
タピオカドリンクが日本に広まり、今や、コンビニやスーパーでも気軽に購入できるほど広く浸透している。その背景には、2000年に日本初のタピオカ専門ブランドを立ち上げ、異国の地で挑戦を続けたある先駆者がいる。
株式会社ネットタワーの代表取締役社長である江野俊銘氏は、台湾出身の留学生として来日し、日本にタピオカ文化を根付かせるという挑戦を成功させた。今回は、江野社長に起業のきっかけ、事業成長の秘訣、そして今後の展望について話をうかがった。
台湾の文化を日本で広める情熱が生んだ起業
ーー起業の経緯を教えてください。
江野俊銘:
私は1976年に台湾で生まれ、高校を卒業した1994年に日本に留学しました。当初は異国での生活に戸惑いもありましたが、日本の文化や人々との交流を通じて、新しい価値観を学びながら、アルバイトを通じて多様な経験を積みました。国際電話代理店での営業や飲食業の仕事などを経験する中で、「自分のルーツを生かした形で日本に貢献したい」と強く思うようになったのです。
特に台湾で親しまれているタピオカに注目しました。当時、台湾では人気が高かったタピオカですが、日本ではその存在がほとんど認知されていませんでした。そこで、「日本の人々にもこの楽しさを伝えたい」という思いから、2000年に設立したのが有限会社ネットタワーです。
ブランド展開で広がるタピオカの魅力
ーー成功のきっかけとなったエピソードを教えてください。
江野俊銘:
2001年に立ち上げた日本初のタピオカ工場が、成功への大きな一歩でした。当時の日本ではタピオカ自体馴染みがなく、輸入の難しさや市場の未知数など課題は山積みだったことから、国内生産への切り替えを決断したのです。当時は不安でしたが、結果として、安定した供給で高品質なタピオカを届けられるようになり、日本市場での信頼を築くことができましたね。
また、2003年にスタートした「Pearl Lady(パールレディ)」ブランドも事業の転機でした。「安くておいしい」をコンセプトに、若者が手軽に楽しめる価格設定を採用しました。当時、タピオカドリンクは高価なイメージがありましたが、この戦略によって広い層に受け入れられたのだと思います。
お客様から「初めて飲んだけど、こんなに楽しい飲み物があるなんて」と言われたときの喜びは、今でも忘れられません。こうした挑戦がなければ、タピオカドリンクは今のように日本で浸透することはなかったと思います。
ーー貴社の事業の強みを教えてください。
江野俊銘:
ネットタワーの強みは、タピオカの製造から販売までを一貫して行える体制にあります。タピオカは温度や湿度の管理が求められる繊細な素材であり、取り扱いには高い技術が必要です。自社工場で生産することで品質を安定させ、常に最高の状態でお客様にお届けしています。この一貫したプロセスが、お客様からの信頼を得る原動力となっているといえるでしょう。
さらに、ブランド展開の多様性も強みの一つです。「パールレディ」はリーズナブルな価格設定で10代・20代から支持を集め、「PEARL LADY CHA BAR」ではお茶文化との調和を図り、より広い層へアプローチしています。
近年では、コーヒーに特化した新ブランド「COVERT COFFEE」にも挑戦し、さらなる可能性を切り拓いています。こうした多角的なアプローチが、多くの顧客層に支持されている理由だと思います。私たちは単に製品を提供するだけでなく、ブランドごとの体験を通じて「ネットタワーらしさ」を感じていただけることを目指しています。
グローバル展開を見据えた次世代戦略

ーー現在の飲食業界で感じる変化や課題はありますか?
江野俊銘:
大きく変わったと感じるのは、デジタル化の進展と、コロナ禍による消費行動の変化です。特に新型コロナウイルスの影響で、テイクアウトやデリバリーサービスの需要が急速に拡大しました。弊社もそれに対応する形で、オンライン注文や配送対応を強化し、店舗での接触を減らす仕組みを整えました。
さらに、AI技術の活用も重要なトレンドだと感じています。需要予測や在庫管理の効率化にAIを導入することで、無駄を削減し、スムーズにお客様のニーズに応えられる体制を整えています。飲食業界全体が新しい技術に適応していく中で、私たちも積極的に取り組んでいます。
一方で、最新技術に頼るだけでなく、アナログ的な「人の温かさ」を大切にする姿勢も重要であると考えており、このバランスを保つことが、これからの課題だと感じています。
ーー海外展開についての課題や目標を教えてください。
江野俊銘:
世界では日本品質のタピオカに対する期待が非常に高く、今後は海外展開にも注力していきたいです。たとえば、現地のパートナー企業と協力しながら、OEM事業を活用することで、「和」と「食感系飲料」を掛け合わせた新たな商品など、現地の消費者により身近な形でタピオカドリンクを楽しんでいただけるのではないかと考えています。
日本国内で培った高い品質と豊富なノウハウを海外に広げ、新たな市場を切り拓いていきたいです。私たちのタピオカが、アジアをはじめとする地域で新たな文化として根付く未来を想像すると、とてもワクワクしますね。
また、弊社には「幸せの創造」という言葉があります。この言葉には、お客様にも社員にも「ここに関わってよかった」と思っていただける場をつくりたいという思いを込めています。
お客様には、商品やサービスを通じて喜びや感動を提供し、「また来たい」「ここで過ごしてよかった」と感じていただける体験をお届けしたいと考えています。一方で、社員にとっても、働く中でやりがいや成長を実感し、「この会社で働けてよかった」と思える環境を整えることを重視しています。
編集後記
江野俊銘社長の語る「幸せの創造」という言葉には、単なる事業の成功を超えた強い使命感が込められている。タピオカ文化を日本に根付かせるため、未知の市場で挑戦し続けた江野社長の熱意には、人々の心を強く打つものがある。
ゼロから信頼を築き、業界を牽引する存在となった株式会社ネットタワーは、今や日本国内にとどまらず、世界を舞台にさらなる飛躍を目指している。タピオカという一見小さな存在が、世界中に笑顔と感動を届ける未来が楽しみだ。

江野俊銘/1976年、台湾生まれ。1994年に来日し、東京国際大学を卒業。在学中の2000年に有限会社ネットタワーを設立。2001年には日本初のタピオカ工場を設立し、2003年に「パールレディ」ブランドを立ち上げる。現在は複数のブランドを展開し、タピオカ文化を日本に広めた第一人者として知られる。