
丸市株式会社は冷凍食品と雑豆を取り扱うユニークな食品商社であり、同時に独自の商品開発というメーカー的な機能も合わせ持っている。国内における食材の安定供給の確立に加え、グローバル市場との強固なつながりがさらに新しい市場を切り開こうとしている。同社の代表取締役社長の大澤秀毅氏に、企業の成り立ちや事業の強み、そして未来に向けたビジョンについてお話をうかがった。
さまざまな経験と人との信頼関係が実を結び、食品商社設立の道へ
ーー丸市の社長就任までの歩みをお聞かせください。
大澤秀毅:
私は大学卒業後、株式会社東食(現:カーギル東食)に入社し、冷凍野菜の営業担当として食品業界の基礎を学びました。そこで培った知識や営業スキルはその後のキャリアに大いに役立ちましたが、1997年に東食が経営破綻し、社会の厳しさを実感することになります。
その後、日商岩井株式会社(現:双日株式会社)に転職し、水産部門の営業を通じて冷凍野菜とは異なる水産業界の難しさを実感するなど、さまざまな経験を積むことができました。この転職は私にとって新しい業界に挑戦し、業界全体の流れを広い視野で学ぶ貴重な機会だったと思います。
そして、日商岩井在職中に、以前の取引先やサプライヤーからの強い後押しがあり、彼らの信頼と支援を受け、2000年に株式会社ユニパック・ジャパンを設立するに至りました。その後、2017年に株式会社丸市商店と事業統合し、社名を株式会社ユニパック・ジャパンから丸市株式会社に変更し、同社の代表取締役として新たなスタートを切りました。
ーー最初の独立時に経験した苦労や、心に残っている出来事について聞かせてください。
大澤秀毅:
恥ずかしながら独立当初に、資本金が足りず、一部資金をお借りして会社をスタートしたことは今でも忘れられません。初めてのオフィスは、パイプ椅子と電話一本という非常に簡素なものでした。それでも、独立前からお付き合いのあった海外サプライヤーから、代理店契約の話をいただき、国内の取引先からも、資金面を含めた支援をいただきました。
そういった周囲の支えもあり、事業は少しずつ軌道に乗り始め、現在も弊社の重要取引先であるお客様のプレゼンで紹介した商材が採用され、爆発的なヒット商品につながりました。この成功体験を足がかりに、5年目には売上15億円を達成したのです。この経験は私にとって大きな財産であり、今でも「かけがえのないもの」として大切にしています。
「冷凍食品」と「雑豆」の二本柱で独自の商品開発を展開

ーー貴社ならではの特徴や強みを教えてください。
大澤秀毅:
2017年に70年の歴史を持つ雑豆問屋の丸市商店とユニパック・ジャパンが事業統合し、現在の丸市株式会社が誕生しました。この統合により丸市は冷凍食品と雑豆という二つの柱を持つ独自のポジションを築いています。
冷凍食品部門ではメキシコの冷凍カボチャパッカー(メキシコで唯一の冷凍カボチャ工場)と連携して、高品質な冷凍カボチャを安定供給しています。さらに、解凍せず、そのままお弁当に入れられるブロッコリーなど、利便性と使いやすさを追求した商品開発にも取り組んでいます。
雑豆部門では液体に溶けて冷蔵庫で凝固する豆のパウダーなど独自の製品を市場に提供しています。これは、嚥下のできない方の介護食やプラントベースフードの結着剤の代替品等、価格競合に巻き込まれない差別化商品として営業を行っています。このように各事業分野において、常に新しい価値を提供し続けることが、弊社の優位性に繋がるものと考えています。
また、弊社はカナダやメキシコを始めとしたさまざまな海外の会社と強固なパートナーシップを結び、長期的に安定して供給できる体制を構築しています。このように現場に軸足を置いて顧客との信頼関係を築いているのも、大きな強みですね。
未来の市場を見据えた成長戦略
ーー人材育成で注力しているポイントについてお聞かせください。
大澤秀毅:
弊社の理念は「いつも、子供達に誇れる企業を目指す」というものです。この理念を実現するため、挨拶や約束を守るなど、基本的な行動規範を徹底しています。新入社員には早い段階から責任ある業務を任せ、成長の機会を提供することにより、自身の役割に責任を持ち、会社に対する意識を高めることを目指しています。
さらに社内研修やOJTを通じて、次世代の社員がグローバルに活躍できる力を養えるよう人材育成にも力を入れています。それぞれが国際的な視野を広げ、自己成長を遂げることができる体制づくりを進めています。また、育った人材が海外の工場監査や新規サプライヤー開拓にも挑戦できる環境を整え、現場での実践的な経験を積む事で成長につながるように支援していきたいと思っています。
ーーこれからのビジョンをお聞かせください。
大澤秀毅:
まず、国内外での安定供給をさらに強化していきたいと考えています。そのため、新たな産地の開拓によりリスク分散を進めているところです。現在は、アフリカの産地開拓に力を入れており、これが次の事業の柱の1つになると期待しています。
また、商社と同時にメーカー機能にもより力を入れ、冷凍食品や雑豆の新商品を開発し、さらなる市場の開拓を図るとともに、より多くの顧客に満足していただける商品を提供していきたいですね。
採用においてはグローバルで活躍したい人材を積極的に登用する方針です。今後、人口減少に伴い国内市場が縮小していく中、海外市場での成長を重視しなければなりません。そのため、優秀なグローバル人材を世界中から集め、より強固な企業基盤を築いていきたいと考えています。
編集後記
冷凍食品と雑豆という食の中でも一見異なるものを扱うことで、逆に独自性を発揮してきた丸市株式会社。大澤社長の視線はいつも国内外、両方の市場を見通している。今後の日本市場の縮小や高齢者の増加は克服する課題であると同時に、新商品を生み出す切り口も与えてくれる。今後、さらにアフリカを中心に進めるというグローバル展開の戦略は、企業戦略であると同時に、世界中の安定した食を見据えたものかもしれない。

大澤秀毅/1966年、東京都生まれ。成蹊大学卒業後、株式会社東食(現:カーギル東食)で冷凍食品営業を経験。その後、日商岩井株式会社(現:双日株式会社)を経て2000年に株式会社ユニパック・ジャパンを設立。2017年、株式会社丸市商店の雑豆事業を統合し、現在、丸市株式会社の代表取締役として再出発。現在は冷凍食品と雑豆の事業を通じて、国内外で活躍する食品商社を率いている。