※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

愛知県内で15店舗の薬局チェーンを展開する愛知調剤株式会社。オーナー企業であった事業を継承した林雅人氏は、「地域ナンバーワン薬局」を掲げ、独自の経営手法で業界に一石を投じている。徹底的な「見える化」による働き方改革や、地域密着型の経営方針は、社員の満足度向上と患者サービスの充実を両立させている。

さらに、在宅医療や終末期ケアにも注力し、地域医療の要として存在感を高めている。薬剤師でもある代表取締役社長の林氏に、同社の取り組みと今後の展望についてうかがった。

建築士の父から薬剤師の息子へ、新たな経営の船出

ーー入社される前は、どのようなキャリアを歩んでいたのでしょうか?

林雅人:
高校時代は勉学から目を背けて、ラグビーに打ち込んでおりました。やりたいこともはっきりとせず、漠然と手に職が無ければ選択肢は先細りしていくと感じておりました。卒業時に、父から「お前のために薬局を作る」と言われましたが、今思えば誘導だったのかもしれません(笑)

しかし、客商売が好きな私にとっては良いきっかけでした。薬剤師の道を志して横浜薬科大学へ進学しました。大学卒業後は製薬メーカーでの勤務を経て、循環器系の病院で2年間薬剤師として専門的なスキルを磨き、2017年に愛知調剤に入社しました。

ーー2代目として家業を継がれた経緯についてお聞かせください。

林雅人:
前述の通り、弊社は私の父が創業した会社です。継承してから7、8年ほど経ちますが、もともと父は建築業の東海企画設計という会社を経営していました。不動産賃貸事業もしており、クリニックや歯科医院の建物も所有しています。

薬局は株式会社の形態で経営できるため、最初の頃は良きに計らえの精神で、建築士である父は現場にノータッチで運営を任せておりました。しかし、法整備のない状態であった現場がうまくいくわけもなく、崩壊状態で問題が山積みでした。私が家業を早々に事業継承をし、プレイングマネージャーとして現場に入ることで薬局部門を切り離して独立採算事業へと舵を取りました。

徹底した見える化で実現する働きやすい環境

ーー貴社の事業内容について教えてください。

林雅人:
弊社の主な事業は、愛知県内での調剤薬局の運営です。地域密着型の薬局を15店舗展開し、地域の方々の健康をサポートしています。処方箋に基づいて薬を調剤し、患者さまに提供するのが基本的な業務ですが、県内には4000を超える薬局が存在する中で、特に私たちは、「客商売」として患者さまと向き合う姿勢に力を入れ、選ばれる薬局であり続けることを目指しています。

残念ながら医薬分業と言いつつも、薬局に医療の主導権は全くと言っていいほどありません。病院や施設ではなく、自宅で療養する患者さんのために、訪問薬剤管理指導も実施しており、終末期の患者さんへのケアも含め、地域の在宅医療を薬剤師の立場から支える取り組みを進めています。

ーー社長就任後、特に力を入れた取り組みは何でしょうか?

林雅人:
最も大きな取り組みは、徹底的な「見える化」を進めたことです。俸給表や就業規則といった情報をオープンにし、極力全ての情報をオンラインで共有するようにしました。各店舗の実績や、スタッフの優れた取り組みなども、全社で共有しています。私自身、経営者でありながら週40時間、現場での勤務を行っています。まずは自分も現場に立ち、地域ナンバーワンを実現できなければ、皆さんに説得力が示せないと痛感しております。

最大の魅力は「決算賞与」があることです。必死な努力で積み上げた利益は社員の功績であり、期内に社員に還元する。これを欠かさず行なってきました。利益が出ても会社に残せば法人税が上がるだけです。店舗の立地、門前クリニックの事業形態でも、実現可能なナンバーワンの形が違います。

各店舗の特性を考慮した上で、週40時間でいかにベストパフォーマンスを発揮できるかが鍵となります。一人当たりの利益や売上を分析して、公平な評価ができるよう工夫し、年2回の個人面談をリーダーで手分けをして行い、意見の吸い上げと軌道修正を行なっております。

チームワークの力で実現する、地域に愛される薬局づくり

ーーどのような人材を求めていますか?

林雅人:
採用において最も重視しているのは、一緒に働く仲間を尊重し、思いやりを持てる「いい人」であることです。弊社は「いい社員」が集まることで、いいチームワークが生まれ、結果的に患者さまやスタッフが集まるようになってきます。

私自身が薬剤師としての社会的責務を楽しいと感じる、「Enjoy Pharmacy Life 」が私のモットーです。単に薬を正確に早く出すだけではなく、患者さんにとって、困ったときに助けてくれる、自分のことをよく知ってくれている、そんな薬剤師になれるかどうかが重要なのです。相手を大切にし、信頼関係を築ける「いい人」が来てくれたら嬉しいですね。

ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。

林雅人:
まずは、一つひとつの薬局を「地域ナンバーワン」にしていくことです。私が考える「地域ナンバーワン」とは、売上や利益率が高いということではなく、近隣の方に「薬局といえば愛知調剤だよね」と認識してもらえる存在のことです。

そのために、患者の皆さんに対して「私たちのかかりつけ患者さん」という意識で接しています。患者さんをよく理解し、前回の薬の内容を覚えていたり、お子さんの体調まで気遣うことができる。また、薬局に来ることができない人向けに在宅医療を提供するなど、そんな関係性を築くことが、「地域ナンバーワン」の条件だと考えています。

全員が最大限にパフォーマンスを発揮できる意識改革ができれば保険薬局の地位向上は、必ず達成できるでしょう。今後も社内の「見える化」を進め、各人が良し悪しを分析し、軌道修正ができるようになることが目標です。これからも全社一丸となって、地域に根差した薬局となるべくまい進していきます。

編集後記

経営者になっても、薬剤師として現場に立ち続け、社員とともに成長し続ける、その姿勢に感銘を受けた。技術や知識以上に、人間力を重視する。患者一人ひとりを大切にする価値観が同社の成長を支え、地域住民の信頼を得ているのだろう。在宅医療や訪問薬剤管理指導などは、今後ますます必要とされる分野だ。そこではまさに、人と人とのつながりを大切にする薬剤師の存在が重要になってくるはずだ。

林雅人/1989年愛知県生まれ、横浜薬科大学卒業。都内の循環器病院に入社し、2年の修業期間を経て2017年に愛知調剤株式会社に入社。同年に家業を継ぎ、代表取締役社長に就任。