ちょっといいおつまみがあると、お酒が普段よりもおいしく感じるものである。そんなお酒のつまみにピッタリな「高級珍味」を作っているのが株式会社伍魚福だ。
同社はイカ製品や魚介類の加工品から始まった会社だが、つくだ煮や肉製品など、品ぞろえを増やし続け、今では全国でさまざまな珍味を販売するようになった。この成長を支える秘訣とは何なのか。代表取締役社長の山中勧氏に、伍魚福の経営戦略や事業へのこだわり、今後の展望などを聞いた。
約200の工場と手を携え、400種類以上のおつまみを提供
ーー貴社の事業内容を教えてください。
山中勧:
主な事業は高級珍味の製造と卸売です。取り扱っている商品は、イカ製品・ナッツ・ジャーキーなどの「ドライ珍味」、くんせい・生ハム・チーズ・塩辛などの「チルド珍味」、いかなごのくぎ煮・明石だこのやわらか煮などの「神戸銘品」などで、品数は実に400種類を超えます。特にお酒のおつまみにピッタリな商品に力を入れており、ビールやワイン、日本酒など、お酒の種類からおつまみを選ぶ楽しみを提供しています。
弊社は従業員100人以下の小規模な会社ですが、それでも数多くの品数を維持し続けられるのは、自社で工場を持たないファブレス経営だからです。全国にある約200の協力工場に製造を委託することで、自社リソースに制限されることなく品数を増やせます。
販売場所は全国の酒販店、百貨店、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、駅・空港の売店などで、地元である兵庫県と、隣接する大阪府には直営店舗を設置しています。また、オンラインショップでも購入可能で、まとめ買いやギフト利用に活用していただいています。
会社を継ぐ意思を持ち、変わりゆく時代を乗り越えてきた3代目社長
ーー山中社長の経歴についてお聞かせください。
山中勧:
私は幼いころから、伍魚福の3代目社長になることを意識していました。そのため、大学卒業後に伊藤忠商事に入社しましたが、すべての経験を修業ととらえて懸命に取り組みました。
伊藤忠商事では法務部門と繊維部門を経験しました。最初は直接商売に関係のない法務部配属に物足りなさを感じましたが、稟議書の法的観点からの審査、契約書の作成、顧客の倒産処理や債権の取り立てなどを経験できたことは、大きな財産になりました。
また、その後異動させてもらったアパレルの部署では、女性下着のOEM生産・供給を担当し、ファブレスメーカーとしての仕事を体験することができ、今の仕事に繋がっています。
1995年に家業に入りました。ちょうど神戸市を中心に大きな被害を及ぼした阪神・淡路大震災があった年で、1年間は社長室長として業務の把握に努め、翌年からは営業担当として業務にあたりました。2006年に社長に就任して現在に至ります。
ーー社長に就任するまでの間に、特に苦労したことは何ですか?
山中勧:
2000年頃にスーパーやコンビニでも酒類を販売できるようになったときに、今後の販路を決めるのが大変でした。それまでは「酒屋一本」にこだわっていたので、スーパーやコンビニに販路を広げることに当時の社長(現名誉会長)も反対だったのです。
そんな状況を変えたのが「スーパーマーケット・トレードショー」という、スーパーマーケットを中心とした商談展示会への出展でした。私はこれを販路転換のチャンスと考え、当時の社長の了解をなんとか取り付け、出展にこぎつけました。
展示会には、品ぞろえにこだわったスーパーマーケットの経営者や担当者が多く来展されており、どの企業も酒類販売に向けて意欲的だったので、弊社にとってはまさに商機の場といえました。酒販店で鍛えられた伍魚福の品揃えに興味を持っていただく企業も多くおられ、展示会後の商談では、お酒とともに弊社商品を販売するメリットを語り、無事販路の拡大に成功したのです。
全社員の力を合わせてアイデアを出し合い、人を楽しませる商品を作り続ける
ーー貴社独自の強みを教えてください。
山中勧:
一番の強みは、ファブレス経営によって積極的な新商品開発ができることです。生産のアウトソーシングは自社の人的・物的リソースを使いませんし、アイデアを素早く形に変えることができます。
この強みを活かすために、弊社ではパート社員を含む全従業員から毎月一つ以上商品アイデアを提出してもらっています。すべてのメンバーに企画を担当してもらいたいと考え、商品開発には従業員全員で取り組む姿勢を貫いています。コンスタントにヒットを打つ野球選手のように、皆様から愛される商品を増やしていきたいですね。
また「高級珍味を売っている会社」という肩書きも大きな強みです。通常、食品メーカーは肉や魚など特定の専門食材を持っていますが、弊社は高級珍味という「ジャンル」で勝負してきたので、顧客にさまざまな食材を使った商品を提案できます。
この利点を活かし、売上データを鑑みて顧客に卸す商品を随時入れ替え、精鋭の商品を選りすぐることが可能です。こうして時間をかけてお客様に選ばれた商品だけで構成される「売れる売り場」を作っていくことが可能なのです。
ーー事業を進めるにあたってどのような考えを大切にされていますか?
