
建築業界では職人の高齢化が進み、人材不足が大きな問題となっている。そんな中、塗装業の魅力を発信し、若手人材の確保に注力しているのがインペックス株式会社だ。
経営理念である「仕事に没頭する喜びを知る」に込めた思いや、プロフェッショナル人材を増やすための戦略など、代表取締役の井上博之氏にうかがった。
事業の安定化の秘訣は多角化経営。採用PRのために始めたYouTube配信
ーーまずは貴社の事業内容や強みについて教えてください。
井上博之:
弊社は建築塗装工事を主体としていますが、それ以外にも飲食事業や、福祉事業、不動産事業を展開しています。具体的には食堂やラーメンショップの運営、グループホームの運営、自社所有物件の不動産管理を行っています。
一見バラバラに見えますが、新たな収入源を確保することで、本業である塗装業を続けるために始めたものです。逆に、飲食業の経営が苦しくなったコロナ禍は、本業の塗装業でカバーしました。このように異業種に進出することで、会社全体の業績の安定性を高められるのが弊社の強みです。
ーー採用に関する取り組みについて教えてください。
井上博之:
基本的に大卒の場合は、現場の人たちを管理する施工管理をしてもらっています。高卒の場合は職人として現場仕事を任せることが多いですね。ただ、仕事を始めてから「やっぱり職人になりたい」という人もいるので、現場業務にキャリアチェンジすることも可能です。
このように社員の希望を尊重し、自由に職種を選べるようにしています。また求職者向けに最近始めたのが、YouTubeでの情報発信(※)です。私自身が出演し、好きなお酒を飲みながらフランクにプライベートな姿を発信しています。
(※)「インペックス株式会社」公式チャンネル
「こんなに親しみやすい社長がいる会社なら働きやすいだろう」と思ってもらい、求職者へのPRを意図して発信を続けています。
社長になる夢を叶えるため選んだ塗装業の道。企業理念にかけた思い
ーー起業したきっかけと塗装業を選んだ理由を教えてください。
井上博之:
小さい頃から漠然と社長になりたいと思っていました。そこから社長になるために、何をしたらいいのかを考え始めました。私は大学に進学しなかったので、当時は選べる仕事がほとんどありませんでした。
そこで建築業の中でも最もとりかかりやすそうだという理由から、塗装業を選びました。それから18歳のときに定時制の高校に入り直し、建築の仕事をしながら22歳で卒業しました。そして24歳で独立し、今に至ります。
ーー創業当初は大変なことも多かったのではありませんか。
井上博之:
たった1人で起業し、人材集めから資金調達まですべて担っていたので、とにかく忙しかったですね。正直に言うと、最初はこの仕事を好きでやっていたわけではなかったのです。しかし、汚れていた壁が美しくなっていく過程を見るのが楽しくなり、徐々にこの仕事に夢中になっていきました。
自分が夢中になると、さらにお客様に喜んでいただける仕事にやりがいを感じるようになりました。こうした経験から、経営理念を「仕事に没頭する喜びを知る」にしたのです。
自分自身の成長にもつながるので、自分が没頭できる仕事に従事することは本当に幸せなことだと思います。そして、自分が本気で打ち込める仕事をくださるお客様にも、感謝の心を忘れないよう心がけています。
BtoC事業に注力しプロフェッショナル人材を増やす

ーー今後の展望についてお聞かせください。
井上博之:
塗装業のほか、飲食業、福祉業、不動産業の業績を総合して、できるだけ早く経常利益1億円を達成したいですね。また、これまではゼネコン関連のBtoB事業がメインでしたが、今後はBtoC事業も伸ばしていきたいと考えています。
ゼネコンを相手にする施工管理者には高度な専門知識が必要で、長年の経験がものを言う仕事です。それゆえ人材育成に5年かけたとしても、先方と十分に渡り合えるわけではありません。
一方、BtoC事業の場合、1年ほどで人材を育成することができます。そのため、今後はBtoC事業にシフトし、即戦力となる人材を効率よく増やしていきたいと考えています。各事業のプロフェッショナル人材を養成し、すべての事業の業績を底上げするのが目標です。
また、BtoCの販促活動を強化するため、いのししをモチーフにしたオリジナルキャラクター「いのペン」をつくりました。かわいらしいキャラクターが、弊社に興味を持っていただくきっかけとなり、一般住宅の塗装工事の受注につながればと思っています。
ーー最後に塗装会社の経営者としての思いをお聞かせください。
井上博之:
塗装業界では若い人材がなかなか入って来ず、人手不足の課題に直面しています。しかし私は、塗装業の魅力が見直されるタイミングが必ず来ると信じています。物事に夢中になれる人、仕事を楽しめる人は、きっと塗装の仕事にやりがいを感じるはずです。
そのためにこれからもYouTubeなど、SNSの発信に力を入れていこうと考えています。発信を通じて弊社の雰囲気を知ってもらい、塗装業に興味を持っていただけたら嬉しいですね。今後も塗装業の魅力を伝え、業界全体の発展に貢献していきます。
編集後記
塗装業の仕事に没頭し、複数の事業を展開して会社を成長させてきた井上社長。たった一人で起業してから独自の強みを築き上げた過程を知り、経営者としての覚悟を感じた。働く皆が仕事に没頭する姿勢を大切にし、若い人材を巻き込みながら塗装業界を盛り上げていくインペックス株式会社の今後に注目したい。

井上博之/1967年東京都生まれ。地元の定時制高校に通いながら足場工事会社、塗装工事会社に勤める。卒業後は塗装会社に3年勤務した後、1995年に有限会社井上塗装工業を設立。2005年にインペックス株式会社に改名。