
株式会社ソルト関西は、塩の専売制の廃止に伴い、関西の塩卸会社6社が統合して誕生した会社だ。現在は塩だけにとどまらず、だしや醤油などの調味料の販売も行い、食品の総合卸として新たな道を歩み始めている。
塩の販売の自由化といった業界の大きな転換点を乗り越えたエピソードや、顧客の信頼を得るための戦略などについて、代表取締役社長の山本博氏にうかがった。
塩の専売制の廃止に伴う業界の大きな変化
ーーまずは家業に入られた経緯をお聞かせください。
山本博:
大学卒業後は修行を兼ねて別の企業に就職し、ある程度経験を積んでから家業に戻ろうと考えていました。しかし、大学3年生の終わりに父の病気が発覚したため、卒業後すぐ社員として働くことになりました。
そのために4年生の夏休みから家の仕事を始め、他の従業員と同様に見習いからスタート。塩の運搬などの雑用もこなしていましたね。そのまま家業を継いだので、これまで塩の卸売業の仕事一本で生きてきました。
ーー2001年に関西を拠点とする塩の卸会社と統合し、ソルト関西が設立された経緯を教えていただけますか。
山本博:
私が社長に就任して4〜5年経った1997年に、規制緩和の流れを受けて専売制が廃止されることになったのが大きな転機でした。
日本では1905年以降、特定の業者だけが塩の販売ができる専売制度が設けられていたのです。エリアごとに国から指定された卸会社があり、私たちは代々神戸で塩の卸会社を営んできました。ところが、専売制が廃止されることで塩の製造や輸入、流通が原則自由となり、卸売会社以外も塩の販売ができるようになったのです。
塩の販売の自由化に伴い、市場競争が激化することが予想され、私たち卸会社は経営の見直しを余儀なくされました。制度の廃止から販売が自由化されるまで5年の猶予期間があったため、その間に今後の方針を話し合うため関西エリアの卸会社が集まり、議論を重ねました。
結局、11社のうち4社が廃業。1社はそのまま単体で経営を続ける道を選び、私が経営していた会社を含め残った6社が統合してできたのがソルト関西です。
新体制で混乱する組織を立て直し、経営の合理化を指揮
ーー統合後の様子を教えてください。
山本博:
6社を統合した結果、従業員はトータルで約140人となり、拠点は関西エリアの中で40近くも点在する状態でのスタートになりました。しかし、この統合は前向きなものではなく、自社だけでは生き残っていけないため、必要に迫られた上での判断の結果。
そのような状況なので、規律や統制、秩序が取れていない、なかなか足並みがそろわない、ただ寄り集まっただけの“烏合の衆(うごうのしゅう)”のような状態でした。しかも、何か問題が起きると犯人探しが始まるなど、社内の雰囲気は殺伐としていましたね。
そうこうしているうちに他業種の事業者が塩の販売を開始し、専業者である弊社は太刀打ちできない状況に陥ります。初年度こそ売上が高かったものの、翌年以降はみるみるうちに下がっていきました。
ーー新会社の窮地をどのように打開していったのですか。
山本博:
会社の設立から2年半後に社長に就任した私は、「このままでは経営が成り立たない」と考え、拠点の統廃合を決定しました。それに伴い人員の配置転換を行い、現在拠点は4ヶ所に集約、従業員数も半分弱に削減。こうして経営を集約化したことで、利益率の向上につながりました。
また、組織改革にあたり、各拠点の営業スタッフを本社に集め、今後の方針について徹底的に話し合いを重ねました。その中で議題に上がったのが、物流の外注化に伴う輸送コストの削減です。
効率的な商品輸送をするため、新商材の販売にも着手しました。商品数を増やせばトラックの空きスペースがなくなり輸送費の無駄を省け、さらに新たな収入源が生まれ、経営の安定化にもつながると考えたのです。この時点では塩の販売で得た分の資金が残っていたため、財政的に余力があるうちにと新しいチャレンジに打って出ました。
その結果、塩や関連商品以外の商品が全体の約20%を占めるようになり、事業を支える大きな柱となりました。
幅広い依頼に対応し、お客様に一番近いパートナーへ

ーー改めて貴社の事業内容と特徴をお聞かせください。
山本博:
塩や砂糖、グルタミン酸のほか、だしや醤油、など主に調味料の卸売業を行っています。「食品の総合卸」を目指していますが、食に関するものは、たとえ僅かな原材料でも積極的に扱う事を旨としています。
もともと塩のお取引先は大変幅広く、次にどんなチャンスが有るか分からないからです。他業態で塩も扱うようになった昨今では、塩の販売だけに特化していてはあっという間に淘汰されてしまいます。
そこで、お客様のところに足しげく通い、「お困りのことはないですか?」とお声がけし、どんな小さな仕事でも引き受けるようにしています。既存の得意先を回るルートセールスが基本ですが、常に新しいことに挑戦し続けているため、仕事がマンネリ化することはないですね。
そのためにも、「ソルト関西さんはいろいろな依頼に応えてくれるから今後も取引を続けたい」と思ってもらえるよう、これからも幅広いニーズに応えるオールラウンダーを目指していきます。
食品の総合卸として売上200億円を達成するのが目標
ーー今後のビジョンについてお聞かせください。
山本博:
数字的な面で言うと、できるだけ早く売上200億円を達成するのが目標です。昔、専務を務めていた人が「一人当たり1億円稼げない商社は生き残れない」とよく言っていましたが、今では一人当たり2億円くらいは見込めるので、現実的な目標と考えています。
そのために、人材採用・育成にも力を入れていきたいです。どこの企業もそうだと思いますが、最近は人材確保が本当に難しい。それでも、今後は若い人材を採用して組織の新陳代謝を進めたいとも考えています。
これまでのキャリアを活かしたい方、自分のスキルをもっと伸ばしたい方に集まってもらって、ぜひ一緒に目標達成を実現したいですね。
編集後記
塩の専売制廃止という大きな環境変化を乗り越え、6社が統合してできた新組織の経営基盤の構築をけん引してきた山本社長。業界の大変革により暗中模索の中、経営の合理化を進め、新会社の事業を軌道に乗せた経営手腕には脱帽だ。株式会社ソルト関西はこれからも関西の食品業界を支え、さらなる成長を遂げることだろう。

山本博/1955年、兵庫県生まれ、同志社大学卒。大学卒業後、家業である神戸塩業株式会社に入社。同社代表取締役社長を経て、2001年、関西域内の卸売会社6社で事業統合し、株式会社ソルト関西設立。2004年、代表取締役社長就任。現在、日本の塩に関わる全国団体が連携した団体「全国塩業懇話会」会長を務めるなど、業界活動にも注力している。