自動車、ガス機器、給湯器をはじめ、暮らしに欠かせないあらゆる場所で使用される「BRITEN TUBE」を、省エネ・安全性にもこだわり製造する株式会社岡島パイプ製作所。1年間に製造される「BRITEN TUBE」は、長さにして約12万km、地球の約3周分にもなる。
「We are everywhere」をモットーに世界へも目を向け新たな技術に挑戦し続ける同社代表取締役社長の岡島威彦氏に、会社の強みや目指す社員像などをうかがった。
海洋調査船の仕事に憧れながらも、家業を継ぐことを決意。その意外な接点とは?
ーー家業を継ぐまでの道のりはどのようなものでしたか?
岡島威彦:
大学では海洋学部で学び、海洋調査の仕事がしたいと思っていたので、卒業後は家業とは全く違った職種に就くことを目指していました。今でも海洋調査関連のニュースが流れていると、思わず見入ってしまいます。
大学時代に目指していた方向と異なる家業を引き継ぐことになりましたが、これまで学んだことは決して無駄ではありませんでした。例えば、工場で使用している自家発電設備のディーゼルエンジンは船舶用のものを活用していたり、船の上では潮風によるメンテナンスが大変ですが、鉄ではなくチタンを使えば解決するといった知識が役立つこともありました。
ーー家業を継ぐうえで、大変だったことは何でしょうか?
岡島威彦:
高校までは地元にいて、会社が忙しいときは仕事を手伝っていたこともありますし、1982年に入社してから2000年に社長に就任するまでの15年以上、現場の仕事をしてきたので、家業を継ぐことに対する苦労はあまり感じませんでした。
完全受注生産。お客様の課題のヒアリングから仕事が始まる
ーー貴社の魅力について教えていただけますか?
岡島威彦:
当初は1940年に創業し、汎用品も扱っていましたが、現在はお客様との打ち合わせで課題を明確にし、解決するための商品を一緒に作り上げています。そのため、100%受注生産です。
父から会社を継いで欲しいと相談があり岡島パイプ製作所に入社してからは、お客様の要望に沿った商品をつくるセクションを担当しました。そこで、お客様の考え方や要望と私たちの工場の技術を整理し、橋渡しをする中で、完全受注生産こそが弊社の強みだと感じました。
弊社のお客様は、北海道から大分県まで日本全国にいらっしゃいます。お客様の課題をヒアリングするために、古くからお付き合いのある方も含めて、必ず一度は訪問しています。営業部の社員はエリアごとに担当分けをしていますが、私は退職した社員の後任として担当することもあるため、日本全国を飛び回っています。もともと旅行が好きなこともあり、この営業体制は私に合っているようです。
ーーどのような仕事に一番やりがいを感じますか?
岡島威彦:
お客様と直接顔を合わせて話せる機会は貴重です。
例えば、農家から霜を防ぐために必要なビニールを固定するパイプを受注していますが、毎年同じ時期に農家を一軒一軒訪ね、「調子はどうですか?」「劣化していませんか?」と聞いて回ります。弊社の製品を大切にしてくださる方が多く、「今年はいらないよ」と言われることもありますが、それも含めて直接お顔を合わせられること自体が嬉しいです。
また、自動車メーカーに直接うかがうこともあります。日本国内には、自動車メーカーが8社、トラックメーカーが4社ありますが、全て弊社のお客様です。それぞれのメーカー様の課題をうかがい、弊社の商品を導入していただいています。お客様の課題に対して、一つでも多くお応えできるよう弊社でできることを提案することが、私のやりがいです。
お客様ファーストのスタイルを貫く社風
ーー新入社員でも最初から営業に配属されることがありますか?
岡島威彦:
本人の希望や思いを聞いて相談します。営業は、週5日のうち3日はお客様のところへ訪問し、残りの2日は社内業務やお客様からいただいた課題の社内調整、資料作成などを行います。先輩や上司も全国を飛び回っていることが多いので、もちろん相談はできますが、全てを自分事として捉え、自ら学べる人が向いているかもしれません。
弊社は創業以来、営業所を持たずに、本社から出張する方針を貫いてきました。それは、お客様と工場の間をできるだけ短く、狭く、リアルにつなぎたいからです。本社から営業社員が出張してお客様の元に通い、1日2日で必ず本社(生産現場)に戻ります。そのときにお考えや要望を社内で共有し、生産現場でも生の声を聞くことができます。どうすればお客様によりご満足いただけるのか、全社員一丸となって考えています。
弊社では、営業社員が一人でお客様のニーズや要望を聞きとり、自分たちのできることを応えていかなければなりません。最初はできなくても、いろいろな部署を経験して知識を備えられるようなマルチ社員が必要だと考えています。
社員の「マルチ化」を目指し、挑戦は続く
ーー今後の展望についてお聞かせください。
岡島威彦:
社員のマルチ化を進めていきます。特に、管理職として判断をしなければならない立場になったとき、さまざまな角度から、相手の立場を理解し迅速に判断できる管理職を一人でも多く育てていきたいです。
マルチ化が必要であることは弊社の歴史から学んだことでもあります。もともと、弊社は自転車の部品を扱っていましたが、時代の流れとともに家電メーカーとの取引も広がりました。しかし、1985年のプラザ合意後の円高により、家電メーカーの多くが東南アジアに工場を移転してしまい、国内家電メーカーの取引がほぼなくなってしまいました。現在では家電メーカーのみならず、自動車メーカーともお付き合いをさせていただいています。当時、マルチ化の視点で何ができるかを検討できたからこそ、新たな販路を見出すことができました。
今後も市場の変化が予測できないため、臨機応変な対応が求められます。そのときに、生産構造の知見を持ち、すぐに動けるマルチ化された人材が必要不可欠です。
編集後記
自動車の背もたれの上部にあるヘッドレストに岡島パイプ製作所のパイプが使われている。他にも自動車、ガス機器、給湯器など、さまざまな場所で利用されている同社のパイプは、実は身近なところで誰もがお世話になっている。
実際にお客様の課題に寄り添い、解決策を一緒に模索していく企業であり、また技術もある同社だからこそ、未来が予測しにくい世の中でも確実に飛躍していくのだと感じた。
岡島威彦/1959年、愛知県生まれ。東海大学海洋学部卒業後、1982年日鐵商事(現 日鉄物産)に入社。1985年岡島パイプ製作所に入社。2000年に同社代表取締役に就任。