牛乳、ヨーグルトにバター、マーガリン、チーズなど、小岩井乳業の商品のおいしさは誰もが知るところだが、この安定した品質はどのように生み出されているのだろうか?その秘訣をひもといていくと、じつに130年以上の歴史と、創業当初から続く伝統を良い形で継承していこうとする、温故知新の精神が見えてきた。
同社は何を守り、何を生み出そうとしているのか。そして、その根本にある価値観とは何なのか。代表取締役社長の松崎浩樹氏にうかがった。
キリングループ各社でキャリアを積み、小岩井乳業の社長に就任
ーー松崎社長の経歴をお聞かせください。
松崎浩樹:
弊社はキリンホールディングス株式会社のグループ会社です。私は大学卒業後、キリンビールに入社しました。沖縄エリアの営業から始まり、次に広域営業を担当し、合わせて約13年間、営業に携わりました。
その後のキャリアは、本社営業本部の企画担当など、戦略立案、組織・要員デザインやPDCAサイクル管理などの業務に携わりました。
その後、2016年にキリンビールとハイネケンのジョイントベンチャー企業である「ハイネケン・キリン株式会社」の営業部長として、グローバルに展開するブランドマーケティングやトレードマーケティングという新たな領域での経験により、多くの学びを得ました。
2021年にはキリンホールディングスの人事総務部で人事担当主幹となり、2022年には同社の人財戦略部の人財開発担当主幹に。そして2024年に弊社の代表取締役社長に就任しました。
ーー業務において松崎社長が大切にしている考えは何でしょうか。
松崎浩樹:
行動を起こす源となる「志」を持つことです。また、それを成し遂げるには、パッションが必要です。自分が何を成し遂げたいか、どのように社会とともに持続的に発展していくのか、そこに強固な「志」があってこそ、歩みを進めていけるものです。
「意志あるところに道は開ける」という言葉があるように「志」は道を切り開く原動力になります。そして「世のため人のため」という、険しくも尊ばれるべき道を歩むときも、心強い味方になってくれるでしょう。
丁寧な製品作りと自然さにこだわった小岩井ブランド
ーー事業内容を教えてください。
松崎浩樹:
弊社では「小岩井」ブランドを掲げた牛乳やヨーグルトなど、乳製品の製造販売をしています。
看板商品は1984年発売のロングセラー「小岩井 生乳(なまにゅう)100%ヨーグルト」です。弊社売上構成比で半分以上を占める発酵乳カテゴリーのうち、主軸を担っています。弊社商品はおいしさと品質にこだわってつくっており、ハイエンド帯の価格設定になっていますが、多くのお客様に評価をいただいています。素材を活かして確かなおいしさを届けることが弊社のスタンスです。
ーー製品作りではどのような点にこだわっていますか?
松崎浩樹:
「上質さ」「自然さ」を大切にした製品作りに取り組んでいます。このコンセプトは営業やマーケティングにも組み込まれており、根本的な価値観を形づくるキーワードとなっています。
「上質さ」「自然さ」の感覚を保ち続けるために欠かせないのが、岩手県雫石町にある「小岩井農場」の存在です。ここは1891年から続く小岩井乳業の原点となる場所で、ヨーロッパ農法に準拠した本格的な農場を建設しようという思いから始まりました。
開設当初、牛馬のブリーダーとして我が国畜産界の発展に貢献した小岩井農場は、国内の乳業事業の先駆けでもあり、明治期からバターの製造技術の確立を図りました。この伝統はDNAとなり、今も小岩井乳業に受け継がれています。
農場を発祥とする企業で、弊社の様な規模の事例は多くありません。それだけに小岩井農場の存在は大きく、弊社が考える「上質さ」「自然さ」のイメージを形づくる重要な要素となっているのです。
今まで培ってきたものを土壌に、新たな価値という花を咲かせる
ーー今後、特に注力したいテーマを教えてください。
松崎浩樹:
長期構想を見据えたパーパスとビジョンの策定です。弊社には「私たちは、大地の恵みを大切に、お客様の『おいしい』『うれしい』の期待にこたえ続けます。」という素晴らしい経営理念があるのですが、その理念を持って、社会における存在意義や長期の視点でどこへ向かうのかを明確にしていく必要があります。
就任3ヶ月、多くの従業員と面談や対話を行い、相互理解を図るとともに、皆さんの会社や組織に対する思いや意見を確認し、多くの気付きやヒントをいただきました。現在、パーパスを全従業員でつくっていますが、パーパスを基軸においた事業経営・活動を実践することで、従業員が誇りを持って仕事に取組み、社会とともに持続的に発展していく状態、まさに社会的価値と経済的価値の創出を達成している状態を実現したいと思っています。
また、事業経営戦略と連動した人材戦略が重要であると考えています。長期構想の土台作りとして、特に人財マネジメントに注力していきます。中でも人材育成は、持続的成長を果たすためには、極めて重要な取り組みです。人材のパイプラインを整えて、組織能力、社内文化の継承を可能にするためにも、人が育つ風土づくりが必要と感じています。すでに経営戦略部の中から人材戦略部を切り離し、「人財戦略部」として新たなスタートを切っています。
ーーお客様にどのような価値を届けることが大切だと思いますか?
松崎浩樹:
今ある価値の延長線上で考えるだけでなく、お客様理解を深め、提供価値を考え抜き、お客様や小岩井農場がある東北地方における地域コミュニティなどと共創しながら、弊社にできることを見つけていきます。
この取り組みは、これからの弊社の存在意義を明確にするとともに、従業員のチャレンジ精神向上にもつながると思っています。今、弊社は変わるべきタイミングにあります。従業員のステージを上げるためにも、全力で取り組んでいく次第です。
世のため人のために働く「志」が報われれば、人は活き活き働ける
ーー最後に、読者にメッセージをお願いします。
松崎浩樹:
「世のため人のため」という考えは、いつの時代でも大事なことです。私は日本を元気にしたいと思っており、そのためにも「心身の健康」から、人々の心豊かな生活に貢献していきたいと考えています。
健康はすべての考動力の源です。人々が心身の健康をよりよい状態を維持できれば、日本も元気になり、ひいては経済への影響も大きくなるのではないでしょうか。
弊社では「志」をもって仕事を続けてきた従業員が生き生きと働いています。この姿は、弊社が社会貢献をできている証だと思っているので、今後もこの環境を守り続けたい所存です。
「志」を持って「世のため人のため」に働きたい方は、ぜひ弊社にお声がけください。あなたの思いを力に変えて、一緒に日本を元気にしていきましょう。
編集後記
小岩井乳業が長年成長を続けられるのは、組織の根っこに強固な「志」があるからだろう。意思の力は人を変え、組織を変え、そして社会を変える可能性さえも含んでいる。松崎社長の日本を元気にするための挑戦は、こだわりの商品を通じて確かに私たちに届いている。
松崎浩樹/1972年、三重県生まれ。1996年横浜国立大学教育学部卒業。キリンビール株式会社入社。2016年、営業部長としてハイネケン・キリン株式会社に入社。2021年、人事総務部人事担当主幹としてキリンホールディングス株式会社へ入社。2023年、人財戦略部人財開発担当主幹。2024年、小岩井乳業株式会社、代表取締役社長に就任。