
「Make IT Easy」の理念のもと、企業向け問い合わせ管理ツール「Re:lation(リレーション)」を開発・提供する株式会社インゲージ。同社を率いるのは、大手ゲーム会社での開発経験、米国IT企業取締役を経て起業した異色の経歴を持つ、代表取締役社長の和田哲也氏だ。和田氏の起業に至る原体験や、同社の主力事業の強み、描く今後の成長戦略についてうかがった。
ゲーム開発への道と「3つの要素」の発見
ーー社長がゲーム開発者を志した経緯をお聞かせください。
和田哲也:
大学3回生で就職を意識した際、1日のほとんどの時間を仕事に使うわけなので、やっぱり好きなことを仕事にしたいと考えるようになりました。仕事になるかどうかは分からなかったですが、その時に好きだったことは芸術とゲームでした。「ゲームが好きならゲーム開発の仕事も面白いんじゃないか」と思い、ゲーム開発者を目指すことにしました。
縁があって、大手ゲーム会社から内定をもらい、就職活動は終了しました。ただ、その頃、パソコンは持っていましたがプログラミング経験はなかったので、そこからひたすら本で勉強し、プログラミングを習得。入社前までにひと通りの知識は身につけられたと思います。
ーーゲーム開発の現場で、新たな気づきはありましたか。
和田哲也:
当時、上からは「売れるゲームをつくれ」というシンプルな指示があるのみで、開発は各チームに任されていました。その中で、売れるゲームには3つの共通要素があると気づきました。それは「見た瞬間に興味を惹く魅力」「少し触ればすぐに理解できる操作性」「終わった後に『もう一度やりたい』と思わせる中毒性」です。この3要素は、その後の私のものづくりにおける重要な指針となりました。
ゲーム開発からITツール開発へ転身
ーーなぜゲーム開発を離れることにしたのですか。
和田哲也:
会社で使用していた社内のITツールが、先ほどお話しした「3つの要素」をまったく満たしていないことに不満を感じるようになったのがきっかけです。「なぜこんなに使いにくいんだ」「自分ならもっとこうつくるのに」という思いが募り、次第にゲームそのものよりも、人々が日常的に使うITツールを、もっと使いやすく便利なものにしたいという気持ちが強くなりました。これが、現在のインゲージの企業理念「Make IT Easy」に繋がっています。
大手ゲーム会社を退職後、音響機器やデジタルカメラなどを手掛けるメーカーに転職しました。同社が売上高の半分以上をアメリカで上げていたこと、そして、当時デジタルカメラの普及という大きな変革期にあった写真業界で、ITの力で貢献できるチャンスがあると感じたのが転職の理由です。同社ではデジタル処理機の開発などを手掛け、大きな成果も出すことができました。
大手ゲーム会社も含め、約10年間アメリカで仕事をする機会にも恵まれ、グローバルな視点や、日本人としての誇りを再認識する貴重な経験を得ました。
ーー起業に至った直接のきっかけは何だったのでしょうか。
和田哲也:
アメリカで働く中で、日本という国が海外から非常に尊敬されていることを知ると同時に、日本のITツールの使いにくさも感じていました。「見て興味を持ってもらえる」「すぐにやり方がわかる」「またやりたいと思ってもらえる」。あの「3つの要素」を備えたITツールを日本企業に提供することで、日本企業を強くし、ひいては日本という国に貢献できるのではないか、という思いが強くなったのです。
帰国後、一度ITベンチャーに身を置きましたが、最終的には自らが責任を持って理想を追求するために、2014年に株式会社インゲージを設立しました。
主力事業「Re:lation」でコミュニケーション課題を解決

ーー主力事業「Re:lation(リレーション)」について詳しく教えてください。
和田哲也:
ビジネスとコミュニケーションは、人間が社会で活動する上で絶対になくならないものです。特に現代では、メールやSNSなどコミュニケーションチャネルが多様化し、企業側の対応が追いついていないケースが見受けられます。お客様とのコミュニケーションエラーは、時に大きなビジネスチャンスの損失や信用の失墜に繋がりかねません。「Re:lation」は、そうしたビジネス上のコミュニケーション課題を解決するために生まれました。
最大の特徴は、メール、LINE、SMS、電話など、多様なコミュニケーションチャネルを一つの画面で一元管理できる点です。これにより、顧客からの問い合わせに対し、どのチャネルからであっても、過去のやり取りを含めてチーム全体で情報を共有し、迅速かつ的確な対応が可能になります。担当者が不在の場合でも、他のメンバーがスムーズに引き継ぐことができるため、顧客満足度の向上と業務効率化に大きく貢献します。EC事業者様をはじめ、士業、大手メーカー、不動産業など、多様な業界・業種で導入いただいています。
コミュニケーションを軸に未来を拓くインゲージの成長戦略

ーー今後の事業の展望についてお聞かせください。
和田哲也:
「Re:lation」は今後も主力事業としてさらに進化させていきますが、それだけに留まらず、コミュニケーションという太い幹から派生する形で、第2、第3の柱となる新しいサービスを積極的に生み出していきたいと考えています。
ビジネスにおけるコミュニケーションの課題は尽きることがなく、私たちの伸びしろは非常に大きいと確信しています。
ーー具体的な目標や、組織としてのあり方についてお考えはありますか。
和田哲也:
今以上の売上の成長と5年以内の上場を掲げています。その達成のためには社員数を現在の倍以上にはする必要があるでしょう。開発エンジニアはもちろん、セールス、マーケティング、コーポレート部門など、あらゆる職種で仲間を増やしていきたいと考えており、新卒採用・中途採用ともに力を入れています。
私が組織づくりで最も大切にしているのは、社員が仕事を通じて成長実感を得られることです。オフィス環境や福利厚生も大切ですが、それ以上に、日々の業務の中で達成感を味わい、自身の成長を感じられることこそが、本質的なモチベーションに繋がると信じています。
社員ひとり一人が「この会社で働いて良かった」と思えるような、成長を実感できる環境づくりをこれからも追求していきます。
編集後記
「Make IT Easy」というシンプルな言葉に込められた、和田社長の熱い思い。それは、アメリカでの挑戦を経て、日本のIT業界、そして日本そのものを元気にしたいという純粋な願いから生まれたものだ。主力事業「Re:lation」は、まさにその理念を体現し、複雑化するビジネスコミュニケーションに明快な答えを提示する。5年以内の上場という壮大な目標を掲げながらも、社員ひとり一人の成長実感を何よりも大切にする姿勢は、和田社長自身の経験に裏打ちされた確固たる信念であろう。変化を恐れず、常に新しい価値創造に挑み続ける株式会社インゲージの未来に、大いに期待したい。

和田哲也/1966年生まれ。ソフトウェア開発者としてキャリアをスタートし、大手IT企業2社にて21年間勤務。その間、開発PLや開発部長を歴任し、米国IT企業の取締役も務め、アメリカでの勤務は約10年に及ぶ。帰国後、ITベンチャーにて日本発アメリカ向けのB2Bクラウドサービスの成功に貢献。2014年1月、株式会社インゲージを設立し、代表取締役社長に就任。