※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

段ボール製造機械の開発・設計・製造・販売・メンテナンスを行う株式会社ISOWA。2024年には、機械を購入したお客様への計画的保守サービスなどが評価され、一橋ビジネススクールから優れた戦略を持つ会社に贈られる「ポーター賞」を受賞した。2001年の代表取締役就任後、社員が自ら考え、行動できる組織にするために風土改革を行ってきた磯輪英之氏に、取り組みにおける考え方や注力テーマについて聞いた。

会社説明会で企業理念を伝えるために家族写真を見せる

ーー入社当時のエピソードをお聞かせください。

磯輪英之:
弊社は祖父が創業した会社であり、子どもの頃から「自分もいつか社長になるのだろう」と思いながら育ち、大学卒業後は「5年後に家業に入る」という約束で商社に入社しました。商社では機械関連の営業を経験し、5年が過ぎた時に約束通り家業に入ったものの、社長の息子である私への風当たりは強く、思うように社員との関係を築くことができませんでした。

そんな状況を打開するため、組織の活性化を目的にQCサークル活動を導入しました。QCサークル活動とは、社員が品質管理や品質改善に向けて意見を出し合い、実際に行動に移す活動です。最初はなかなかうまくいかず社員の反応も良くありませんでした。

しかし、活動を続ける中で、意見を言い合える有意義な場になり、10年以上続く活動となったのです。また、QCサークル活動の推進委員として選抜した7名の社員と信頼関係を築くことができ、彼らが後に経営を支える重要な存在となったこともこの活動の成果だと感じています。

ーー採用における貴社ならではの取り組みを教えてください。

磯輪英之:
弊社は「世界一社風のいい会社をつくる」という理念のもと、社員たちが自分と家族のために働ける会社を目指しています。新卒採用を始めた年、学生向け会社説明会の場で弊社の理念を伝える際、私の家族の写真を見せて、「私のような思いで働きたいと考える人はぜひうちに来てください」と話しました。

当時採用活動を手伝ってもらっていたコンサルティング会社の方には「家族の写真を見せるのはよくない」と否定されましたが、弊社の理念を伝えるためには最善の方法だと考えたのです。

その結果、名古屋大学や大阪市立大学などで機械工学を学んだ学生を計4名採用することができ、そこから継続して会社説明会で家族の写真を見せるようになりました。後に社員から「社長の家族の写真が印象に残って入社を決めました」と言われることが多く、周りのやり方に捉われず自分たちが目指していることをしっかりと伝えることが大切なのだと感じました。

「ISOWAビト」として一体感のある社内風土を確立

ーー貴社の事業内容を教えてください。

磯輪英之:
弊社は、段ボールシートや段ボール箱の製造機械の開発から製造、販売、さらに購入いただいた機械のアフターサービスまで一貫して行っています。創業者である祖父は機械の品質を最も重視し、2代目として会社を継いだ父は海外ビジネスに力を入れ、アメリカやヨーロッパなど世界中に販路を拡大しました。

ーー風土改革においてどのようなことを大切にしていますか?

磯輪英之:
社員たちが「自分たちは会社から大切にされている」「きちんと見てもらえている」と感じられることが重要だと考えています。また、会社として一貫したビジョンを社員と共有し、会社全体で同じ方向に進んでいくことが社員のモチベーションにもつながるでしょう。

採用では、今いる社員たちが一緒に働きたいと思えるかどうかを重視しています。その結果、会社全体で目標実現までのプロセスを楽しめるような関係性を築けていると思います。

ーー2024年にポーター賞を受賞されていますね。

磯輪英之:
名だたる上場企業が受賞する中で、弊社のような知名度の低い企業が受賞できたことを嬉しく思います。審査員の先生方は、戦略において最も重要なのは他社が真似できないことだとしたうえで、弊社の模倣困難性は社員である「ISOWAビト」だと評価してくれました。長い時間をかけてそのような評価を受ける風土を築き上げたことが、弊社の最大の強みだと感じています。

能動的なサービスと全社を挙げた商品開発で顧客満足度向上を目指す

ーー注力していることを教えてください。

磯輪英之:
15年ほど前までは、機械を売ることがゴールだと考え、アフターサービスには力を入れていませんでした。しかし、お客様にとって機械を買うことはスタートであると考えるようになったのです。従来、機械が壊れたり調子が悪いときにお客様から連絡をいただいて対応する受け身の体制でしたが、現在は事前にサービスのラインナップを明記し、内容を充実させる取り組みを行なっています。

また、現在取り組んでいる新しい機械の開発では、お客様や社内の意見を反映させることを重視しています。これまでは開発部門がある程度完成させた内容に対して営業部門が意見を出していましたが、開発をスタートする段階で、普段からお客様と接している営業部門の意見を取り入れ、全員が納得してつくった機械を自信を持って販売できるように開発を進めています。

編集後記

長年にわたる風土改革を経て、人こそが最大の強みだと語る磯輪社長。優れた製品やサービスを生み出すためには、社員が主体的に行動できる土壌をつくることが大切なのだと改めて感じた。社員の幸せがお客様の幸せにつながると信じ、全体が同じ方向を向いて進む株式会社ISOWAの推進力は計り知れない。

磯輪英之/1955年愛知県生まれ、一橋大学卒業。商社勤務を経て30歳で名古屋に戻り、祖父が創業した株式会社ISOWAに入社。2001年に4代目代表取締役社長に就任。2018年に「日本でいちばん大切にしたい会社大賞 審査委員会特別賞」、2024年には、優れた競争戦略を実践する会社に贈られる「ポーター賞」を受賞。