配管用の工具や機械、環境機器の製造販売で国内トップシェアのレッキス工業株式会社。同社は2025年に創業100年を迎える老舗の会社で、海外にも子会社や販売拠点を持ち、積極的にグローバル展開を進めている。
現在は、主力の配管工具だけでなく、馬のリハビリテーション・セラピー製品、競走馬トレーニング用馬場砂製造のほか、陸上養殖のための高効率酸素溶解装置の開発など、幅広い分野の事業に挑戦している。代表取締役社長の宮川一彦氏に、詳しい話を聞いた。
プレッシャーの中、コロナ禍で社長就任
ーー貴社の事業内容や社長就任時のことを教えてください。
宮川一彦:
弊社は水道やガス、電気に使用するための配管の切断・加工・検査などを行うための工具を製造販売する会社です。エンドユーザーは、水道工事やガス工事に携わる工事会社です。
父が4代目の社長にあたるため、幼い頃から自分も社長になるのだと思っていました。ただ、社長の重責を理解していなかったため、実際に就任が近づくにつれて焦りはじめました。このまま社長になるのはまずいと思い、就任前には経営塾に通ったり、周りの経営者の話を聞いたりしましたね。
ーー社長就任後、印象に残るエピソードはございましたか?
宮川一彦:
私が社長に就任したのはコロナ禍の最中でした。私たちが製造しているのはインフラ整備に欠かせない工具製品なので、社内でコロナのクラスターが発生すれば操業を止めなければいけません。そのため、いかに社員が毎日健康に仕事できる環境を整えるかを考える必要がありました。
また、コロナ禍前はBBQなどの社内イベントを積極的に行っていましたが、それもできなくなりました。その代わりに人間学を学ぶ雑誌『致知』を社員たちに読んでもらい、その感想を話し合う会を2か月に1度開催するようにしました。この会は、今でも継続しています。
成長著しいインドでシェア1位を目指す
ーー貴社の強みを教えてください。
宮川一彦:
弊社は配管工具で国内シェアの7割を占める会社ですが、この本業で培った技術があるからこそ、ほかの事業を行うことができています。たとえば馬リハビリテーション・セラピー製品と競走馬トレーニング用馬場砂の開発、製造などを行っていますが、この事業は乗馬クラブのオーナーや調教師が顧客で、彼らの管理する馬の健康状態を良くすることを目的としています。
ーーグローバル展開に関してはどのようにお考えですか。
宮川一彦:
配管事業の子会社がアメリカのオハイオ州にあり、中国の蘇州は製造拠点、タイのバンコクとインドのバンガロールにも販売拠点があります。インドの拠点は最近10周年を迎えました。
ご存じの通り、インドは急成長している国です。そのため今後は市場をしっかりと捉えながら、インドでシェアナンバー1になりたいと考えています。その後は、アフリカなどほかの地域へも事業を拡大していきたいと考えています。
ーー海外展開をするうえで難しいと感じる点を教えてください。
宮川一彦:
国によってそれぞれ規格があるので、日本で販売しているような高品質で高価格なものが普及しにくいというのは事実としてあります。ただ、コピー品が出回るのは良くないので、特許をとるなど要所を押さえながら事業を展開しています。
弊社には海外子会社をとりまとめる部門もありますし、海外で働きたいと思っている人材はどんどん弊社に来てほしいですね。
大きな可能性を秘めた水産事業への挑戦
ーー今後の展望について聞かせていただけますか。
宮川一彦:
私たちの主戦場である配管工具業界は、市場がほとんど成熟していて飽和状態にあります。そこで、陸上養殖事業に可能性を見出しました。
リーマンショックで売り上げが大きく落ちていた頃、水槽内の魚に酸素を送るための水車をつくってほしいという依頼がありました。この水車づくりは最初失敗し、どうしたら効率よく水中に酸素を溶かすことができるのか試行錯誤した結果、現在の高効率酸素溶解装置「O2 max」が誕生しました。
この業界はまだアナログで、職人の感覚で魚を育てているので、それをIoTの力で見える化する弊社の水質管理システムには可能性があります。弊社がパイオニアとなり、どんどん強みにしていきたいですね。
今後はモノ作りを通して廃校を利用した養殖事業から、雇用の創生など、社会問題の解決にも貢献していきたいと思っています。
チャンスを活かして積極的に挑戦してほしい
ーー評価制度についてもお聞かせください。
宮川一彦:
今までの人事評価制度は評価項目が多かったので、それを減らしてよりシンプルなものにしました。私からは社員たちに目指してほしい姿を明確化し、学ぶ機会も提供しています。社員たちには自分の成長を感じながら仕事をしてほしいと思っています。人事評価をリニューアルしたのは、こういった思いからです。
ーー最後に若手へのメッセージをお願いします。
宮川一彦:
自分が挑戦してみたいと思ったことには、積極的に挑戦したほうがいいと思います。昨今は便利なツールがいろいろと登場して、そういった手段を活用しながら若手が挑戦できる場が増えています。チャンスはいくらでもあるので、とにかく行動して、チャンスを活かしてほしいですね。
編集後記
配管工具業界のトップ企業として走り続けながらも、多様な事業を展開するレッキス工業。水産事業である陸上養殖のための製品や技術を、大阪万博にも出展する予定とのこと。
新事業やグローバル展開など攻めの姿勢をとり続ける同社なら、変化の激しい時代の中でも、変わらず活躍し続けるだろうと感じた。
宮川一彦/1971年大阪府生まれ。芦屋大学教育学部卒業後、レッキス工業株式会社に入社。開発部、製造本部担当副社長を経て2020年に社長に就任。