地球資源の維持を目的とする「リサイクル」は、持続可能な社会を目指すSDGsにおいて「ど真ん中」に位置するとり組みといえる。
リサイクル業を営む株式会社山根商店の代表取締役社長・山根卓也氏は、SDGsが浸透してきた今こそ、次世代の礎になるリサイクルの習慣化を進めるべきであり、そのためにもリサイクル業を身近な存在にするべきだと語る。
そこで山根社長が目を付けたのがSNSによる情報発信だ。この記事では、リサイクル業における常識を覆し新たな「3K」実現を目指す、山根社長の挑戦を聞いた。
祖父から続く会社を引き継ぎ、価値観のアップデートにとり組む
ーー山根社長の経歴をお聞かせください。
山根卓也:
弊社は祖父が創業した会社で、父、私と3代にわたって続いています。私は子どものころから家業の存在を知ってはいましたが、事業の内容までは理解していませんでした。
就職をする際も弊社への入社は考えず、インターネットビジネスを学ぶために、株式会社サイネックスに就職しました。当時はインターネットビジネスが広まっていく時流だったので、最先端を学べる場に身を置きたかったのです。
しかし、サイネックスに入社してから数年後、祖父が体調を崩したため、弊社へ手伝いに戻ることになります。それがきっかけとなり、2005年には正式に入社。約16年間は社員として働き、2021年に父の跡を継いで社長に就任しました。
ーー社長就任後に、特に大変だったことは何ですか?
山根卓也:
属人化していた業務環境を変えるのが大変でした。今後進むであろう人材不足を懸念してジョブローテーション制度(※1)を導入し、休みやすい環境づくりを構築しようとしたのですが、長年勤めていた方には合わない部分があったようで、組織内のすり合わせに苦労しました。
しかし、会社の維持には避けて通れない道です。地道に信用を得て、徐々に新しい制度を根付かせていきました。
(※1)ジョブローテーション制度:1人の社員にさまざまな経験を積ませるため、定期的な配置転換を行う制度
鉄・金属類のリサイクルでストック量・処理量ともに高い水準を実現
ーー貴社の事業内容や独自の強みを教えてください。
山根卓也:
主な事業は鉄や金属類の回収と、加工による再資源化です。回収元は工場関係やビルの解体現場などです。家庭で不要になった調理器具や金属製家具なども回収しています。
リサイクルに持ち込まれる鉄や金属類はさまざまな形をしています。それを弊社の工場内で立方体にプレス加工で成形し、又、大きな物や長い物はシャーリング加工やガス切断などを行い、資源として使いやすい形で出荷します。
弊社の強みは、工場が市街地にありながら、5,000坪という一般的な広さの5〜10倍に相当する敷地面積を誇ること、そして月間1万5,000トンという他に類を見ない高い処理能力を有していることです。特に処理能力の面では、大規模である1,600トン油圧シャーを始めとした豊富な設備があり、さまざまな形で持ち込まれる鉄を再生利用可能なレベルまで丁寧に加工できます。
ーー事業に取り組むうえで特に注力していることは何ですか?
山根卓也:
SDGsへの積極的な取り組みと、SNSを中心とした情報発信の強化に力を入れています。
リサイクル業はSDGsの「ど真ん中」に位置する、皆さんの生活に欠かせない存在です。この事実を広く認知してもらえれば弊社のイメージアップにつながりますし、さらにはリサイクル業が担う意義についても理解してもらえるでしょう。
SDGsへの取り組みとしては、GTL燃料(※2)の導入や学生を対象とした工場見学の実施、ボクシング興業のスポンサーなどを行っており、SNSでの情報発信は、X(旧Twitter)、インスタグラム、TikTokでのコンテンツ投稿を行っています。
そしてゆくゆくはリサイクル業の新たな「3K」として「稼げる」「カッコイイ」「環境に良い」の「3K」を実現したいと考えています。リサイクル業には「社会的意義」と「働きがい」があると知ってもらい、より社会に開かれた存在になりたいですね。
(※2)GTL燃料:天然ガス由来の環境配慮型燃料
次世代をリサイクルが「あたり前」の社会にするために
ーー2030年へ向けての行動目標「ビジョン2030」について教えてください。
山根卓也:
「山根商店のVision2030」とは、次の世代の人々に社会課題を残さないように、会社の目標や課題、重点施策などをとりまとめたものです。代表的な施策として、新拠点の開設や新事業のスタート、処理量を2021年比で1.2倍にするという目標があります。
「山根商店のVision2030」は従業員のため、お客様のため、地域のため、そしてステークホルダーのために提供できる価値を具体化したものであり、山根商店の「会社としての思い」が込められています。
今後の社会にリサイクルが必要不可欠だからこそ、私たちが次世代へとつながる基礎を作らねばなりません。願わくば私たちがその源流となり、リサイクルがあたり前の社会が生まれてくれればと思います。
リサイクルは社会に生きる全員に関係があること
ーーこの記事の読者にメッセージをお願いします。
山根卓也:
今回お話したとおり、リサイクル業はSDGsへの貢献度や社会的意義が高いにも関わらず、認知度はまだまだです。弊社も3年間SNSに取り組んで、やっと少しずつ知られるようになってきました。
しかし、皆さんが知らないだけで、持ち込まれた鉄くずが、今あなたが手にしているスマートフォンに生まれ変わっている可能性だってあるわけです。もしかしたら、以前使っていたスマートフォンが姿を変えてあなたの手元に戻ってきている、なんて可能性もあり得ます。そう考えたら、リサイクルがとても尊く感じてきませんか?
地球の資源は有限です。資源の再利用を社会に根付かせるために、皆さんのご協力をお願いします。
編集後記
山根商店は2024年に75周年を迎える。つまり、SDGsやリサイクルという言葉が生まれるずっと前から、すでに取り組みを始めていたわけだ。その先駆者が今、次の時代を切り開こうとしている。新たなツール「SNS」を通じて、その思いはどんどん世に広まっていくだろう
山根卓也/1980年大阪府生まれ、大阪学院大学卒業。株式会社サイネックスの情報メディア事業部の営業部で、企業のホームページやコンテンツ制作・ネット広告などの業務を担当。2005年に株式会社山根商店に入社。2021年に代表取締役社長に就任(3代目)。前職の経験を活かして、ウェブサイトやSNSの企画・制作・運用などにも注力している。