づくりこそが、私たちの仕事なのだと実感しました。
営業一筋で繋いだ大阪・関西万博「静けさの森」緑のバトン

ーー貴社に入社されてから社長就任されるまで、どんなご経験をされましたか。
池田智範:
入社以来、ずっと植物を販売する営業職で、いわば樹木販売一筋です。埼玉の営業所を皮切りに、東京、関西、茨城と、社内でも珍しいほど多くの転勤を経験しました。さまざまな地域で業務に携わってきた経験を経て、この度、社長を拝命しました。
これまでで最も印象に残っているのは、現在開催中の「大阪・関西万博」のプロジェクトです。会場中心部にある「静けさの森」の樹木を手掛けました。これは、1970年の大阪万博の跡地に育った木々を約1,000本移植する取り組みです。弊社が新たに手配した樹木と合わせ、『命のリレー』というテーマで植樹しました。約500本の樹木を1年半で手配し、造園業者に納めました。若手社員も海外の設計者とのオンラインでの樹木選定に参加するなど、会社全体でこの国家的なプロジェクトに携わることができました。この経験を通じて、私たちの事業の意義を再認識しました。
植物のWeb販売への挑戦で描く新たな成長戦略
ーー改めて、貴社の事業内容について教えていただけますか。
池田智範:
事業の柱は大きく2つあります。1つは造園業者などに樹木を供給する「樹木販売」。もう1つは、母の日のギフト商品などを企画・販売する「花卉販売」です。たとえば、カーネーションの鉢植えとお菓子を組み合わせたコラボ商品などを企画しています。商品は量販店やコンビニのカタログを通じて全国にお届けしています。売上構成比としては、約30億円強のうち、樹木販売がその大部分を占めています。
ーー今後、特に注力していきたい取り組みについてお聞かせください。
池田智範:
2年ほど前に立ち上げたWeb販売に力を入れています。植物は鮮度管理が難しく、Webでの展開は容易ではありませんが、そこにあえて挑戦しています。弊社には大きな樹木から花まで、両方を扱える強みがあります。この経営資源を融合させながら、新たな価値を創造していきたいと考えています。
それに加え、販路の拡大も重要なテーマです。これまでの造園業者を通じた形だけでなく、将来的にはゼネコンや官公庁といったお客様とも直接取引を行い、より幅広いニーズに迅速に応えていきたいと考えています。また、Web販売の強化を通じて個人のお客様へのアプローチも拡大し、新たな層との接点を生み出していきます。こうした多面的な展開を進める中で、これまで関わりの少なかった分野にも少しずつ取り組みの幅を広げていくことで、グンゼグリーンとしての存在感を高め、最終的にはグンゼグループ全体のブランド価値の向上にも寄与していければと考えています。
未来の景色を創る環境貢献という仕事の醍醐味

ーー貴社が求めるのは、どのような人物でしょうか。
池田智範:
何よりも植物が好き、あるいは興味があるという気持ちが大切です。私たちの仕事はデスクワークだけでなく、圃場(※1)で樹木を検品するなど、フィールドワークも多いです。そのため、外に出て活動することに抵抗がない方が向いていると思います。
私たちはグンゼの一員です。そのため福利厚生や基本的な研修制度は、グンゼ本体に準じた手厚いものが適用されます。それに加えて、業界特有の資格取得を支援するバックアップ制度など、弊社独自の取り組みも行っています。若手が活躍できるプロジェクトも積極的に設け、成長を後押しする環境を整えています。
(※1)圃場(ほじょう):農作物を栽培するための場所のこと。圃場は、単に「農地」という言葉よりも、作物を育てるために計画的に整備・管理されている場所を指す
ーー社長ご自身が感じる、この仕事のやりがいとは何でしょうか。
池田智範:
自分たちの仕事が、直接的に環境改善に貢献していると実感できる点です。私たちは「CO2の吸収装置」を販売している、と言っても過言ではありません。そして何より、手掛けた仕事が目に見える形で街に残り続けることです。たとえば、大阪・御堂筋のイチョウ並木や公園の桜。自分が選んだ木々の下で、多くの人が憩いの時間を過ごしている光景を見ると、大きな喜びを感じます。樹木の寿命は人間より長いです。自分の仕事が未来の景色を創っていく。これこそが、この仕事ならではの大きな魅力です。
編集後記
植物への純粋な探求心からキャリアをスタートさせ、一貫して緑化事業に情熱を注いできた池田氏。その言葉からは、自社の事業が単なる商品販売ではない。地球環境の改善に直接貢献し、未来の風景を創造する仕事であるという強い誇りが感じられた。樹木・花卉という経営資源を、Web販売という新しい力と融合させている同社。これからどのような「緑の価値」を社会に提供していくのか、その挑戦から目が離せない。

池田智範/1966年京都府生まれ。京都府立大学農学部卒業。1990年にグンゼ株式会社に入社し、同年グンゼグリーン株式会社に配属される。以来、樹木・花卉の流通や緑化提案を通じて都市空間の環境向上に携わる。埼玉、東京、関西、茨城など全国の営業所で経験を積み、2025年に同社代表取締役社長に就任。全国規模の調達・供給体制を活かし、信頼される緑化パートナーとして、持続的かつ新たな価値の提供を目指している。