※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

大阪で1960年から営業する金属メッキ会社、株式会社コダマは、大阪府の「大阪ものづくり優良企業賞2024」など数々の賞に輝く、卓越した技術力を誇る企業だ。この技術力は、どのようにして培われたのか。さらに、同社は健康経営優良法人の認定をはじめ、働き方に関するさまざまな称号も取得しているが、経営理念にはどのような思いが込められているのか、同社代表取締役の児玉益子氏にお話をうかがった。

町工場から理念経営への大改革

ーー貴社に入った経緯やその後の取り組みについて教えてください。

児玉益子:
弊社は私の家族が経営する小さな会社で、子どもの頃は従業員も10人ほどでした。学校から帰ると手伝いをしてから遊びに行く日々を過ごしていました。同級生が大学に進学する中、私は、経営が厳しくなっていた家業を支える道に進む決断をしたのです。

最初の仕事は営業活動と生産現場の半々でした。当時、メッキ業界では営業活動をしている会社自体が珍しく、しかも私のように18歳の女性が飛び込み営業をする姿は珍しかったと思います。その中で、営業先の企業から、初めての加工を自社に任せてもらえることになりました。

試行錯誤しながらも、成功したことで大変喜んでいただきました。弊社としても新たな技術と売り上げの基盤を築くことができたと思います。この経験をもとに、弊社はお客様のご要望に沿いながら少しずつ大きくなってきたのです。

ーー社長に就任してから、どのような取り組みをしてきましたか?

児玉益子:
2009年、経営陣が代替わりすることが決まりました。交代前に何日も話し合い、それまでの「家族的、町工場的な経営」から、「理念に基づく経営」へ転換することを決意したのです。その理念とは「人を大切にすること」と「高付加価値の仕事に挑む」ことです。理念に共感してくれる新卒社員を迎え、機械化が難しく、海外では製作できない高い技術を有する技術者として育成していきます。

また、社員のためにも物心両面で成長し、個人としての幸せを目指せる環境づくりに務めます。会社は幸せをつかむための一手段でありたいと考えているからです。こうして2010年、私と現専務、現工場長の3人「きょうだい」で経営を引き継ぎ、父は会長に退きました。

技術力の根底にある"人の力"が生む成長

ーー新たな体制の成果として、どのようなことがありましたか?

児玉益子:
2010年に新卒の第1期で入社した5名の社員は、今では全員が工場のライン責任者になっています。ほかの社員たちも、社内研修を通じて仕事に誇りを持ち、お客様の反応に喜びや課題を感じられるようになりました。会社の成長に主体的に取り組む社員が増え、私も嬉しく思っています。

また、新たな事業機会の獲得に向け、2001年当時、業界に先駆けて開設したホームページのおかげで、お客様が大阪だけでなく近畿圏全体に広がりました。独学でホームページを構築してくれた弟は、今は専務として、専任でホームページや顧客開拓の戦略を担っています。

集客のほとんどをホームページ経由で、専務と営業担当1名で対応してきましたが、ようやく2024年度から1名追加し、体制強化を図っています。この努力が実を結び、現在では売り上げ規模10億円、取引先1000社超、従業員数50名を超える規模に成長できました。

ーー貴社の強みについてお聞かせください。

児玉益子:
経営陣が一丸となっていることが、弊社の強みです。上層部の良好な関係は、社内にポジティブな影響を与えます。誰しも仲間や尊敬する人の言葉であれば、良いことも悪いことも、素直に耳を傾けやすいでしょう。

弊社は良い雰囲気を伝染させること、新しい仲間を喜んで迎え入れることに心を砕いているので、工場のラインごとのチームワークの力は非常に高いのです。私も、工場長も、ラインの責任者も、そして海外からの実習生でも、喜びや悩みを共有できる一体感のある社風を今後も大切にしたいと考えています。

技術面での強みもたくさんあると自負していますが、その根底にあるのはやはり人の力です。成し遂げたい思いを持ち、挑戦する意欲があれば、新たな技術開発や学びを通じて成長し続けられるのです。だからこそ、弊社の強みは一つひとつの技術ではなく、人そのものなのです。

「メッキが大好き」情熱と技術が融合する未来

ーー今後の注力テーマは何ですか?

児玉益子:
中間管理職の育成に注力したいと考えています。代替わり前はトップダウンで、上層部以外の社員はフラットな「文鎮型」組織でしたが、私たちきょうだい3人の取り組みにより、少しずつピラミッド型の組織へと変わってきています。そのピラミッドの中でも、経験を土台にして人材や設備を管理できる層を厚くすることで、より強固な組織を目指しています。

技術面では、自動化が難しい技術は守りつつも、DXを進める方針です。2年前に設立した新工場ではすでに導入済みであるため、その流れを全社に拡大していきたいと思います。自動化と職人技をより明確に区別し、人と機械の複合体制で生産性の向上を図りたいですね。

ーー従業員が10人だった会社をここまで成長させた原動力は何だとお考えですか?

児玉益子:
入社当初は、両親が苦労して支えてきた会社を、そして子どもの頃から関わってきた「従業員さん」たちの職場を、絶対に守るという強い決意で臨んでいました。その思いは今も変わりませんが、メッキ業に関われば関わるほど、その技術の奥深さと魅力を実感するようになりました。

3Kと言われることもある厳しい業界ですが、今では心からメッキが好きです。メッキ事業者の娘に生まれて良かったと思っています。また、きょうだいで力を合わせて取り組んできたことも、大きな支えでした。2人の弟がいなければ、今の弊社はなかったと思います。

編集後記

はつらつとした児玉益子社長のお話に耳を傾けているだけで、その明るさが伝染し、自然と前向きな気持ちになってくる。「経営者層の雰囲気が伝染する」とは、まさにこのことだと実感した。株式会社コダマが人の力でさらなる技術革新を遂げ、日本のものづくり業界の新たなモデルとなることを期待したい。

児玉益子/1972年大阪府生まれ。1990年、株式会社コダマ入社。生産現場、営業、総務、人事などの多様な業務を経験。入社20年目、2010年に代表取締役社長に就任。