※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

サクラ工業株式会社は、金属製品の製造を手がける企業である。特に得意とするのは排気マフラーで、長年にわたりその高い技術力で業界をリードしてきた。しかし、同社の取り組みはそれにとどまらず、近年はスポーツ用品などの他分野にも積極的に進出を果たしている。

多様化する市場のニーズに応えるため、サクラ工業はどのような視点から新たな取り組みを進めているのか。企業としての強みをいかに活用し、今後どのような展開を見据えているのか。代表取締役社長就任から1年を迎えた平野貴大氏に、同社の強みやビジョンについて詳しく話をうかがった。

父の背中を追い、修業を経てから会社を継ぐ

ーー社長になろうと思ったきっかけや、影響を受けた出来事は何ですか?

平野貴大:
私が子どものころ、弊社は海外に拠点を立ち上げ始めたばかりでした。会社を安定して運営するために、盛り上げるためにと懸命に取り組む先代社長である父の姿に対して憧れを抱きながら育ちました。そのため、高校生の頃から、将来的には会社を継ぐと心に決めていました。父の年齢を考えれば、時間は限られているという思いもあり、大学に進学する際も、会社を継ぐために必要なことを学びたいと考えていました。

ーーこれまでのキャリアについて教えていただけますか?

平野貴大:
2017年に大学を卒業後、弊社の顧客をよく知るべきだと考え、3年間を目処に修業のためヤマハ発動機株式会社へ入社しました。同社では生産管理業務を行っていましたが、父の体調が思わしくない時期があったため、3年目は弊社の取締役とヤマハ発動機への出向を掛け持ちしていました。

ちょうどその時期、弊社とヤマハ発動機との間で新たな協業活動が進行していたため、両社に席を置き、両社について学べたことは非常に有益でした。その後、インドネシアの拠点で製造現場を経験し、帰国後の2022年に代表取締役副社長に就任。そして、社内のことを改めて学び、2023年に代表取締役社長に就任しました。

設計から評価、自慢の表面処理技術まで一貫提供

ーーサクラ工業では、どのような製品やサービスを提供しているのですか?

平野貴大:
弊社は輸送機器の排気系コンポーネント、つまり排気マフラーを主に製造しています。ただし、排気マフラーに限らず弊社の技術と組み合わせ、高付加価値のコンポーネント製品を提供できるように提案しています。近年では、スポーツメーカーの依頼でゴルフクラブの製品に関わりました。「ナノ膜コーティング」という、弊社が特許使用権を持つ表面処理技術を活用しています。この技術は、透明な薄い膜を使って光の屈折をコントロールし、色がついて見えるようにするもので、もともとは金属の保護を目的としていましたが、従来にはない色も出せるように開発を進め、意匠性も高めました。

ーーサクラ工業の強みや特長について教えてください。

平野貴大:
弊社の強みは、一貫生産とグローバル展開です。現在、国内4拠点、海外5か国に展開しています。研究開発から、試作、設計、測定評価、製造、品質評価・保証まで、また自社ワンストップで生産を完結させていることで、顧客ニーズに更なる付加価値をつけて提案できることが強みと考えています。

ーー地域活動や社会貢献にも力を入れているとうかがいましたが、具体的にはどのような活動をしていますか?

平野貴大:
災害支援ネットワーク「浜松na-net」と共に活動しているため、災害支援や防災・減災イベントに参画しています。そこでの経験や多くの声から、必要なモノを製作してみたりして皆様に配布しております。具体的には、ナノ膜技術によってゴールドに装飾したチタンプレートに、名前・緊急連絡先をQRコード化して刻印したキーホルダー(迷子札)などです。

ちなみにチタンの色付けは、ナノ膜だけでなく、陽極酸化という電気を使った方法でも行っています。弊社はメッキ業から始まったため、現在も表面処理技術にも力を入れており、我々の技術力を使った地域貢献ができればと今後も考えていきたいです。

100年企業に向け、多様な分野で新たな挑戦を

ーー業界の変化に対応するため、新たな挑戦としてどのようなことを考えていますか?

平野貴大:
排気系部品は、内燃機関がEVに変化すれば使用されません。主力製品が逆風にさらされている中で、事業体系や売上・利益を守りつつ、どのように発展していくかが大きな課題です。まだ次の主力事業が確定しているわけではありませんが、現在、いくつかの新規プロジェクトや計画を進めています。また、既存事業や技術の深掘りと新しい事を「コラボ」する事で多様な分野での挑戦を続けていきたいと考えています。

ーーサクラ工業としての長期的な目標やビジョンをお聞かせください。

平野貴大:
弊社は、2024年で創業74年を迎えます。これから私のもとで100年企業へと導きたいですし、さらに成長し続ける企業にしたいと思っています。そのためにも、サクラ工業株式会社を支えてくれる社員やその家族に、安心・安全を提供できる企業を目指しています。

ーーどのような人材をチームに迎え入れたいと考えていますか?

平野貴大:
明るく、元気にチャレンジしてくれる人材です。チャレンジすれば失敗もするでしょう。しかし、失敗が人にとっても会社にとっても大きな財産になります。未来(100年企業)に向けてチャレンジ(社風)を一緒にしていきたいですね。

編集後記

「主力製品が逆風にさらされている」と冷静に分析する平野社長。これまでの実績や準備段階のものも踏まえ、まだ明らかにされない挑戦へのレールが多く敷かれていることからも、着実に未来を切り拓いていくことへの静かな情熱が感じられる。そしてその背後にあるのは、何事からも意欲的に学びとる意識と、会社をとり囲む多くの人への感謝の気持ちだ。インタビューの最中、「学んだ」「させていただいた」という言葉がとても多いのが印象的だった。サクラ工業株式会社が関わった製品に思いもかけないところで出会う、そんな未来の日が待ち遠しい。

平野貴大/1992年、静岡県生まれ。首都大学東京(現東京都立大学)卒業。2017年にヤマハ発動機株式会社に入社し、2年間の修業期間を経て2019年にサクラ工業株式会社へ入社。2021年にはインドネシア共和国へ出向。2023年に代表取締役社長に就任。