※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

株式会社中村製作所は、高い技術力が求められる金属加工業界において、精密な仕事で高く評価される会社だ。代表取締役の山添卓也氏は、先代から真摯さをそのまま受け継ぎ、高い技術力を生かしたブランディングや、DXによる業務効率化などを推し進めている。

大学卒業後数年で社長に就任して以来、数々の困難を乗り越え、会社を成長へと導いてきた山添社長の歩みや事業の強み、今後のビジョンなどを聞いた。

父の早すぎる死から始まった、波乱の社長人生

ーー山添社長の経歴をお聞かせください。

山添卓也:
中村製作所は我が家の家業で、私は幼い頃から会社や工場に接しながら育ちました。父に工場に連れて行ってもらったり、祖父母から将来を期待されたりして、気づけば自然と会社を継ぐ意識が芽生えていたのです。

大学卒業後はすぐに家業を継ぐことはせず、まずは他社でビジネスの基礎経験を積むことにしました。私としてはしばらくお世話になるつもりだったのですが、父の持病が悪化したことを受け、半年で中村製作所に入社することになりました。その翌年に父が亡くなり、私は社会経験を十分に積めないまま、社長に就任することとなったのです。

社長就任直後は何もかもが手探りで、正直何をすればいいか分からない状態でした。そんなとき、父が仲良くしていた会社の社長さんが、何もかも不足していた私に、「必要なのは経営者の仲間だ」と言い、中小企業家同好会という団体に入ることを勧めてくれました。

中小企業家同好会に入った私は、そこで出会った方々からの助言やサポートを受け、なんとか会社を経営できるまで成長しました。こうして私のキャリアを振り返ると、いかに多くの方に助けられてきたかを実感しますね。

ーー社長に就任した後、最も苦労された経験を教えてください。

山添卓也:
リーマン・ショックの影響を受け、売上が一気に90%も落ち込んだことです。当時、弊社は売上の大半を1社に依存していたため、その会社からの発注が激減したことで、全体の売上が激減してしまいました。

弊社の経営を揺るがすほどの大事件を受けて、私は、「受け身の姿勢をやめ、攻めの姿勢へ転換する時が来た」と感じたのです。

そこで、父が口癖のように言っていた「空気以外何でも削ります」という言葉を弊社の信念として据え、チャレンジスピリッツを持つと共に新たな顧客の開拓をスタートさせました。この姿勢が少しずつ顧客に伝わり、今につながる新しい顧客とのつながりが生まれていったのです。

また、特定の取引先に依存しない売上を確保するために、自社製品づくりに挑戦し始めたのもこの頃です。

リーマン・ショックで一時は危機にひんしたものの、この経験がなければ、弊社のチャレンジングな姿勢は生まれなかったでしょう。

高い技術力という最大の武器を生かし、より一層の知名度アップを目指す

ーー貴社の事業内容をお聞かせください。

山添卓也:
弊社では、精密加工技術をベースにさまざまな金属部品の製造・加工を行っています。特に、半導体や自動車、冷熱・空調機器などの高い精度が求められる分野を得意としています。

また、四日市の伝統工芸「萬古焼」と精密加工技術を組み合わせた無水調理鍋「best pot(ベストポット)」や、精密加工の技術を活かしたチタン印鑑「SAMURA-IN(サムライン)」など、技術力を活用したユニークな自社製品にも取り組んでいます。

ーー貴社独自の強みと、自社製品の特徴についてお聞かせください。

山添卓也:
弊社の強みはなんといっても、高い精密加工技術にあります。弊社が取引する業界では、1ミクロン単位の精度が求められることもあり、厳しいオーダーに確実に応え続けることで、他社との差別化を実現しています。

また、旋盤、マシニング、研磨という全製造工程を社内で完結できることも大きな強みです。これにより、品質管理の精度を高めると共に、製造スピード向上とコスト削減が可能になり高品質な製品を迅速に提供できています。

さらに、自社製品を持っていることが、弊社の高い技術力を広くアピールするうえでの強みとなっています。一般消費者向けの商品は、通常は接点を持てない層にアプローチしていけるので、BtoBだけでは開拓できない、新たな販路を拡大できるチャンスへとつながります。

製造現場や営業部門のDXで、受注と納品の両側から会社の成長を加速

ーー製造現場でDXを活用されているそうですが、具体的な取り組みを教えてください。

山添卓也:
生産ラインでは、今まで定性的に管理していた機械の稼働率を、カメラから得たデータをもとに数字で可視化することに成功しました。これにより、誰もが正しい稼働率をチェックできるようになりました。

また、営業部門では、顧客のメール開封率やページ訪問履歴といった行動データ分析を行い、優先顧客に対するアプローチの強化に取り組んでいます。これにより、営業活動が効率化されただけでなく、会社全体の成長スピードも加速していると感じています。

論理的な成長戦略で「売上50億円」という大きな目標を目指す

ーー今後の目標や、目標達成のための注力テーマをお聞かせください。

山添卓也:
大きな目標として「売上50億円の達成」を掲げています。そのためにも、社内外のリソースの活用や機械稼働率の向上、DXのさらなる推進など、組織の体制強化をより一層進めていきます。

また、成長をスピードアップさせるために、営業担当者の育成や適正配置にも注力していきたいです。営業力を高めるために指導者を招くと共に、役割を限定した人材を配置することで、組織全体で効率的に契約を獲得できる体制を整えたいと考えています。

そして何より大切なことは、私が経営者として成長し続けることです。先輩経営者からいただいた「社長の器が会社の器になる」という教えを胸に、弊社を進化し続ける組織へと導けるように、一層の努力を重ねていく所存です。

編集後記

「空気以外何でも削る」という山添社長の言葉には、金属加工に携わる者としての覚悟と挑戦への熱意が宿っていると感じた。リーマン・ショックを転換点として始まった、自社製品の製造やDXなどの取り組みは、中村製作所のDNAをますます進化させていくに違いない。

山添卓也/1977年三重県生まれ 大阪産業大学工学部卒業。2000年に株式会社中村製作所に入社し、翌年2001年に先代社長の跡を継ぎ、24歳で社長に就任。2012年自社ブランドMOLATURAを立ち上げチタン製印鑑「SAMURA-IN」や萬古焼の「best pot」を開発。2023年からは一般顧客向けの施設として中村製作所オープンファクトリーや四日市ファクトリーカフェなども運営する。