ライブ配信アプリ「ふわっち」を提供する株式会社jig.jp(ジグジェイピー)は、アマチュア配信者に特化したサービスで注目を集めている。利用者の98%がフリーの配信者という特徴を持ち、30代から40代のユーザーが6割を占める独自の市場を開拓。
ほかにも地方自治体向けのオープンデータプラットフォームやVTuber事業など、多角的な展開で成長を加速させている。GAFAに負けない日本発のIT企業となることを目指す、同社代表取締役社長・川股将氏に、そのビジョンをうかがった。
金融からITへの転身で、経営者としての資質を開花させた
ーー貴社に入社するまでの経緯を教えてください。
川股将:
もともと実家が会社を経営していたことから「経営者になりたい」という思いがあり、以前から、そのために必要な経験を積もうと考えていました。投資銀行業界であれば上場企業の経営者の意思決定に近い視点で仕事ができると考え、大学卒業後は大手証券会社に入社しました。5年ほど経験を積む中で、「経営者になりたい」という気持ちがどんどん強くなっていったのです。
そのようなときに、弊社の創業メンバーと会う機会があり、彼らの描く未来像に強く惹かれました。特に、「日本のスタートアップや上場企業が世界で戦うためにはどうすべきか」という視点に共感しました。そして「思う存分活躍してほしい」といわれ、入社を決意しました。
ーー入社後、どのような取り組みをしてきましたか?
川股将:
入社後はまず、サービスの理解に努めました。特に「ふわっち」については、ユーザーとしての視点を持つために、プライベートも含めてサービスを徹底的に利用しました。事業部門に気づいたことを粘り強く提案するなど、積極的に関わるようにしていましたね。
また、経営企画の立場から上場準備に携わる中で、採用や法務など、さまざまな部門に関わりました。当時の会社規模は60人程度でしたから、一人ひとりの社員が会社全体に大きな影響を与えます。そのため、自分がすべての責任を背負っているという気持ちで取り組みました。このような姿勢が評価され、入社から3年という短期間で私が代表取締役社長CEOに就任することを決断いただいたのだと思います。
アマチュア配信者が主役、「ふわっち」が切り拓く新たな可能性
ーー貴社の事業内容について教えてください。
川股将:
弊社の主力事業は「ふわっち」というライブ配信・視聴プラットフォームです。これに加えて、地方自治体向けのオープンデータプラットフォーム事業や、こども向けパソコン事業「IchigoJam(イチゴジャム)」など、複数の事業を展開しています。最近では、ライブ配信の隣接領域であるVTuber事業も立ち上げ、「VTuber登龍門」というYouTube番組やVTuber事務所の運営を始めました。
「ふわっち」の最大の特徴は、配信者の98%がフリーのアマチュア配信者であることです。他のプラットフォームではインフルエンサー事務所に所属している配信者も多いのですが、「ふわっち」は個人で活動している方々がメインです。
また、ユーザーの年齢層は、30代から40代が60%を占めており、他のプラットフォームと比べて高めなのも特徴と言えるでしょう。ライブ配信は年齢が近い人同士のコミュニケーションが活発になりやすく、自然と同世代の方が集まりやすい構造になっているのです。こういった特徴から、「ふわっち」は他のプラットフォームとは異なる独自の市場を形成しています。
ーー今後のサービス展開について、どのようなビジョンをお持ちですか?
川股将:
現在、新たな取り組みとして、さまざまな職業の方とのコラボレーションを模索しています。たとえば、農家の方が畑を耕す配信や、漁師の方が漁の様子を配信するなども実は人気コンテンツで、普段見ることのできない仕事の現場を共有する取り組みを進めていきたいと考えていますし、現在は全国のスナックとのコラボレーション企画を進めています。
また、プロやセミプロの配信者も含めた、多様な配信者の構築も進めていきたいと考えています。アマチュアを中心としつつも、さまざまな層の配信者が共存できる多様性を実現するプラットフォームを目指しています。
挑戦心にあふれる人材が集まる、未来志向の組織づくり
ーー今後の採用戦略について、教えてください。
川股将:
現在、弊社の従業員数は100人ほどですが、3年後には200人、5年後には300人程度といった規模まで増やしていきたいと考えています。そのためには、弊社の事業を非連続的に成長し続けなくてはなりません。自ら能動的に課題を発見し、問題の解決策を提案できるような、当事者意識の高い人材が来てくれるとうれしいですね。
エンジニアはもちろんですが、マーケティングや新規事業の企画ができる人材も積極的に採用していきます。特に、会社やサービスのオーナーとして、責任を持って事業を推進できるような人材を求めています。
ーー将来は、どのような会社になることを目指していますか?
川股将:
弊社が目指しているのは、チャレンジしたい人材が集まる会社です。日本には、新しいことに挑戦したいけれど、様々な理由から今の境遇や社会的地位を捨てきれず、あと一歩を踏み出せないという人がたくさんいると思います。そういった人たちに、弊社でそのアイデアを実現してほしいのです。将来的には、起業までは行かなくとも、会社員以上の収益を得られ、夢を実現する中間的な立場の社員層をつくりたいと考えています。
そうすることで、経営者を志す人材がたくさん集まる組織になれば、当社が成長するだけにとどまらず、日本のIT業界も、GAFAのようなアメリカの大手企業に負けない存在になれるのではないでしょうか。そのためにも、高い志を持った人材を集め、弊社を日本のIT業界のリーダーへと育てていくことが、私の使命だと考えています。
編集後記
今回のインタビューを通じて特に印象的だったのは、アマチュア配信者を中心に据えた戦略だ。これはビジネスモデルに留まらない、新しい働き方や生き方の提案にも思える。株式会社jig.jpが目指す「チャレンジする人が集まる会社」という未来像。このビジョンに向かう中で、同社が日本版シリコンバレーの萌芽となる日も近いかもしれない。
川股将/1991年生まれ、愛知県出身。2016年に早稲田大学教育学部英語英文学科を卒業後、野村證券株式会社の投資銀行部門に入社。2021年に株式会社jig.jp(ジグジェイピー)へ入社。2023年に執行役員、2024年に代表取締役社長CEOに就任。