※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

礎電線株式会社は、家電製品や機械、自動車などに使われるエナメル線(電線)を製造販売している企業であり、まもなく100周年を迎える。2014年に先代から経営を引き継ぎ、4代目の代表取締役社長に就任した田中友則氏に、同社の強みやこれまでの苦労話、そして、今後の展望を聞いた。

中小企業ならではのフットワークの軽さで、市場のニーズにきめ細かく対応

ーーまずは貴社の事業内容について教えてください。

田中友則:
私どもは電化製品や機械に使われる電線を製造販売しています。電線というと電柱に張り巡らされたものや、LANケーブルのようなものを思い浮かべられるかもしれませんが、弊社が手掛けているのは、コイルやモーターに使われる電線の製造です。

皆さんが日常生活で目にされる機会は少ないと思いますが、テレビや洗濯機、冷蔵庫、エアコン、スマホ、自動車などにも使われています。日頃からよく使うこれらの製品に欠かせない部品です。

ーー貴社の強みについて教えていただけますか?

田中友則:
弊社はエナメル線製造メーカーとしては、非常に規模が小さい会社です。家電製品などの量産品向けの電線は大手には敵いませんが、「特殊、複雑、少量」といった大手が対応しきれないニーズにきめ細かく対応できるのが強みです。実際に弊社では銅だけでなく、アルミやステンレス、純銀など幅広い材質を取り扱っており、1kg以下という少量や、規格外サイズにも対応しています。

このように、弊社でしか対応できない領域であれば価格決定権を持てるので、価格競争に巻き込まれることはありません。また、弊社は常に製品をつくれる環境が整っており、工場が24時間稼働しています。そのため、生産性が高いのも強みです。

価格競争からの脱却とネットでの販路拡大で危機を乗り越える

ーー社長に就任されるまでの経緯をお教えください。

田中友則:
弊社の3代目社長だった父の頃は東京都葛飾区に工場があり、1978年に現在の場所に移転しました。小さいときにはよく工場に遊びに行くなど、私にとってなじみ深い場所でしたが、会社を継ぐのは兄だと思っていたのです。

しかし、私が大学生の頃に兄が交通事故で他界したことで考えが変わり、「会社を継ぐのは私しかいない」と思うようになりました。大学卒業後に別の会社に就職しましたが、26歳のときに営業担当として礎電線に入社しました。

ーー入社された当時、会社はどのような状況でしたか?

田中友則:
業績が悪化した時期でした。2000年代前半が最も厳しかったと思います。テレビがブラウン管から液晶に切り替わったり、弊社で製造した電線が消費される市場も、すでに韓国やメキシコなどにシフトしていたのですが、その後台湾、マレーシア、最後は中国に移行していきました。私もこれらの海外メーカーに訪問する機会も多かったですが、訪問するたびに値下げ要求をされて、限界を感じていましたね。

ーーどうやって危機を乗り越えたのですか?

田中友則:
価格競争から脱するために、商品の付加価値を上げる方向性を模索しました。弊社の製品構成を見直したことが、現在の小ロット多品種生産体制につながっています。

また、会社のホームページを自分で作成し、販路拡大を目指しました。ホームページからの問い合わせに対して、製品の提案から納品、環境関連の書類の作成、提出なども、数年の間は全て私一人で対応しました。こうした努力の甲斐あって、電線の開発から任せていただけるようになり、次第に仕事も増えていきましたね。

幸福になれる会社を100年、125年、150年永続させるために

ーー社長に就任されてから、どのような思いで経営をされていますか?

田中友則:
経営理念の「全従業員の幸福を追求するとともに、地域社会、日本の発展に貢献する」に尽きますね。「何が幸福か」ということは、人それぞれ異なりますが、働いている方が少しでも幸せに思えるように、より付加価値の高い製品をつくれる体制を構築し、毎年賃金を引き上げています。

あとは、自分が先代からバトンを引き継いだので、それをどのように次の世代に渡していくのかを考え中です。事業を100年以上存続させるために何をすべきか、どうしたら次世代に迷惑をかけないかということを常に考えています。

ーー今後、田中社長はどのようなことに力を入れていきたいですか?

田中友則:
弊社は定着率が高く、優秀な方が長く働いてくださっていますが、10年先、20年先を見据えると、私たちが若い世代に技術を確実に伝承しなくてはなりません。そのためにも、生産工場の体制を強化したいです。

ーーどのような人材に来てほしいと考えられていますか?

田中友則:
弊社は小ロット多品種生産ということもあって、同じような仕事が続くことはあまりありません。そのため、自分の頭で考えられる方、創意工夫ができる方が多いですね。あとはチームで一つの製品をつくっていくので、職場でのチームワークを非常に大切にしています。

したがって、ものづくりに興味があり、最低限のコミュニケーション能力を備え、自分で考えて行動できる方であれば、きっと活躍していただけると思います。

二十数年前に私が入社したころ、100周年を迎えることは難しいと思っていました。しかし、時代の流れに適応することで、ここまで存続できました。未来を一緒に見据えて邁進していただける方と、100年という節目を迎えたいです。

編集後記

時代の流れに翻弄されながらも、大手にはない自社の「強み」を最大限に活かし、業界内で独自のポジションを確立した礎電線株式会社。競争の激しい電線業界の中で、ニッチな市場にフォーカスした戦略が功を奏し、まもなく100周年という節目を迎えようとしている。次世代への技術継承や人材育成に注力しつつ、どのように新しい挑戦を続けるのか、これからの動向に注目が集まるだろう。

田中友則/1971年東京都生まれ。日本大学法学部経営法学科を卒業後、一般企業を経て1997年礎電線株式会社に入社。2014年に同社代表取締役社長に就任。「全従業員の幸福を追求するとともに、地域社会、日本の発展に貢献する。」を経営理念とし、従業員にやさしく、100年、125年、150年と存続する会社を目指している。