※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

EC事業者向けの延長保証サービス「proteger」や、業務の自動化を支援するワークフロー型AIエージェント「SamuraiAI」など、時代と顧客のニーズを的確に捉えて事業を展開する株式会社Kiva。同社の強みは、構想からわずか3ヶ月でサービスをリリースする圧倒的な開発スピードにある。代表取締役社長の磯崎裕太氏は、新卒で入社した証券会社を半年で退職し、未経験からエンジニアへと転身した経歴を持つ。その背景には、かねてからの強い起業への意志と、ターニングポイントとなった父との対話があった。自らの道を切り拓いてきた同氏の行動力の源泉と事業哲学に迫る。

証券会社からIT業界へ 独学で拓いた新たな道

ーーこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますか。

磯崎 裕太:
大学卒業後、新卒で証券会社に営業職として入社しましたが、もともと起業することは決めていました。温めていた事業アイデアの9割がITサービスだったことから、「サービスを自分で作れるようになれば、困らない」と考え、入社から半年ほどで退職。次の道としてエンジニアになることを決意した次第です。

証券会社を辞めてからの3ヶ月間は独学で勉強しましたが、精神的な苦労は全くありませんでした。「楽しい」「やりたい」という気持ちが常に勝っていましたし、直感的にもエンジニアに向いていると感じていました。その後、チームラボエンジニアリングに入社しました。

父の言葉がもたらした人生の転機と覚悟

ーーこれまでを振り返り、ターニングポイントとなった出来事はありますか。

磯崎 裕太:
新卒で入社した会社にいた頃、父にこれからの人生について諭されたことが非常に大きな転機となりました。その時、父から「お前は今までサッカーも勉強も中途半端だった。これからは絶対に中途半端にするな」と言われたのです。今振り返ればそれをきっかけに、自分が決めたことを継続することの大切さに気づき、私の中で意識が大きく変わったと思います。実際、会社を辞めた後の3ヶ月間は、人生で一番と言えるほど勉強に集中できた実感があります。

ーー起業に至った経緯を教えてください。

磯崎 裕太:
チームラボに入社する前からの知人と、たくさんの事業アイデアについて話し合っていました。しかし、会社員を続けながら話しているだけでは本気になれないと感じたのです。そこで「まず会社を登記して退路を断れば、本気で取り組むだろう」と考え、2020年に弊社を設立するに至りました。

「時代」と「顧客」を判断軸とするサービス開発

ーー貴社の現在の主要な事業内容を教えてください。

磯崎 裕太:
事業の柱は、EC事業者向けの延長保証サービスの「proteger」、Webサイトを誰もが使いやすくするためのウェブアクセシビリティツール「ユニウェブ」、そしてワークフロー型AIエージェントの「SamuraiAI」の3つです。

直近では、ワークフロー型AIエージェントの「SamuraiAI」をリリースしました。これは、業務の一連の流れを自動化するAIを、専門知識がない方でも簡単に作成できるサービスです。例えば、退職申請の受付から承認までといったフローを、部品を組み合わせる感覚で設定できます。定型業務をAIに任せられる、まさに時代の波を捉えたサービスです。

これら3つの事業の中で、特定の事業へのこだわりはありません。良い事業かどうかの判断基準は、常に「時代」とその時代の「お客様」に置いています。お客様や時代の需要を敏感に察知し、サービスとして具現化することが、会社の大きな方針となっています。

3ヶ月リリースを可能にする圧倒的な開発力とスピード

ーー貴社の強みは何だとお考えでしょうか?

磯崎 裕太:
一番の強みはスピード感です。通常、新規サービスのリリースは1年以上かかるところを、弊社では3ヶ月ほどで立ち上げてきました。お客様への返信も「5分以内」をルールとしています。このスピードを支えているのが、弊社の高い開発力です。現在、社内には4人のエンジニアが在籍していますが、彼らは一般的な企業の30人分ほどの働きをしてくれていると感じます。

ーーお客様との関係構築において大切にされていることは何ですか。

磯崎 裕太:
まず人として信頼していただくという、人間味のある部分を大切にしています。そのため、営業担当にはスーツとネクタイの着用を徹底させ、可能な限りお客様の元へ直接伺うよう指導しています。プロダクトの機能だけで競合優位性を生み出すことは難しいからです。

私たちは来年、また違う事業を手がけているかもしれません。その時、お客様と良好な関係を築けていなければ、新しいサービスを提案しても耳を傾けてもらえないでしょう。今後も継続してお取引いただくために、お客様と真摯に向き合うことが、双方にとって良い結果につながると信じています。

成長と人間味を両立させる「時代と逆行する」組織づくり

ーー5年後、10年後、どのような会社にしていきたいとお考えですか。

磯崎 裕太:
2028年に売上1000億円を目標にしています。その上で「時代と逆行した会社」にしていきたいと考えています。「時代と逆行する」とは、成長意欲の高いメンバーが集まる熱量を持ちつつも、人間関係の構築といった古き良き文化を大切にするという意味です。社員一人ひとりが仕事に熱中し、高い目標を追いかけつつ、リモートワークが主流になる中でも、人と人とのつながりやウェットな関係性を大切にする。そんな会社にしていきたいです。

また、人生は一度きりですから、成長のためなら、ある時期にすり切れるくらい仕事に没頭してもいいと思うのです。もちろん、その頑張りにはしっかり応えたい。社員には経済的にも豊かであってほしいので、最近も全社員の給与を15%引き上げました。

ーー最後に、読者へメッセージをお願いします。

磯崎 裕太:
将来を理屈で考えすぎず、まずは目の前の仕事に必死になることが大切です。そうすれば自然と道は拓けていくはずです。何かを得るには何かを捨てる覚悟も必要で、特に20代は仕事に没頭する時期があってもいいと思います。考えるよりまず行動することです。物事を5秒で決めるくらいのスピード感で、まず動いてみることをお勧めします。

編集後記

新卒で入社した会社を半年で辞め、未経験からエンジニアへ。磯崎氏のキャリアは、明確な目標設定と圧倒的な行動力に裏打ちされている。「プロダクトでの優位性は生まれない」という言葉は、変化の激しい業界の本質を見据え、顧客と向き合う人間味こそが揺るぎない強さだと物語る。理屈で考えず、まず動く。その哲学は、キャリアに悩む多くの若者にとって力強い指針となるに違いない。

磯崎裕太/1995年生まれ。神奈川大学法学部を卒業後、証券会社に就職。半年後に退職し、エンジニアになるための勉強を独学で始める。その後、ベンチャー企業にて新規プロダクトを開発責任者として立ち上げ、月間数百万ユーザーまで成長させる。「世界で使われるサービスをつくりたい」との思いから、2020年に株式会社Kivaを設立。社会課題の解決に取り組みながら、複数の自社プロダクトを展開し事業を拡大している。