
シーサイドエリアが賑わう神戸市には、明治時代から港を快適かつ安全に保ってきた100年企業、早駒運輸株式会社がある。5代目にあたる代表取締役社長の渡辺真二氏は、代々続く快適さと安全性の責務を果たしつつ、神戸の街を港から元気にしていくことにも意欲的だ。
神戸で育ち、神戸を愛する渡辺社長がどのような想いで事業に取り組んでいるのかを聞いた。
明治時代から神戸の街とともに歩んできた会社を受け継ぐ5代目社長
ーー渡辺社長の経歴をお聞かせください。
渡辺真二:
早駒運輸は1885年に曽祖父の渡辺四郎吉が創業した会社で、約140年にわたり、神戸港の隆盛とともに過ごしてきました。私は5代目にあたり、幼いころから先輩社員と関わりながら過ごしていました。
私が弊社に入社したのは1990年のことです。大学卒業後に約1年間他社で修業を積んだのちに入社し、それから半年で取締役に就任しました。そして、2005年に父の跡を継いで代表取締役に就任しました。
当時は年上の部下の方々ばかりで、子どもの頃に「おっちゃん」と呼んでいた人が部下になった違和感を今でも覚えています。仕事のノウハウは当然彼らの方が身についていたため、その中でどう実力を発揮していくか毎日悩んでいましたよ。
ーー貴社の事業内容を教えてください。
渡辺真二:
神戸港における繋離(けいり)船業(※1)や引船業(※2)、旅客船業、警戒船業(※3)といった港湾サービスを行っています。
弊社は繋離船業から始まり、時代のニーズに対応しながら今日まで継続・発展してきました。たとえば父の代でスタートした引船業は当時多くの役員に反対されましたが、今では売上の大部分を担うまでに成長しています。今の弊社があるのは、あのとき父が将来を見据えた決断をしたからなのです。
私もこの考えは継続すべきだという考えで、2010年ごろから観光船やウォーターフロント開発といった、インバウンドを含めた観光客向けの事業に挑戦しています。
それと同時に「神戸の元気はミナトから」をテーマに、港を経済的・文化的に充実させる事業にもとり組んでいます。
事業の例としては、神戸の港をより身近に感じ、慣れ親しんでいただきたい。そんな想いから、マリンルックのオリジナルグッズを展開や、KOBE RESORT CRUISE「boh boh KOBE」号の運航の他、世界的指揮者の佐渡裕監督が最も愛するオーケストラ、スーパーキッズ・オーケストラのOB・OGで編成される弦楽オーケストラ「スーパーストリングスコーベ」の運営や、女子ラグビーチーム「神戸ファストジャイロ」の運営サポートなどがあります。
弊社は神戸港のおかげで在り続けてこられた企業です。多くの方に神戸の知られざる魅力を伝えることを使命とし、これからもともに成長できるように挑戦的な取り組みを続けていきます。
(※1)繋離船業:船の入出港時に、係留用のロープをかけるまたは外す業務。
(※2)引船業:大型船が入出港する際にタグボートという専用の船で離着岸を補助する事業。
(※3)警戒船業:船が安全に航行できるように専用のボートでエスコートする業務。
新規事業の責任者として苦労した経験が自信に繋がる

ーー渡辺社長にとってターニングポイントになったエピソードを教えてください。
渡辺真二:
入社から数年が経過したときに、新規事業である神戸シーバス(旅客船業)の責任者を任されたことです。事業の立ち上げから運営が安定化するまで、企画・計画から現場管理までを総合的に受け持ちました。
この事業は弊社にとって初めてのtoC事業だったので、それまでとは違い、一般のお客様への理解が求められました。そのノウハウを持った人材がおらず苦労しましたが、むしろ私にとっては自分の能力を発揮する良い機会になりました。
私はこの事業に全力で取り組み、無事事業を安定させることに成功。この経験が自信につながり、ひいては社内における自分の立ち位置にも自信を持てるようになりました。
神戸から世界に誇れる「早駒人」を生み出すために
ーーどのような考えのもとに人材育成を行っていますか?
渡辺真二:
「港湾の早駒から神戸の早駒へ、そして兵庫の早駒へ」という企業理念を胸に抱き、世界に誇れる感動産業を実現する「早駒人」を生み出す社員教育に取り組んでいます。
そのために、入社から1週間は私がしっかり社員教育を行い、早駒人の基本的な心得を伝えています。
また、私の座右の銘である「出過ぎた杭は打たれない」という考えも大切にしています。打たれることを気にして行動を制限するよりも、自分にできることを粛々と進めて、打たれないレベルまで成長を目指した方が、意外とスムーズにことは進むものなのです。
「本当の価値」を自ら追い求める人材であれ
ーー今後はどのような方に入社してもらいたいと考えていますか?
渡辺真二:
事業の多角化に伴い多様な人材が必要になってきています。さまざまな環境を用意しているので、皆さんの多彩な能力をぜひ弊社で活かしてください。
皆さんに持っていてほしい要素は「自分と向き合える気質」と「責任を遂行できる気質」の2つです。これらを併せ持っている方であれば自然とお客様の気持ちを考えられますし、人として成長するための意欲や向上心も十分に備わっているはずです。
仕事で大切なことは「本当の価値」を持ってお客様の心に感動を届けることだと思います。売上や他社との勝ち負けに目を奪われずに本質に目を向け続けられれば、弊社はお客様にとって忘れられない存在になることでしょう。この考えに共感いただける方は、ぜひ私たちとともに感動を世の中へ広めていきましょう。
編集後記
神戸という魅力あふれる街は、渡辺社長のような地元愛を持った人々が支えてきたからこそ多くの人が集い、新たな魅力が生まれ続けるのだろう。渡辺社長の数々の挑戦は新たな世代へのバトンとなり、今後も神戸の歴史を紡いでいくに違いない。

渡辺真二/1966年、神戸生まれ。神戸育ち。甲南大学経営学部卒業後、1990年に早駒運輸株式会社に入社。2005年より代表取締役社長に就任。