※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

矢野経済研究所によると、国内理美容サロン市場の売上高は2020年コロナ禍で2兆円を割り込んだものの、2024年は2020年比106%の2兆920億円と予測されている。4年連続で増加を続け、今後も緩やかな成長が期待できる。

プロのエステシャンが2009年に設立したHISTORIC株式会社は、ビューティーサロンを対象に、自社ブランド商品の製造販売を手がけている。プロ向けにデザインや使い勝手の良さを追求した製品は、すべて社内で企画開発して完成させるという徹底ぶりだ。

扱うのは商品だけでなく、スタッフ教育や店舗運営など、幅広くサポートし、業界全体を盛り上げている。
2004年に小さなサロンから始め、今や美容総合企業へと成長させたのは、代表取締役社長の石原瞳氏だ。会社にとって販路開拓の変革期にある中、ものづくりや業界に対する思いを聞いた。

まつ毛エクステを研究し自ら220ページのバイブルを作成

ーー起業の経緯を教えてください。

石原瞳:
もともと美容に興味があり、初めてアルバイトで稼いだお金をすべて美容商品につぎ込むくらい大好きだったこともあり、19歳から美容の仕事を始めました。

まつ毛エクステを知れば知るほど熱中していき、毎日夢中で練習するようになりました。やがてスキルが上達するにしたがって自分でお店を持ちたいと思い、21歳のときにマンションの一室でサロンを開いたのが起業の最初です。

ーー起業してからはどのような取り組みをしましたか?

石原瞳:
私が企業した20年前は、他店にまつ毛をつけてもらうとひどい仕上がりで、全体的に技術が未成熟だった印象です。「どうすればもっときれいになるのか」をとことん突き詰めて研究していった結果、他店と差別化する自前の技術テキストをつくろうと思い立ちました。

眼科の先生に監修していただいて「ここでは筋肉の動きが必要」など、細かい技術もかみ砕いて理論化しました。医学的見地に基づき、装着方法などを工程ごとにまとめた結果、220ページに及ぶオリジナルの教科書ができあがり、施術のバイブルになりました。

ーー経営においてはどんなことを大切にしていますか?

石原瞳:
商品を手にとったとき、実際に使ってみたとき、お客様を感動させなければ売ることはできないでしょう。
ハイレベルな商品の提供はもちろん、差別化できる技術や知識を提供し、相手にもベネフィットを受け取っていただくのが私なりの商売の原則だと思っています。

黒子に徹しながら、しかし主役のような気持ちで努力してきたことが、お客様にも評価されたのではないでしょうか。

完全オリジナルのBtoC商品で販売チャネルを開拓

ーー貴社の強みを教えてください。

石原瞳:
弊社は仕入れをせずに、現在4000アイテムの商材すべてを自社で企画して製造しています。ゼロから開発して20年かけてつくった完全オリジナル商品であることが最大の強みです。

自分たちが考えてつくったものばかりなので、思い入れが強いだけでなく、クオリティにも自信があります。複数の特許を取得しているように、デザイン力や持続性といった点でも妥協することはありません。

またチーム力も自慢の1つです。私自身が技術者出身なので「こんなことができたらいいな」という現場のニーズに敏感であり、社員も共感してみんなで研究・開発していけるのは、経営者冥利につきます。

ーー最近は一般消費者にも販売を始めていますね。

石原瞳:
2024年7月にBtoC向けのネイルとまつ毛を発売した背景にあるのは、業界特有の消費傾向でした。サロンで美容商品を買い求める人は、ユーザー全体のわずか1.5%といわれています。プロの業界でブランドがどれだけ有名になっても、あとの98.5%の人には認知されていないのが現状です。

プロ向けと住み分けするために開発したBtoC商材も、一般ユーザーの方に高いクオリティを認めていただけるという確信があります。大きな市場に切り込んでいくために、今後は販売チャネルをドラッグストアや百貨店などに拡大していく方針です。

グローバル市場への拡販とオリジナルブランドの結集

ーー直近の販路開拓に関する方針をお聞かせください。

石原瞳:
現在は国内のチャネル開拓だけでなく、海外に向けての販売を本格的にスタートしています。エリアはアジア全域で台湾、中国のほか東南アジアはシンガポール、インドネシア、ベトナム、タイといった国々。そのほか中東ではUAEのドバイとアブダビでも順調に契約を進めています。

サロンに通う人は全体の6%といわれ、この割合は何年も変わらず、全世界的なものとされています。美を求めるのは古今東西共通のニーズです。残り94%のユーザーに向けて私たちの商品をお届けするために、海外ではサロン出店も視野に入れて本格的に注力していく方針です。

ーー今後の経営ビジョンを教えてください。

石原瞳:
将来的に全体で売上100億円を目指していますが、短期では5年で50億円の事業計画を作成しています。

そのための1つのプランとして、これまでのブランドを集大成したビューティーライフブランドを新たに創作しています。これは今まで開発した商品の良さを集結させ、BtoCを意識して育てていくための企画です。

本社のサロン以外に、プロ向けのコンセプトサロンを東京にもオープンする計画や、ネイルサロン出店など新規事業など、豊富なビジョンを現実化していきます。

編集後記

石原社長は「従来は取りたい時に1回で取れるネイルはありそうでなかったものです。私たちはそんなお客様のニーズに応える企画力と技術力があります」と、新しく開発した製品についてコメントした。

「クオリティにもかなりこだわりがある」と自ら語るように、ブランド力向上のために、さらに商品に磨きをかけ、美を求める世界中の人々に発信しようとしている。そこには熱いクラフトマンシップと、冷静な経営の未来設計が感じられた。

石原瞳/2004年、マンションの1室でまつ毛エクステサロンをオープンし、トップ技術者として活躍。以降店舗展開、新技術・新商材の開発、テキスト製作、アカデミー開講とまつエク業界をけん引。2009年には株式会社LASH DOLL JAPANを設立。アイラッシュブランド「Miss eye dʼor」に始まり、サロンユニフォーム「MY FORME」、サロン用ファニチュアシリーズ「GANA」、ネイル「oui NAILS」、スキンケア「TO」などさまざまなブランドを立ち上げ、2023年にグローバルな総合美容企業としてHISTORIC株式会社に社名変更。