山中勧:
経営理念の、「すばらしくおいしいものを造り、お客様に喜ばれる商いをする」等の行動指針を全員で共有するとともに、伍魚福のキーワードをまとめた「エンターテイニングスパイラル」という考えを大切にしています。
これは、エンターテイニング(人を楽しませる)とスパイラル(らせん)を組み合わせた考えで、従業員にとってメリットがある「おもしろい会社」であることから生まれる良い商品・良いサービスを出発点として、お客様や協力企業にエンターテイニングを提供し、そこから弊社が「おもしろい会社」と思われることで良い影響が及び、さらにもっと良い商品・もっと良いサービスへとつながっていく、というものです。
いわば近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の伍魚福版で、このスパイラルをスパイラルアップさせながら神戸で一番おもしろい会社を目指しています。
協力工場との連携を強化した先に見える、自社の成長と社会貢献への道筋
ーー商品開発を進めるにあたって特に注力したいテーマを教えてください。
山中勧:
協力工場との連携の強化を図り、商品の品質改善を図っていきたいと考えています。最適な協力工場と関係を結び、対話を重ねていくことで、一歩ずつ品質を高めていきます。
そのためには、パートナーとなる協力工場と一緒に成長していける関係が重要で、生産現場を客観的に評価できる社員の育成や、弊社が得た情報を協力工場と共有する体制の構築などが必要になってくるでしょう。
ーー今後、会社として挑戦したいことは何ですか?
山中勧:
協力工場による幅広い対応力を活かして、地域から愛されながら、なくなりつつある地域の食品・食文化を、弊社が守っていきたいと考えています。
世の中には、地域から愛されてきた商品を持ちながらも、後継者問題や人材確保の問題などから廃業する食品メーカーが数多くあります。それは、社会的な損失だといえるでしょう。そのため、弊社が可能な限りその価値を引き継ぐことで、長年愛されてきた味を世に残していきたいのです。
幸い、弊社には多種多様な協力工場があるので幅広いジャンルに対応が可能です。すでに小田原のかまぼこメーカーを引き継ぎ、多くのお客様から喜びの声をいただいています。
編集後記
特別感が求められる高級珍味を扱うにあたって、柔軟性が高いファブレス経営はベストマッチな手法だと感じた。協力工場との関係強化や地域メーカーの引き継ぎが進めば、伍魚福に数多くのノウハウが蓄積され、さらに多くのアイデアが世に生まれることだろう。山中社長の「エンターテイニングスパイラル」という考えのもと、同社はますますおもしろい会社へと進化していくはずだ。
山中勧/1966年、神戸生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、1988年に伊藤忠商事株式会社に入社。法務部門および繊維部門に勤務。1995年、阪神・淡路大震災を契機に父親の経営する株式会社伍魚福に入社。2006年に代表取締役社長に就任。「おもてなし経営企業選」(経済産業省)、「地域未来牽引企業」(経済産業省)、「日本経営品質賞 奨励賞」(経営品質協議会)など表彰・認定を数多く受けている。